おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
今日は4月28日に成立した「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、いわゆるフリーランス新法について、ざっくりと解説をします。フリーランスとして働くことの自由と柔軟性は魅力的ですが、問題も起こりますよね。そんな問題が起こらないよう、フリーランスへ仕事を依頼する発注者が守るべきルールを定めたのが、このフリーランス新法です。今回は、この新しい法律をざっくりと10分くらいでわかるよう解説します。
フリーランス新法については動画でも解説しています(無料・登録不要)
フリーランス新法の基礎となった法律
今日紹介をするフリーランス新法は、実は全く新しく作られたものではなく、既存の法律を組み合わせて作られたものです。この法律の元となっているのは、下請け業者を守る法律と、労働者の権利を守る法律です。また、建築業界の法律からもアイデアを取り入れている部分があります。
フリーランサーというのは、大きな会社の下で仕事をすることもあれば、大きな会社の従業員のように働くこともあります。このようなフリーランサーの特性を考えて、既存の法律を基に、フリーランス新法が作られたのだと思われます。
【フリーランス新法】関連する人々・組織
フリーランス新法の登場人物から説明していきましょう。この法律には主に3種類の人々が関わっています。最初に、「特定受託事業者」という人々です。これは一人でビジネスを行っている個人や、従業員がいない会社を指します。つまり、一人で仕事をしているフリーランサーが、この法律によって守られるというわけです。ただし、家族などの手伝いが従業員に数えられるかどうかははっきりしていません。また、一時的にアルバイトを雇うことがある場合は、この法律による保護は適用されないかもしれません。このあたり、まだわかっていないことがたくさんあります。
次に、フリーランスに仕事を依頼する人々です。これは「業務委託事業者」という人々です。これには、フリーランサーよりも規模の大きな発注者、具体的には従業員のいる個人事業主や二人以上の役員・従業員がいる法人も含まれます。そうした規模の大きな発注者のことを「特定業務委託事業者」といいます。こうした大きな発注者には、法律によってより多くの義務が課せられています。ところで、フリーランサー自身が他のフリーランサーに仕事を依頼する場合もまた、法律によって相手を保護する義務があるということを覚えておいてください。
これらの業務委託事業者はフリーランサーに仕事を委託するわけですが、すべての仕事がこの法律の規制対象となるわけではありません。どの仕事がどの規制の対象になるかは、その仕事をする期間によって決まる場合があります。しかし、この動画を収録している2023年5月の時点では、具体的な期間はまだはっきりしていません。短期や一度きりの仕事だと、この法律による保護が全て適用されるわけではない可能性が大いにあります。
そして最後の登場人物は国の機関です。具体的には公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働大臣の委任を受けた都道府県の労働局長が、この法律に従って、フリーランスを保護します。
【フリーランス新法】フリーランサーに発注する事業者が守るべきルール
ではフリーランサーに発注する事業者が守るべきルールについて、簡単に説明します。
まず、全ての事業者が守らなければならない基本的なルールとして、仕事の詳細や報酬額、いつ支払うかといったことを文書やメールでちゃんと伝えなければなりません。さらには、規模の大きな発注者だけが守らなければならないルールもあります。こっちのほうが多いですけどね。これらのルールについては、このあとで詳しく説明します。
【フリーランス新法】支払期日・支払いに関するルール
規模の大きな発注者が守るべき最初のルールです。
発注者は、フリーランサーから製品・サービスを受け取った日から60日以内に、支払期日を設定し、お金を払わなければいけません。これは、その仕事の出来栄えを社内で検査や確認するかどうかに関係なく決まっています。あくまでも受け取った日がベースです。60日だから、2ヶ月後に支払えばいいのだなと思いたくなりますが、起算日の考え方はいろんなケースがあって結構ややこしいので、「毎月末日納品締切、翌月末支払い」というやり方が無難ではないかと思います。
このルールは、発注した側が検査や確認するかどうかに関係なく適用されますので、検収締切制度をとっているような発注者は注意が必要です。また、発注者側の事務処理遅れやフリーランサーからの請求書の提出の遅れも、支払い期日を60日よりも後にする理由にはならないでしょう。
【フリーランス新法】発注者が守らなければならない7つのルール(7つの禁止行為)
続いて、発注者が守らなければならない7つのルールについて説明をします。
1点目は、フリーランサーのせいではないのに、依頼したものを受け取らないことはダメです。
2点目ですが、フリーランサーのせいではないのに、お金を減らして支払うことはダメです。たとえば、振込手数料を引いて支払うといったことは、事前に契約書などで合意していなければ、ルール違反になります。
3点目は、フリーランサーのせいではないのに、依頼したものを受け取った後に返すこともダメです。
4点目です。報酬額を決めるときに、不当に安い額をフリーランサーに押し付けること、いわゆる「買いたたき」はダメです。
そして5点目ですが、フリーランサーに、発注者が選んだ製品やサービスを無理に買わせることもダメです。たとえば、「仕事をあげる代わりに、うちのこの商品を買って」と言うようなことが該当します。
6点目は、フリーランサーに、現金やサービス、その他のものを不公平に提供させることもダメです。たとえば、「この仕事をするから、その代わりにこの仕事は無料でやって」と言うのはダメです。
そして最後の点ですが、フリーランサーのせいではないのに、費用を負担せずに依頼をキャンセルしたり、内容を変更したり、やり直させることもダメです。
【フリーランス新法】フリーランサーを探すときに広告などで発信する情報についてのルール
続いてのルールです。
発注者は、フリーランサーを探すときに広告などで発信する情報は、嘘や誤解を生む内容を含んではいけません。そして、その情報は常に正しく、最新のものでなければならないとこの法律では決められています。「虚偽の表示」とは、例えば、実際よりも高い報酬額を広告に書くなどの行為が含まれます。「誤解を生じさせる表示」には、仕事の内容を曖昧に書いて具体的な内容を伝えないような行為が含まれます。
【フリーランス新法】フリーランサーの育児や介護に関するルール
次のルールは、フリーランサーの育児や介護に関するルールです。
発注者は、長い間一緒に仕事をするフリーランサーが、子供を産んだり育てたり、家族を世話したりしながら働けるよう、必要な配慮をしなければなりません。これには、例えば、時間や仕事の量を調整することなどが含まれると思われます。
ただし、これは長期間にわたる仕事の場合に限ります。一度だけの仕事や短期間の仕事を受けているフリーランサーについては、子育てや介護に関しては配慮するよう求められていますが、妊娠や出産に関してはそこまで求められていません。
【フリーランス新法】セクハラ、マタハラ、パワハラに関するルール
続いてのルールは、セクハラ、マタハラ、パワハラに関するルールです。
発注者は、フリーランサーに対してセクハラ、マタハラ、パワハラをしないように、適切に対応するようにというルールです。
法律では「ちゃんと対応してね」と書いているだけで、残念ながら、明確に禁止しているわけではありませんけどね。それでも、もしフリーランサーが、こうした問題に直面したときのために、「相談できる体制」を発注者側で作りなさいと法律では求められています。つまりフリーランサーがセクハラなどを受けたときに相談できる窓口を、発注者が設ける必要があるということですね。最近は、すべての会社が、従業員向けに「ハラスメント相談窓口」を作るように義務付けられましたが、そうした相談窓口をフリーランサーも利用できるようにする、といった感じかもしれません。
【フリーランス新法】発注者がフリーランサーとの長期契約を終えるときのルール
最後のルールは、発注者がフリーランサーとの長期契約を終えるときのことのルールです。
基本的には、契約を終える30日前には、契約解除することを予告しなければなりません。また、フリーランサーから契約を終える理由を聞かれたら、答えなければならないとも定められています。
【フリーランス新法】違反時の罰則について
これまでに見てきた法律のルールですが、これを破ったからといってすぐに罰せられるわけではありません。以下のような段階を踏んで処罰されます。
フリーランサーから違反行為の報告があったら、最初に国が調査をします。調査で、発注者がルールを破っていると認めたら、国は発注者に「改善してください」と勧告します。でも、その勧告を無視して改善しなかったときに、「改善しなさい」と国が命令します。その命令を無視したときにようやく罰せられるという段取りがあります。もし命令が出されたら、国はその企業の名前と命令の内容などを公表します。また、調査や助言の段階でも、国は発注者に報告を求めるとか、発注者に立ち入って調査をすることがあります。この時に報告をしない、嘘の報告をする、調査を邪魔するなどした場合も罰せられます。罰金は50万円以下、あるいは20万円以下となっています。そして、違反行為をした本人だけでなく、その企業や個人経営者も罰せられることになっています。
【フリーランス新法】最後に
この法律、まだわからないことがたくさんあるんですよね。この法律で定めきれなかった具体的なルールは、後日省令や政令と言うかたちで明らかになるらしいんですが、それを見ないと何とも評価できないな、という部分があります。
また、この法律の施行日(有効になる日)はまだ明らかにはなっていませんが、法律の附則を読むと、2024年秋までに施行される予定です。それまで、フリーランサーへ発注をする事業者は、法に沿った対応方法を準備しなければなりません。