おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
6月16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」(骨太方針2023)が閣議決定されました。この内容に基づき、今後の予算編成が行われます。「骨太の方針2023」で示された中小企業政策について、ざっと解説します。
「骨太の方針2023」はこちら
【結論】
結論から言うと中小企業政策は既定路線の継続であり目新しさはあまりありません。以下に解説をしますが、ほとんどは「すでにやっている支援策を今後もやります」と言っているように思えます。
賃上げ・最低賃金
中小企業等の賃上げの環境整備については、賃上げ税制や補助金等における賃上げ企業の優遇等の強化を行う。その際、赤字法人においても賃上げを促進するため、課題を整理した上で、税制を含めて更なる施策を検討する。さらに、各サプライチェーンにおいて賃上げ原資となる付加価値の増大を図り、マークアップ率を高めるとともに、付加価値の適切な分配を促進するため、エネルギーコストや原材料費のみならず、賃上げ原資の確保も含めて適切な価格転嫁が行われるよう取引適正化の促進を強化する。その一環として、特に労務費の転嫁状況について業界ごとに実態調査を行った上で、労務費の転嫁の在り方について指針を年内にまとめる。また、業界団体に自主行動計画の改定・徹底を求めるほか、「価格交渉促進月間」の取組や価格交渉の支援を行う。
(「骨太の方針2023」P5より)
賃上げ税制(賃上げ促進税制/所得拡大促進税制)や補助金等における賃上げ企業の優遇等の強化を行う、とあります。賃上げ税制は、簡単に言うと、中小企業が従業員の給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。また国の中小企業向け補助金については、賃上げを行うことが必須要件であったり、加点項目であったりします。これらを「強化する」と書いていますので、税額控除額を増やすとか、もしくは補助金でも加点項目から必須要件化するなどの措置が取られるのかもしれません。
「各サプライチェーンにおいて賃上げ原資となる付加価値の増大を図り、マークアップ率を高めるとともに…」というのは、要は中小企業が大企業から、より多くのお金をもらえるよう、中小企業の付加価値の増大を図るということでしょう。マークアップ率という聞き慣れない言葉がありますが、これは粗利を原価で割った額のことです。マークアップ率が高いというのも、簡単に言うと要は、中小企業の手元に残る利益が高い、ということです。具体的にどういう施策でこれを実現するのかはわかりませんが、要は「付加価値の増大」を目指しているので、従来どおり、補助金や経営力向上計画、先端設備等導入計画を継続するという意味合いではないかと思います。
その他、価格転嫁が行われるよう取引適正化を促進するということですので、下請かけこみ寺や下請けGメン、パートナーシップ構築宣言を継続・強化するということなのかもしれません。
GX、DX、科学技術・イノベーション、スタートアップへの投資拡大
GX、DX、科学技術・イノベーション、スタートアップといった重点分野での大胆な投資拡大に向けて、長期的なビジョンを提示し、呼び水となる官の投資について複数年度でコミットするとともに、規制・制度措置の見通しを示すことで、民間の予見可能性を高め、民間投資を誘発していく。また、雇用機会、賃金水準が少子化の最大の原因となっていることを踏まえ、特に、地域において経済を牽引する中堅・中小企業の投資等を力強く支援し、良質な雇用を創出し、若年層の所得増加を促す。
(「骨太の方針2023」P7より)
これも中小企業庁の補助金や、省エネ補助金で、投資拡大を図るという方向になるのではないかと推察します。国はいつまでたっても補助金頼みですね。
グリーントランスフォーメーション(GX)への投資
徹底した省エネルギーの推進に向け、複数年の投資計画に切れ目なく対応できる中小企業向けの省エネ補助金や、省エネ効果の高い住宅・建築物の新築・改修、断熱窓への改修を含むZEH・ZEB13等の取組を推進するとともに、産業の非化石エネルギー転換に集中的に取り組む。
(「骨太の方針2023」P8より)
複数年の投資計画に切れ目なく対応できる中小企業向けの省エネ補助金というのは、令和4年度補正予算で、省エネ設備投資補助金において、複数年の投資計画に切れ目なく対応できる新たな仕組みができたことを指していると思われます。令和5年度の補正予算でも、この仕組みが継続するのかもしれません。
地域・くらしの脱炭素化に向けて、中小企業等の脱炭素経営や人材育成への支援を図りつつ、2025年度までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を選定するなどGXの社会実装を後押しする。
(「骨太の方針2023」P9より)
環境省が、中小企業の脱炭素経営支援を行っていますが(例えば脱炭素経営ハンドブックの公開やSBT認定取得等に向けた行動計画の策定支援)、そうしたものが維持・強化されるのだと思われます。また脱炭素化に向けた人材育成は、公的職業訓練(ポリテクセンター等での訓練)の実施や教育訓練給付制度、人材開発支援助成金を厚労省が行っていますが、そうした取組が維持・継続されるのだと思われます。
また「脱炭素先行地域」というのは、環境省が2022年から進めている取り組みです。自治体や企業が一緒になって脱炭素計画を作り、優れた計画を提出した自治体を選定するという取り組みです。選ばれた自治体は、国から交付金がもらえるようです。この取り組みを継続するということでしょう。
中堅・中小企業の活力向上
地域経済を支える中堅・中小企業の活力を向上させ、良質な雇用の創出や経済の底上げを図る。このため、成長力のある中堅企業の振興や売上高100億円以上の企業など中堅企業への成長を目指す中小企業の振興を行うため、予算・税制等により、集中支援を行う。具体的には、M&Aや外需獲得、イノベーションの支援、伴走支援の体制整備等に取り組む。また、GX、DX、人手不足等の事業環境変化への対応を後押ししつつ、切れ目のない継続的な中小企業等の事業再構築・生産性向上の支援、円滑な事業承継の支援や、新規に輸出に挑戦する1万者の支援を行う。あわせて、地域の社会課題解決の担い手となり、インパクト投資等を呼び込む中小企業(いわゆるゼブラ企業など)の創出と投資促進、地域での企業立地を促す工業用水等の産業インフラ整備や、地域経済を牽引する中堅企業の人的投資等を通じた成長の促進に取り組む。
(「骨太の方針2023」P24より)
ざっくりいうと、補助金や税制優遇措置を行うと書いています。事業再構築補助金やものづくり補助金、事業承継補助金、新規輸出1万者支援プログラムなどのことを指しているのだと思われます。
さらに、感染症の影響等への対応で債務が増大している中小企業等の収益力改善・事業再生・再チャレンジの支援を強化する。具体的には、官民金融機関や信用保証協会等による経営支援の強化、返済猶予等の資金繰り支援、資本性劣後ローンの活用等を通じた資本基盤の強化、債務減免を含めた債務整理等に総合的に取り組む。
(「骨太の方針2023」P24より)
コロナ融資の借換え保証制度のことを指しているのだろうと思われます。現行のコロナ融資借換え保証制度は2024年3月31日までの取扱ですが、これが延長になるのかもしれません。
地域交通や観光・宿泊業等の事業再生等を重点的に支援する。加えて、早期の事業再生等を促す環境を整備するため、経営者保証に依存しない融資慣行を推進する。
(「骨太の方針2023」P24より)
これはちょっと自信がないのですが、国交省が今年の春に公募をした「交通・観光連携型事業(地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化)」計画のことを指しているのかもしれません。また経営者保証に依存しない融資慣行とは、昔から国をあげて取り組んでいる「経営者保証改革プログラム」のことを指しているのでしょう。
また、新しい事業に取り組むフリーランスを含む個人事業主に対する経営や財務戦略についての経営者教育に取り組む。
(「骨太の方針2023」P24より)
これは新しい取り組みだと思います。「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」でも話し合われていた内容が、「骨太の方針」に含まれたと思われます。「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」では、経営者は経営者から学ぶべきという考えから、経営者同士の交流会や成功体験談を共有する場などの活用に触れていました。こうした場を作ることなどを、来年度から進めていくのでしょう。