皆さんはリーダーシップと聴くと、どういうことをイメージするでしょうか。やはり「俺についてこい」と強く組織を引っ張るような、カリスマあるリーダーシップを想像する人が多いのではないかと思います。
今日はそんなリーダーシップが引き起こす逆効果の可能性についてお話したいと思います。
商店街や繁華街に店舗を構える精肉販売業について
この会社は、50年ほど前に先代である創業者が立ち上げて以来、直営店舗を複数構えるようになったほか、大手のスーパーや食品メーカーのOEM商品を扱うようになり、郊外には従業員200名近くを抱える自社工場を有しています。
精肉店を取り巻く環境は厳しいものです。中心市街地の空洞化や少子高齢化、そして狂牛病や牛肉偽装事件、セシウム汚染などの牛肉に対する信頼性を損なうような諸事件の影響によって、当社の売上も徐々に減少。最盛期であった2000年代前半と比較し、4割程度売上が減少していました。このような経営環境の下、先代から経営を引き継いだ二代目社長は、各店舗と自社工場の販売シナジーをいっそう高めるために、店舗で収集した顧客ニーズに基づいて、自社工場で独自製品を開発・製造するという、製造小売業への転換を目指すことにしたのです。
創業者の強いリーダーシップ
当社は創業者が強いリーダーシップを発揮して、規模を拡大してきたという経緯があります。精肉の職人として、またマーケッターとしての経験が豊富な創業者は、次々とイノベーションを実践し、新商品開発、多店舗展開、レストラン部門や卸売部門の創設、大手食品メーカーからのOEM商品製造の受託などを手がけてきました。その過程で創業者は従業員に対しては、細かい指示を出し、厳しい態度でその推進を果たしてきました。
経営を息子である新社長に譲った後も、店舗に足を運び、作業や陳列方法についての細かい指示を出していました。創業者による、部下を管理し統制するリーダーシップで会社が成長をしてきたことは疑いがありませんが、その反面、創業者の行動力に現場の従業員は依存する傾向にもありました。製造小売業への転換には、顧客ニーズを店頭で収集し、それを製品開発に活かすという取り組みが必要でしたが、店長以下の従業員は、従来通りの販売活動に終始し、店頭では顧客ニーズの収集や整理は一切行われないままでした。
その中で自主性を発揮する店長
しかしある店舗の店長は、部下である従業員を巻き込みながら、顧客ニーズの収集を進めていきました。具体的には、常連客の来店履歴と購買履歴を記録すること、近畿圏の同業他社を調査することでした。毎日の朝礼で、それらの取り組みの計画とその進捗状況を、店舗の全員で共有をしました。月に1度、新社長に対する報告会には、店長だけではなく店舗の従業員も参加させていました。その結果、自分たちで立てた計画は、すべて計画通りに実行。収集したニーズを踏まえ、新規商品の提案、既存商品の改良、量目の見直しなどを行いました。中には成果が出なかったものもありましたが、他店舗と比較してもいち早く来客数の減少に歯止めをかけることができたのです。
他の店長と何が違うのか?
この店長と他の店長の大きな違いは、他の組織で働いた経験の有無にあると思います。取り組みがほとんど行われない店の店長は、10代で入社してから40年以上もの間、ずっと創業者の下で働いてきました。一方、取り組みが行われた店長は、入社時こそ創業者の下で働いていたが、郊外の自社工場へ出向した経験があったのです。B社の店舗は平均して5~6名程度の組織規模である反面、工場では一つの職場であっても20~30名規模の組織でした。また、工場では創業者が陣頭指揮を振るうことはなく、創業者から工場運営を任されている取締役が指揮をしていたのです。
仮説としての「カリスマあるリーダーシップの逆効果」
これは私の仮説にすぎませんが、この店長が自主性ある取り組みを推進できたのは、カリスマあるリーダーシップの届かない組織で仕事をした経験があることが要因ではないかと思っています。カリスマ不在だからこそ、自主的に試行錯誤して仕事をしないといけないという環境に身を置いたので、自主性を発揮する術を学んだのでしょう。
創業者のリーダーシップがよくないと言いたいのではありません。会社を成長させる上でおおいに創業者のリーダーシップが効果を生んだのは間違いないでしょう。
しかし何事にも、光があれば影もあるものです。強いリーダーシップは、時に従業員をリーダーに依存させ、自主性を奪ってしまう――そんな逆効果もあるのかもしれません。