おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
エンゲージメント向上のための理論の一つである「仕事の要求度-資源モデル」について解説をします。初回の今回は「仕事の要求度-資源モデル」とは何か、概略をお話します。
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「エンゲージメント」とはなにか?(復習)
まず「エンゲージメント」とはなにか?という復習からやりましょう。エンゲージメントの定義は様々ですが、ここに書いている経団連の定義が、我々日本人にはわかりやすいかと思います。
働き手にとって組織目標の達成と自らの成長の方向性が一致し、『働きがい』や『働きやすさ』を感じられる職場環境の中で、組織や仕事に主体的に貢献する意欲や姿勢を表す概念
(経団連『2023年版経営労働政策特別委員会報告』 経団連出版, 2023年, 5ページより引用)
読んでいただければわかると思いますが、要は、会社のことについて当事者意識みたいなものをもって、会社に貢献しようという気持ちのこと、といったらよいでしょう。
「エンゲージメント」を高めるための3つのカギ(復習)
エンゲージメントを高めるにはどうすればいいの?ということですが、ここに書かれている3つがエンゲージメント向上のカギではないかと思っています。
ひとつめは「仕事の要求度-資源モデル」です。要は、難しい仕事をさせるのであれば、ちゃんとサポートをする、ということですね。仕事に求められることが大きいにも関わらず、それに取り組むのにふさわしいサポートがないと、働く人はストレスを感じますよね。このバランスがうまくとれるように、経営者は仕事の割当と資源の確保をしっかりやりましょうという考え方のことです。今日はこの「仕事の要求度-資源モデル」について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。
(リカバリー経験と心理的安全性については、おいおい解説します)
「仕事の要求度-資源モデル」とは
「仕事の要求度-資源モデル」とは、2006年にベッカーさんとデメロウティさんという研究者が開発したモデルです。モチベーションに関する理論のなかでも比較的新しくて、論文の引用数も非常に多くて、とても最近注目されている理論ですね。
このモデルを図で表すと、こんなモデルなんですよね。といっても、この図だけ見てもわからないので、例を交えながら解説をしていきましょう。
まず「仕事の資源」と「個人の資源」というものがあります。「仕事の資源」というのは、仕事での目標を達成したり、仕事におけるストレスを軽減したりする、組織が持つ要素のことです。例えば同僚や上司が仕事をサポートしてくれることは、その一つですね。
そして「個人の資源」というのは、働く人たちの心の持ちようみたいなことであって、例えば「自分はやれば出来る子なんだ」みたいに思っていること、などですね。
次に「仕事の要求度」というものがあります。仕事の要求度とは、その仕事が、どのくらい肉体的・心理的に努力を要求する仕事であるかということだと思ってください。例えば、仕事量が多い・少ないとか、難しい仕事であるか・簡単な仕事であるか、みたいな感じですね。
ここに資源と要求度がそろいましたが、この資源と要求度のバランスが、仕事のパフォーマンス、つまり成果に影響を与えているんだよと、ベッカーさんとデメロウティさんは言っているわけですね。
資源と要求度のバランスが、仕事のパフォーマンスにどう影響を与えるのか
資源と要求度のバランスが、仕事のパフォーマンスにどう影響を与えるのかを、もう少し詳しく見ていきましょう。
まず資源は、動機づけに影響を及ぼします。ここでいう動機づけとは、ほぼエンゲージメントのことだと思ってください。同僚や上司から支援をしてもらったり、自分自身でもなんかやれそうだという気持ちがあれば、仕事に対する熱意みたいなものが生まれそうですよね。
一方、仕事の要求度は、働く人の負担や疲労につながります。これはわかりますよね。仕事をすれば疲れる、しんどくなる、というやつです。
このエンゲージメントと、負担・疲労が、最終的な仕事のパフォーマンスに影響を与えると言っています。熱意があれば仕事のパフォーマンス、つまり成果はあがるでしょうし、負担や疲労を抱えたまま仕事をすると、成果も限られるでしょうからね。
そして資源と要求度は、それぞれに影響を与える可能性もあります。例えば、仕事の資源や個人の資源が潤沢であれば、仕事の要求度から生まれるストレスも緩和されるでしょうし、もし仕事の資源や個人の資源がなければ、ストレスはもっと大きくなりそうですよね。
一方、仕事の要求度が、ちょっとチャレンジが必要なレベルであれば、より一層モチベーションになるかもしれませんし、うんと難しければ返ってモチベーションは下がりそうですよね。
ジョブ・クラフティングとセルフアンダーマイニング
こうやって生まれた動機づけ・エンゲージメントは、さらに資源のレベルを高める可能性もあります。自分のモチベーションが高まれば、自分はやれば出来る子だというイメージがもっと強くなりますよね。また、やる気になっている部下を見て、上司も「もっと支援をしてあげよう」という気持ちになるかもしれません。このように、動機づけ・エンゲージメントが、資源のレベルをさらに高めることを、ジョブ・クラフティングと言っています。
一方、負担や疲労は、動機づけ・エンゲージメントに悪影響を与える可能性もありそうですよね。疲れ果ててしまったら、やる気も起きませんからね。
そして最後ですが、負担や疲労が、仕事の要求度を更に高める可能性もあります。例えばですが、負担や疲労を抱えたまま仕事をすると、ミスを犯しがちになります。そのミスを修正するためには、さらに努力が必要になりますよね。ミスのリカバーという仕事が増えるわけですからね。そうすると、仕事の要求度がさらに上がります。こうした悪循環が起きる可能性のことを、セルフアンダーマイニングと言います。
ここまで説明してきたことが、「仕事の要求度ー資源モデル」を簡単に説明したものです。そして、このモデルを作ったベッカーさんとデメロウティさんが何を言おうとしているかというと、この図の左側にある「資源」と「要求度」のバランスが、エンゲージメントや負担・疲労を通じて、仕事のパフォーマンス、つまり成果に影響を与えているんじゃないの?と言おうとしているんですね。
「仕事の要求度-資源モデル」ではどうすればエンゲージメントを高められるか
このモデルの言うことが正しいと仮定してですが、じゃあどうすればエンゲージメントを高め、仕事の負担や疲労を減らし、ひいては組織のパフォーマンスを高められるのかというと、基本は「仕事の資源を高めること」「個人の資源を高めること」、そして「仕事の要求度を下げる」でしょう。
ところでこの要求度ー資源モデルの批判というか課題の一つとして、資源とか要求度とかの定義がはっきりしないよねということはあるんですけれども、その辺にあえて今日は目をつぶって、私になりにどうすればいいのかをちょっとご紹介したいと思います。
まず仕事の資源の向上策です。最初は異動と書いていますが、人の配置ですよね。適材適所ってやつですよね。組織の若返りとも書いていますけれども、人は一般的には年をとるにしたがってパフォーマンスが落ちていきますので、いつまでも年をとった私のようなおじさんが組織の中で威張っているのではなく、若い人がドシドシチャレンジできるような環境を作ることも、仕事の資源の向上策だと思います。
また、制度や仕事をまわす仕組みの見直しも必要かなと思いますよね。ISOなんかが代表例ですけど、自分の組織の実態にあわないような、複雑で重たすぎる仕組みを導入していることってあるじゃないですかね。そういうのを見直すと、仕事の資源の確保もできそうです。
報酬も無関係ではないですし、教育訓練の機会を設けて、従業員の能力を高めることも必要です。管理者のリーダーシップも重要ですよね。管理者のリーダーシップは、仕事の資源だけではなく、個人の資源の向上や、仕事の要求度の低減にも効いてきそうです。そして機械化やIT化によって、仕事を楽にするというのも考えられそうですよね。
続いては個人の心理的な資源の向上策です。やっぱりリラックスする機会…つまり休みを取ってもらうことですよね。また、ストレスへの対処というのもありますね。
自分が仕事で悩んでいることや、つまずいていることなどを聞いてもらう機会として、最近は色んな会社で、上司と部下の1on1ミーティングみたいなことをやっています。上司にも言いづらいこともあるでしょうから、産業医の先生とか、職場カウンセラーといった第三者に悩みを聞いてもらう制度を作っているケースもあります。
そして組織への帰属意識の向上とありますが、自分が確かにこの組織の一員であると感じられるような方策を取るということですね。具体的には、サンクスカードってご存じですか?同僚に感謝のメッセージやメモを渡すというそういう取り組みがあるんですが、そうしたものの導入なんかもあるでしょうね。
そして組織の中で働いてはいるけれども、個人の欲求を満たしてあげるような仕組みというのもあります。有名なところでは、Googleが採用した「20%ルール」という手法があります。Googleでは2004年から、勤務時間の20%を、自分のやりたい仕事にあててよいという制度があるんですよ。もちろん給料は支払われます。
そして最後、仕事の要求度の低減策ですが、これは業務の簡素化があるでしょう。あまり意味のない活動を止めてしまうというのも一つですね。ISOとかプライバシーマークとか、もう止めちゃおうか、みたいなやつですね。不採算事業からの撤退もあるでしょう。一生懸命頑張っても儲からないのであれば、負担や疲労は増すばかりですから。
そしてクレーム対応なんかが代表例ですけど、無理な要求、理不尽な要求を毅然とした態度で断ることなんかもあります。こうしたややこしいクレームが1件でもあると、相当な時間の浪費と心理的な負担になります。もうあのお客とは手を切ってしまえ、というのは、現場で決断できることではなく、トップが決断しないといけないことですからね。
この理論に基づくと、昔ながらのハードワークとか。ブラック企業のやり方では、組織のパフォーマンスがじゅうぶんに上がらないといえそうですね。あまりにも仕事の要求度が高いと、人が定着しませんし、燃え尽き症候群や健康問題がおきたり、過労死につながったりしますので、いいことはなさそうですよね。しっかりと資源と要求度の管理をしないといけないのでしょう。