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デミング博士「マネジメントのための14原則」再訪(13)

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おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

デミング博士「マネジメントのための14原則」を読み直しています。ただ読むだけではなく、2020年代の現代の考え方や最近の経営理論と比べてみたりもしたいと思います。第13原則です。

デミング博士「マネジメントのための14原則」の第13原則

⑬教育と、「自分の仕事は自分で改善する」というセルフ・インプルーブメントの一貫性ある活発なプログラムをつくり、人を育てよ。

もっと良い仕事ができるように、常に自分で工夫して改善することが大事だよ、ということです。そして、そのような人を作るには教育が必要だ、ということなのですが、この第13原則はそれ以上具体的な説明がありません。

改善意欲のある人材を育てる具体的な方法は、デミング博士でもズバッと言えないのでしょうか?

デミング流 現場の意識を変える方法

第13原則には具体的には書かれていませんが、このあとの第14原則や、その他のデミング博士の『危機からの脱出』における記述を追っていくと、おおよそ以下のようなポイントが、現場の意識を変える方法だと察しがつきます。

  • マネジメント自身が「変わろう」と決意する(新たな経営理念を打ち出す)
  • 従業員のなかで「変化が必要だ」と信じ、行動できる一定の集団を作る(いきなりすべての従業員の意識を変えるのではなく、変わりそうな人たちを見つけて集中的にサポートする)
  • マネジメントとミドルマネジメント(管理者層)の向く方向性をひとつにする
  • 意欲がでないのは本人の問題ではなく「システム」の問題なので、マネジメントはシステムの改善に励む

結構オーソドックスな方法だと思うかもしれませんが、人の意識というのは短期間で劇的には変わらないものですし、人の意識はその人の生まれついてのもの(遺伝の要素)や、生い立ち(生育環境の要素)の両方が大きく関係しているので、本当に個人によって様々です。だから「個性」なんていう言葉があるわけですが、そう簡単に経営者と同じ考え方をもたせることなんてできません。もしかしたら一生かかっても不可能かもしれませんし、変わったとしても経営者が望む方向に変わるという保証もありません。でも、これが経営者のライフワークだと思って、短期的な成果を期待せずに、地道にやっていくほかはないのです。

アメリカのビジネス・コンサルタントであるジェームズ・C・コリンズが書いた『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』という有名な本があります。この本は批判も多く、おそらくデミング博士の経営哲学とは相容れない考え方だと思いますが、「カルトのような組織を作れ。その組織に合わない奴がいれば追い出せ」というようなことを言っています。

しかし人手不足の2020年代で、「組織の価値観にあわないから追い出す」というような乱暴なことができるはずもなく(そもそも日本の法律ではそんな理由で解雇もできない)、結局は地道にやるしかないのだろうと思います。

「みんながやっているから」の力

デミング博士が意識を変える方法の一つとして、第14原則で指摘しているものの一つに、『従業員のなかで「変化が必要だ」と信じ、行動できる一定の集団を作る』というものがあります。これは結構有効だと思います。人の意識は、「みんながやっているから」という力によって変わる可能性があるからです。

1969年に心理学者のスタンレー・ミルグラムらが、ニューヨークで行った実験があります。ニューヨークの街角で4人の実験者が立ち止まって空を見上げると、通行人の40%が同じように立ち止まったのです。一方で、立ち止まって空を見上げた実験者が1人だった場合、同じように立ち止まった通行人の割合は4%だったそうです。つまり、同じ行動を取る人が多ければ多いほど、それを見た人はいっそう大きな影響を受ける、ということがこの実験から分かりました。

『従業員のなかで「変化が必要だ」と信じ、行動できる一定の集団を作る』としても、最初のうちは少ない人数だと思います。しかし地道に少しずつ集団の規模を大きくしていくと、その集団に影響を受ける人が必ずでます。そうして徐々に、変化が必要だと思う人が増えていくという算段だろうと思います。

これはいわゆる2-6-2の法則でいうと、上位2割の集団を創り、真ん中の6割を少しでも上位2割に近づける努力をするということです。そうすればやがて上位2割の集団が社内で多数派となり、会社全体はその多数派の考え方が主流を占めるようになるということですね。

経営者は一般的に、2-6-2の法則でいうと、下位2割をなんとかして動かそうと努力をしますが、そう簡単に動く層ではないので、経営者自身が疲弊してしまいます。そうではなく、上位2割を徹底的に増やす努力をすることが実は近道なのだと思います。

すぐに役立つ保証はなくても基本的な考え方や原理・原則をしっかりと学ぶ場を設ける

ところでデミング博士は、第13原則のなかで「人は、その研修コースから得られる見返りが確約されるまで待ってはならない」と言っています。これは、学びを促すうえで結構重要な考え方だとぼくは思っていますが、どういう意味でしょう?

これは、新しいことを研修などで学ぶときに、その成果や結果が確実に得られるとわかるまで待つ必要はない、ということです。つまり、結果がどうなるか分からなくても、まずは学んでみることが大切だということですね。新しいことを学ぶと、最初は難しいかもしれませんし、「これ、なにか意味があるの?」と思うかもしれませんが、それが後で自分にとってとても役立つことになるかもしれません。だから、成果がはっきりと分かる前でも、積極的に学びに挑戦するべきだ、という考え方ですね。

われわれは一般的に、短期的に役に立つ知識を習得したいと思う傾向にあります。でも短期的に役立つ知識は陳腐化するものがほとんどです。例えば、ある特定のバージョンのソフトウェアの使い方を学んでも、そのソフトウェアがバージョンアップしたり、別のソフトウェアに取って代わられると、その知識はすぐに役に立たなくなります。

そのような知識ではなく、すぐに役立つ保証はないけれども、基本的な考え方や原理・原則をしっかりと学ぶ場を設けることを、デミング博士は主張しているのだと思います。

  • B!

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