おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
11月8日、新しい資本主義実現会議(第2回)が開かれ、政府が提出した「緊急提言(案)」に対して有識者がコメントをする形で開かれました。「緊急提言(案)」における中小企業政策部分について解説をします。事業再構築補助金に関する要件見直しにも言及されています。
新しい資本主義実現会議(第2回)議事次第と資料はこちら
政府が提出した「緊急提言(案)」における中小企業政策
成長戦略(P2~P11)
構成な競争を進めるための競争政策の強化
我が国でも、専門性の高い外部人材も活用しつつ、スタートアップ・中小企業の取引の適正化や通信等のデジタル市場・電力等のエネルギー市場といったインフラ分野などをはじめとして、公正取引委員会による唱導機能の実効性を強化する。
(「緊急提言(案)」P7より)
これは、かねてより政府が推し進めている下請取引の適正化のことを指しているのだと思います。
地域金融機関を含めた地域の中小企業のDXの面的・一体的な推進
地域金融機関が、面的・一体的に地域の中小企業のDXを推進するため、改正銀行法に基づき、子会社を設立する等により、地域の中小企業のDXを支援する業務を展開する。これにより、地域金融機関が各地域における官民連携の面的なDXの推進の取組に積極的に参加することを促す。
(「緊急提言(案)」P8より)
近年の金融機関では、中小企業が利用するクラウド会計ソフトデータを使って資金需要に応えたり、中小企業の事務効率性向上に資するようなサービスを展開する動きが見られます。また、電子データ交換システム(EDI)に、銀行が構築する決済プラットフォームを接続させることで、企業が受発注データ(商流データ)と決済データ(金流データ)を同時に確認でき、消込作業を自動化できるような動きもあります。こうした動きの促進のことを言っているのだと思われます。
観光立国復活に向けた観光業支援
GoToトラベルなどの消費喚起策については、感染状況を十分に踏まえつつ、ワクチン接種証明や陰性証明を活用して、より安全・安心を確保した制度に見直すとともに、週末の混雑回避の工夫や中小事業者への配慮についても検討し、再開に向けた準備を整える。
(「緊急提言(案)」P10より)
高級ホテル・高級旅館のほうが割安感があるため、昨年のGoToトラベルでは稼働率を落とした中小ホテル・旅館もありました。こうした中小ホテル・旅館への対策を検討するものと思われます。
分配戦略(P12~17)
労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業に対する税制支援の強化
労働分配率の向上に向けて、賃上げに積極的な企業への税制措置(中略)など、 制度を抜本的に強化することを検討し、本年末の来年度税制改正において結論を得る。なお、 赤字の中小企業における賃上げも支援するため、補助金の要件として賃上げを考慮することを検討する。
(「緊急提言(案)」P12より)
与党の選挙公約でもあった賃上げ税制の拡充のことを指しているのでしょう。また「赤字の中小企業における賃上げも支援するため、補助金の要件として賃上げを考慮することを検討する」とあります。いま、「ものづくり補助金」では、賃上げが応募者に対して必須要件となっていますが、この賃上げ要件が他の補助金(持続化補助金、IT導入補助金、事業再構築補助金等)にも適用される可能性が見て取れます。
労働移動の円滑化と人的資本への投資の強化
中小企業については、労働者の労働生産性の向上を図るため、人材能力の開発に重点を置く。
(「緊急提言(案)」P13より)
これは具体的にどういう施策に落とし込まれるのかよくわかりませんが、人材開発支援助成金などの拡充のことを指しているのかもしれません。
正規雇用と非正規雇用の同一労働同一賃金の徹底及び最低賃金の経済状況に応じた引き上げ、働き方改革
感染症の影響を受けて厳しい業況の企業に配慮しつつ、雇用維持との両立を図りながら賃上げしやすい環境を整備する。このため、生産性向上等に取り組む中小企業への支援強化、下請取引の適正化、金融支援等に一層取り組みつつ、最低賃金について、感染症拡大前に我が国で引き上げてきた実績を踏まえて、地域間格差にも配慮しながら、より早期に全国加重平均1,000円とすることを目指す。
(「緊急提言(案)」P14より)
「生産性向上等に取り組む中小企業への支援強化」というのは、中小企業生産性革命促進補助金(ものづくり補助金、持続化補助金、IT導入補助金)の延長・拡充のことを指しているのだろうと思われます。
中小企業の事業継続・事業再構築・生産性向上の支援
コロナ禍の中で、資金繰りの円滑化を図り、中小企業の事業継続の支援に万全を期すとともに、ウィズコロナ、グリーン、デジタル化といった構造変化に直面する中小企業の事業再構築や生産性向上を支援する。特に事業再構築補助金については、宿泊施設における施設改修、飲食店におけるデリバリー販売の導入、オンラインでの商品やコンテンツの販売のための機器の導入、将来を見据えてガソリン車向け部品の製造から電動車部品の製造へ転換するための設備投資など、幅広い取組を強力に支援していく必要がある。このため、売上減少要件の緩和や特別枠の設定など拡充を図り、より多くの中小企業の前向きな挑戦を支援する。
(「緊急提言(案)」P14~15より)
これも中小企業生産性革命促進補助金(ものづくり補助金、持続化補助金、IT導入補助金)や事業再構築補助金の延長・拡充のことを指していると思われます。公明党の公約にあった「グリーン・デジタルトランスフォーメーション補助金(仮称)」のことかもしれません。
また事業再構築補助金については重要な示唆があります。一つは「宿泊施設における施設改修、飲食店におけるデリバリー販売の導入、オンラインでの商品やコンテンツの販売のための機器の導入、将来を見据えてガソリン車向け部品の製造から電動車部品の製造へ転換するための設備投資など」と、具体的な産業が名指しされています。財務省が現在の事業再構築補助金の運用のあり方を批判し、「真に必要な事業者に適切な支援が行き渡るような見直しが必要だ」と主張したという報道もありましたが、優遇される業種が特別枠などで設定される可能性があります。
もう一つの示唆は、売上減少要件の緩和の可能性です。どの程度緩和されるかはわかりませんが、これまで売上減少要件が理由で応募できなかった企業も応募できる可能性が開けるでしょう。
中小企業の私的整理等のガイドラインの策定等
中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理等のガイドラインの策定について、金融機関団体、中小企業団体、実務家等による検討を行い、本年度内に策定し、来年度から運用を開始する。あわせて、個人保証が事業再生の早期決断の大きな阻害要因にならないよう、経営規律の確保に配慮しつつ、経営者保証に関するガイドラインの内容を明確化し、活用を促すことを検討する。事業再生に関わる私的整理等に対する金融機関等の取組を促す施策を検討する。
(「緊急提言(案)」P15より)
今年6月に公表された政府の新成長戦略にも盛り込まれたものであり、これも政府の既定路線です。手続きが重く複雑な法的な破産処理ではなく、金融機関同士の協議等で簡便かつ低コストに事業の再生に取り組める私的整理を行いやすくするための法整備のことを指しています。企業と取引金融機関の話し合いに基づく私的整理は、法的整理に比べて事業の継続をしやすかったり、企業価値の毀損が少なかったりする特徴があります。