おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
いつも補助金情報ばかりで少し飽きてきたこともあって、今日は久しぶりの本業(ISO審査員)に関する情報発信です。英国の審査要員評価登録機関であるCQIによると、国際標準化機構TC176/SC2は、ISO9001:2015の規格改定を当面しないという決定をしたそうです。
ISO9001:2015の規格改定に関するCQIの記事はこちら
4月29日のCQIホームページにおける記事で、ISO9001:2015の規格改定に関する最新情報が述べられています。記事のタイトルに結論が現れていますね。
Members of the International Organization for Standardization (ISO) Technical Committee 176, Sub-Committee 2 (TC176/SC2) have taken the surprising decision not to proceed with the much-anticipated update of ISO 9001:2015.
(拙訳:国際標準化機構 技術委員会(TC176)の分科会(TC176/SC)のメンバーは、待ち望まれているISO9001:2015の改定を進めないという驚くべき決定をした。)
ISO9001規格の改定は過去4回
ISO9001は1987年に初版が発行されて以来、1994年版、2000年版、2008年版、2015年版と4回の改定が行われました。改定にあたっては、前版の発行から5年を目処に、改定の必要性を検討することになっています。改訂が決まった場合は、技術委員会(ISO9001の場合はTC176)の中に分科会(SC2)を設置して改訂案を作ります。「作業原案(WD)」→「委員会原案(CD)」→「国際規格原案(DIS)」→「最終国際規格案(FDIS)」を発行し、全加盟国にの賛否の投票を投げかけ、承認されると「国際規格(IS)」として新規格が発行されます。
2020年にTC176/SC2によるレビューが行われた
上記のプロセスに従って、2020年にTC176/SC2により、規格改定の必要性があるかどうかの検討が行われたのでしょう。これに関して、CQIは次のように報じています。
In 2020, TC176/SC2 undertook a systematic review of ISO 9001:2015. It also conducted survey of ISO 9001 Users. The purpose of the survey was to gather the thoughts of ISO 9001 end users on the current version of the Standard and to secure their ideas as to what new material the next edition of the Standard should contain.
In addition to the systematic review, and results of the user survey, TC176/SC2 took into consideration:
- A report on the Future Concepts and brand integrity
- A report on the potential impacts of the revision of the Annex SL “High Level Structure” on ISO 9001
(以下、拙訳)
2020年、TC176/SC2は、ISO9001:2015に関する計画的な検討を行った。あわせて、ISO9001ユーザーの調査も行った。調査の目的は、ISO9001の認証取得組織(エンドユーザー)の持つ現行の規格に関する考えを収集し、規格を次の版に改定するとしたらどのような新しい材料を含めるべきかについてのアイデアを得ることにあった。
計画的な検討とユーザー調査の結果に加えて、TC176/SC2は次のことを考慮に入れた。
- 将来像とブランド統合についての報告
- ISO9001に関する附属書SL "上位構造"の改定に伴う潜在的なインパクトについての報告
(筆者注:附属書SLとはISO9001の規格作成に関するガイドラインであり、"上位構造"とは規格の章立てのこと)
レビューの結果「変えない」という結論に。2030年までは次の改定はない?
レビューの結果については次のように報じています。
The review resulted in a majority vote to leave ISO 9001:2015 unchanged. This may mean that, following a further systematic review starting in 5 years, plus time for the review, and then allowing for 3 years of development time, a new edition of ISO 9001 may not be published until 2030.
Many users wish to see the standard revised to improve clarity and to give greater value to users. The business environment is changing so quickly, with factors being accelerated both by the Covid-19 pandemic and by the continued pace of digital transformation.
Consequently, it is proposed that a project should be started at the preliminary stage of the standard lifecycle, to examine if a revision of ISO 9001 should be started earlier than would usually be determined through the review process.
(以下、拙訳)
当レビューの結果、多数決によりISO9001:2015を変更しないと決まりました。つまり今後5年以内に計画的に行われるレビュー、レビューに要する期間、および3年の開発期間を考慮すると、ISO9001の新しい版が2030年まで発行されない可能性があることを意味します。
多くのユーザーは、より明確で、より大きな価値をユーザーに与えるため、規格が改訂されることを望んでいます。ビジネス環境は急激に変化しています。そうした変化の要因も、Covid-19の流行と絶え間なく進むデジタルトランスフォーメーションの両方によって加速しています。
したがって、今後の規格改定作業は、規格のライフサイクルの初期段階で開始し(筆者注:次のレビューサイクルの早い段階で、という意味か)、ISO9001の改定をレビュープロセスで通常決定されるよりも早く始める必要があるかどうか、検討すべきと提案されています。
ここで「(次の版は)2030年まで発行されない可能性がある」と書かれていますね。ただ、ビジネス環境が思いの外速く変化をしているので、次の計画的な(原則5年に一度の)規格レビュープロセスは早めに行うべき、というような提案があったことも示されています。