おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
6月25日に事業再構築補助金事務局が公開した動画「第1回公募を振り返って ~事業計画作成のアドバイス~」では、中小企業庁の部長さんが「抽象化が重要」と言っています。これは一体なんのことでしょうか?また何をどう書けばいいのでしょうか?
部長さんが抽象化について語っている部分の文字起こし
まずは部長さんが抽象化について何を言っているか、動画をもとに文字起こしをしました。これをご覧いただきましょう。この文字起こしとともに、下記の図も一緒にご覧ください。
まさにこの理想像、もう言葉にして、まさにわざとカクカクとしかくく書いててるんですけどこれがね抽象化なんです。事業計画作って新しいお客さん探すとか、新しい取引先探すってことは、日がな全く一緒に商売も事業もしたことないような人たちでも理解できるような言葉を、組み立ててパズルのように「僕が考えている理想像はこれです」って論理で説明しなくちゃいけない。これがね、できない。
抽象化てきたから凄いって事はないと思うんだけど、ただ抽象化できないと伝わらない場面と相手がいる。とかもっとすごい大きな人を巻き込んだ運動論にしたいときは、やっぱり抽象化してコンセプトを出さないと「1週間一緒に住み暮らさないとこの言葉の意味は分かりませんから」って言ったら、運動論にならないんですよそれが。だから、具体なものを抽象化してコンセプトにしてきちっと計画に書く、その上で抽象化した言語のまま、課題と戦略をちゃんと説明をすると、常日頃付き合ってない人でも「なんとなくあの辺の事言ってんだったら、俺できるよそれ」というのが集まってくるわけ。だからまさに骨組みを先にちゃんと設計して「僕が作りたいのはこういう骨組み」っていうことを示すって作業がいるんです。
それに対して現実はこんなウニャウニャしていて、この辺にこういう差分があるから、ここにこういう新しい商品がほしい、そこには僕のこういう技術が使える、そこにはこれだけのお客さんが来るはずだ、だからいくらのお金が必要なんですっていう風に、自分がやってること、自分が直感的にここだと思っていることを言葉にしてください。そうじゃないと組み替えが起きません。組み替えが起きないと事業再構築が起きません。広告代理店業界がいかに大変かという具体的な事例を朗々と並べられても、そりゃ同情はするけど助けようがない。だからここに行く必要がある。ここなんだ。言葉にしてください。腕は知っている。多分ある。なんか脱いだらきっと太いんでしょ。すごいんだと思うけど、でもね、ここはやっぱりこっちが先に立たないとというような事が言いたくてですね、2本目のビデオをね、撮らしてくれとお願いしたわけですよ。
いかがでしょうか。何を言おうとしているかが曖昧な箇所がいくつかあって、正直に言うと僕も理解できた自信があまりありませんが、以下に読み解いていきたいと思います。
細谷功『具体と抽象』をもとに部長発言を読み解く
結論から言いますと、部長さんがいいたいのは「事業再構築をして向かおうとしている理想を、一言でいうとつまり何か?を示しなさい」ということだと当社では解釈をしました。
そもそも「抽象化」とはどういうことなのでしょうか。この分野については細谷功氏の『具体と抽象』という超有名な本があります。これによると具体と抽象とはだいたい下記の図のような関係で示されます(書籍の図をもとに、当社が加筆をしています)。抽象化というのは、具体的なものの共通点を見つけ、「つまり何?」と一言で表すようなこととイメージするとわかりやすいでしょう。下記の例ですと、マグロやカツオといったモノが具体として挙げられていますが、これの共通点を一言でいうと「魚」です。また「魚」という抽象に対して、具体化したものが、マグロやカツオです。
なぜ抽象化するのか?という理由はいくつかありますが、物事がシンプルに理解できるので、相手に伝わりやすくなるというメリットがあります。例えば「マグロとか、カツオとか、イワシとか……あとはアジやサバとか、そういうものを食べたい」と言われるより、「魚が食べたい」と言われる方がすんなり理解できます。
これは事業計画でも同じで「デリバリーもやりたい、テイクアウトもやりたい、セントラルキッチンもやりたい」などと書くと、とっちらかったイメージを聞き手に与えます。それよりも一言で「店舗型ビジネスからの脱却」などというほうがシンプルで伝わりやすいですし、小手先の何かをやるという印象ではなく戦略的な何かをしようとしてるっぽいなという印象すら与えます。シンプルにわかりやすく伝わると、認定支援機関からも「店舗型ビジネスからの脱却が理想なんだったら、予約とか注文とかもコールセンターでまとめて受けられるんじゃない?」というような助言も受けられるかもしれません。
おそらく中小企業庁の部長も、こういう抽象化をすることが、審査員も含むステークホルダーにとって理解しやすい事業計画になるのだと言いたいのだと思います。
ただし誤解をしないでいただきたいのは、具体的なことは書かなくてもよいという意味では決してありません。細谷氏の書籍の言葉を借りると、よい事業計画というのは、具体と抽象を行ったりきたりするようなものであって、どちらかに偏ったものではいけないということに留意をして下さい。
事業再構築補助金事業計画書のどこにどのように「抽象」を書けばいいか
では、事業再構築補助金事業計画書のどこにどのように「抽象」を書けばいいでしょうか。これも答えは一つではないと思いますが、まず意識したいのが「事業計画名」(30字程度)と「事業計画書の概要」(最大100字程度)でしょう。ここは審査員が必ず読むところですし、全体像を理解するためにもここから読むケースが多いと思います。そこに「事業再構築をして向かおうとしている理想を、つまり一言でいうと何か?」が書かれていると、事業計画の全体がスムーズに審査員の頭の中に入っていくことでしょう。
そして問題なのが、どのように書けばいいかという点です。これも事業計画書によるので「こう書けばよい」という唯一無二の答えはありません。ケースバイケースですが、当社が考えうるものを思いつくままに下記に列記してみますので、こういう表現にするのかというイメージを掴むのに役立てて下さい。
- ○○からの脱却
- ○○への依存の解消
- 新たな連携・ネットワークの形成
- 製造業(小売業・卸売業)のサービス化
- 受注型から開拓型への転換
- 脱下請・拡下請・親企業(顧客)の分散化
- サプライチェーンの多元化・現地化
もちろんこれだけではないでしょう。中小企業白書などを見ていると、こうしたキーワードはよく出てきますので、参考にしてみて下さい。
ただし「抽象化」は必要だけれども十分ではない
わざわざ動画にして「抽象化」について触れるくらいですので、この部長さんにとっては「抽象化」した理想を事業計画に書き落とすことをとても重視していることがわかります。しかし「抽象化」したからといって、それがすなわち採択に直結するわけではありません。この「抽象化」以外にも審査項目はたくさんありますし、そもそもこの「抽象化」の重要性を審査員全てが等しく同じレベルで理解しているとも限りません。
「抽象化」とは、つまり何?をシンプルに伝え、計画の読み手にとってわかりやすくする効果があることは間違いはありません。これは事業計画書でも必要な考え方ではありますが、「抽象化」をしているからといって採択のためには十分ではないということはよく理解をしておいてください。