おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
ISO9001各箇条解説シリーズ、今日から箇条8「運用」の解説をします。箇条8「運用」は、マネジメントシステムの核に当たる部分ともいえる、とても重要な部分です。まずは箇条8.1の「運用の計画及び管理」について解説します。
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マネジメントシステム全体における箇条8の位置付け
では箇条8の解説をしますが、まずはマネジメントシステム全体における箇条8の位置付けから見ていきましょう。
マネジメントオシステムはPDCAサイクルになっているという話は、この解説でもずっと話してきたことですが、箇条8は、PDCAサイクルにおけるD(ドゥ)の中のD(ドゥ)、という位置づけです。
この図の一番外枠にある、青い箱が経営レベルの(つまり社長や幹部が主に行う)PDCAです。
青い箱には、いわば入れ子状になって、また別のPDCAがあります。これは箇条6から箇条10までに相当する部分であり、主に管理者レベル(つまり課長や部長など)が回していくPDCAサイクルであり、オレンジの箱で示されていますね。
このオレンジのPDCAの中に、さらにピンク色のPDCAサイクルがあります。これは現場レベル、つまり現場の第一線の現場監督や作業者レベルの人たちが、ものづくりやサービス提供を効果的にすすめるために回していくPDCAです。
この、ピンクの、現場レベルのPDCAサイクルに該当するのが、今から解説をする箇条8です。つまりISO9001箇条8「運用」は、現場レベルで管理するべきことと言ってもよいでしょう。製品やサービスの作り込みの部分ですから、この箇条8は、マネジメントシステムの核に当たる部分ともいえます。
別の観点からも箇条8の位置付けを見てみましょう。
箇条4を通じて、品質マネジメントシステムという、ISO9001で定められている管理の仕組みを作りました。この管理の仕組みを円滑にまわしていくために、箇条5では、トップマネジメントが果たすべきことをを定めました。箇条6では、リスクと機会を分析し、その対処法を決めました。品質目標も定め、具体的な行動計画も立てましたね。箇条7は、こうして計画され確立された品質マネジメントシステムをうまく使っていくために、人やモノ、環境、情報などを整えてきました。
ここまでで、仕事をしていく上でのお膳立てはすべてできましたので、ここからがものづくりやサービス提供の本番です。
まず箇条8.1~8.4で、案件ごとや物件ごと、プロジェクトごとの計画を作ります。厳密に言うと、この8.1~8.4は計画だけというよりかは、計画部分でもあるし実行部分でもあるとは思います。
8.2でお客さんの要望の確認を、8.3では設計・開発のやり方を、8.4では外注や協力会社との付き合い方なども含めて、計画を作ります。そして箇条8.5は実際のものづくり・サービス提供を実行する部分であり、箇条8.6はお客さんに提供する前の最終確認・検査のことを指しています。そうしてお客さんに製品やサービスを引き渡す、という流れですね。箇条8.7には、「不適合なアウトプットの管理」というものがあります。どんなものづくり・サービス提供であっても、不良品ができてしまうこと、間違ってサービスを提供していしまうことはゼロにはできません。そうした不良・不適合が起きた場合に、それがお客さんに渡らないような処置を取るというのが、この箇条8.7ですね。
8.1でいう「計画」とは何のことか
ISO9001には、いろんなところに「計画」という言葉がでてくるので、ちょっとややこしいんですよね。箇条8.1で言っている「計画」というのはどういうものなのかを、ちょっとイメージしやすい例をあげてみたいと思います。
箇条8.1でいう計画は、個別の製品やサービスを作り、提供するための計画のようなものをイメージすればわかりやすいかなと思います。別に計画書という書面を作らないといけないというわけではありませんが、参考までにQC工程表を使って説明をするとわかりやすいです。
なにかの製品やサービスを作り、提供する際には、何もなくいきあたりばったりで、いきなり作り始めるということはふつうはしません。いろんな準備をするはずです。
例えばうどん屋さんが、うどんを作って提供するときでも、ちゃんと準備するはずですよね。まず大前提として、お客さんがどんなうどんを望んでいるかを押さえないといけません。誰も望んでいないような、たとえばカッチコチに固いうどんを食べたい人はいないですよね。
また、うどんの作り方、どういう手順で作るのかも、ちゃんと押さえておかないといけませんし、どういううどんができれば合格、つまりお客さんに出せるのか?という基準もあらかじめ定める必要があるでしょう。場合によっては手順書のようなものを準備する必要もあるでしょうし、基準通りのものができたという証拠を残しておく準備もいるでしょう。さらには、うどんを作るために必要なモノ、ナベとか水とか材料とか、あとはコンロや、調理スキルなんてものもありますが、そうしたものの準備も必要です。
そうして準備したものにしたがって、実際のうどんを作る・うどんづくりを管理するという流れになっていくはずです。箇条8.1では、必ずしもQC工程表を作ることが要求されているわけではありませんが、だいたいQC工程表に書かれているような内容が、8.1でも要求されているんですよね。
こうした事前の準備や管理は、どんな製品やサービスを提供する上でも不可欠です。それをやりなさいと言っているのが、8.1ですね。つまり箇条8.1で要求されている計画とは、個々の製品・サービスを作り込む上での具体的かつ詳細なもの、と理解してよいでしょう。そして程度の差こそあれ、ほとんどの企業では、こうした準備や計画は、ある程度やっているのではないでしょうかね。
ところで、箇条8.1で個々の製品・サービスの具体的かつ詳細な計画を作る上で、注意しなければならないことがあります。それは、箇条6で洗い出したリスク・機会と、そのリスク・機会への取り組みを、個々の製品・サービスの詳細計画の中に盛り込みなさいという要求が、規格にあります。
例えば、うどんづくりのリスクの一つとして、異物混入があります。提供するうどんの中に、なにか変なものが入っていたら、大変なことになりますよね。それがリスクなわけですが、異物が入らないようにする、例えばキッチンまわりを整理整頓清掃しておくということが、リスクへの取り組み策になります。
そうした取組策を、ちゃんと計画に落とし込みなさいということなので、例えば調理の前に整理整頓、清掃をして、異物が近くにないことを確認して作業を行う、みたいなことが、手順の中に盛り込まれるべきだということですね。
8.1の規格要求事項
では箇条8.1の規格要求事項を見ていきましょう。
まず冒頭では、製品・サービスの要求事項をみたすため、そして箇条6で決定した、リスク・機会への取り組み策を実施するためのプロセスを、計画して実施し、管理しなさいと言っています。具体的にはここにあるa)からe)のことをプロセスごとにやる必要があります。
プロセスごとにやるとはどういうことかというと、規格の最初の一文にカッコ書きで「4.4参照」と書いていますね。この箇条8.1は、箇条4.4「品質マネジメントシステム及びそのプロセス」と関連があります。
ISO9001には、プロセスアプローチという考え方があるという話は以前にしました。例えばうどんを作るにあたっても、まぜるとかこねるとかのばすとか切るとか、いろんな工程(つまりプロセス)があります。
こういった一つひとつの工程・プロセスで作業をしっかりやって、よく仕上がったものを次のプロセスに送るという仕事のやり方を、うどんづくりという一連のプロセス全体でやらないといけないというのが、プロセスアプローチと呼ばれるものです。なので、ここの箇条8.1や箇条4.4に書かれている内容を、個々の製品・サービスを作るすべてのプロセスに当てはめなさい、という要求だと言ってもよいでしょう。
具体的には、先程もQC工程表を使って説明をしましたが、うどんという製品を作るには、いくつもプロセスがあります。このプロセスごとに、必要なもの、手順、何をどこまでやればよいかという基準などなど。他にもありますが、こうしたものを、製造やサービス提供する前に明確にしなさいということですね。必要があれば手順書も作らないといけないし、ちゃんとプロセスで狙い通りの仕事ができたら、その証拠を記録しておくということです。
こんな細かいことをしないといけないの?と思うかもしれませんが、ここまでやれば、思いつきとかいきあたりばったりによるミスとか、ついうっかりで置きたミスいうのが確実に減りますので、結果的には不良が減る、良品ができるということになります。
プロセスをどう区切るかということまでは規格では具体的には言われていません。作業の一挙手一投足のレベルまで細かくする必要もないとは思いますが、みなさんの企業が必要だと思うレベルの細かさで、プロセスの計画と運用、管理を行ってください。
箇条8.1の規格要求事項には、もう少し続きがあります。
「この計画のアウトプットは、組織の運用に適したものでなければならない。」とあります。
この計画のアウトプットの例の一つは、先程お見せしたQC工程表ですが、QC工程表を絶対に作らないといけないというわけではありません。
組織の運用に適したものなので、実際に現場や管理に使っているもので、先程のa)からe)までのようなことが記されているもの、例えば仕様書とかプロジェクト計画書などをアウトプットとしてもよいでしょう。実際に使っているものに、足りないものを補って手厚くする、というやり方でよいと思います。
「組織は、計画した変更を管理し、意図しない変更によって生じた結果をレビューし、必要に応じて、有害な影響を軽減する処置をとらなければならない」というのはどういうことでしょうか。
計画した変更というのは、例えば設備が老朽化したので、新しい設備に更新した、みたいなことが当てはまりそうです。新しい設備が入れば、設備の操作方法なども変わりますから、あたらしい手順や管理方法(点検箇所や、どのくらいの頻度・間隔でて点検するか等)を決めないといけないですよね。
意図しない変更というのは、あるプロセスの作業者がコロナになってしまって出社できなくなった、誰かが代わりにやらなければならなくなった、ということもありますかね。
熟練のAさんがいなくなったので、新人のBさんにやってもらうことになりますが、Bさんで本当に大丈夫かどうかをレビューして、必要ならばBさんの教育訓練をする、などの処置をとらないといけないということです。
最後、組織は、外部委託したプロセスが管理されていることを確実にしなければならない、ということですが、どこかの工程を外注したとしても、自社内のプロセスと同じように管理しないといけませんよ、ということを言っています。外注先の仕事だから知らない、関係ないよ、というのではダメですよ、ということですね。
この外部委託のプロセスの管理については、箇条8.4で詳しく規定されていますので、またそのときに解説をします。