おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
不良が事故が起きたときの是正処置では、それが起きた原因分析が求められます。この原因分析は、かなり難しくて、それなりのトレーニングや経験を積まないとうまく出来ません。それを、AIを使って手軽に、しかも正確にできるか?ということを検証してみたいと思います。
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真因分析(根本原因分析)をするためのプロンプト
真因分析をするにあたり、以下のようなプロンプト(指示)を出します。
労働事故が発生しました。これの真因分析をしたいと思っています。
以下の条件にしたがって、真因分析を進めてください。
・私(人間)に質問をして、対話形式で真因分析をしてください。
・まず、事故の状況を尋ねてください。
・「なぜ?」を何度か繰り返し、論理的に真因にたどり着くように質問してください。
・複数の回答を一度に促すのではなく、質問は一つずつしてください。
・データや記録、数値、観察結果といった客観的事実に基づいて真因を特定するようにしてください。
・プロセス・システムに真因を求めてください。個人の責任(忙しかった、健康状態が悪かった、焦っていた等)を真因にしないでください。
・真因にたどり着いたと思ったら、「これが真因です」と明示してください。
・最後に、同様の問題を防ぐための具体的な対策を提案してください。
発生した事故の状況
このプロンプトを投げかけると、まず事故の状況を訊いてきます。今回の事例については、以下のように(人間が)回答をします。
工場で、不良品のステンレス部品を再利用するため、汚れ落とし作業中をしていたところ、作業者が有機溶剤中毒になりました。作業者は当日の午前9時頃から午後4時頃までシンナーに浸してあったステンレス部品の汚れ落としの作業を行いました。当該作業終了後、午後4時30分頃に気分が悪いと訴え、病院で急性トルエン中毒と診断されました。現在は快方に向かっています。
AIによる数々の質問
この状況をインプットすると、AIは真因を特定するために「なぜ?」を繰り返しながら、論理的に掘り下げていきます。以下のような質問をします。それに対しての回答も記載します。
質問 1:作業者はどのような環境で作業していましたか?(例えば、作業場の換気状況、屋内・屋外の区別、局所排気装置の有無などを教えてください)→回答:作業場は工場中央部の作業台の上です。換気設備はなく、自然換気(ドアや窓を開ける)です
質問 2:なぜ、換気設備(局所排気装置や全体換気装置)が設置されていなかったのですか?(例えば、「そもそも設置されていなかった」「一時的な作業のため設置しなかった」「設備があったが使用していなかった」など)→回答:そもそも設置されていなかった
質問 3:なぜ、換気設備が設置されていなかったのですか?(例えば、「これまで必要性を認識していなかった」「費用の問題で導入しなかった」「作業頻度が低いため対策しなかった」など)→回答:作業頻度が低いため対策しなかった
質問 4:なぜ、作業頻度が低い場合でも、有機溶剤を使用する作業に対する適切な換気対策が必要であることが考慮されなかったのですか?(例えば、「作業リスクの評価を行っていなかった」「過去に問題が発生していなかったため軽視していた」「有機溶剤の危険性に対する認識が不足していた」など)→回答:過去に問題が発生していなかったため、リスクアセスメントでもリスクが高い作業だと認識ができなかった
質問 5:なぜ、リスクアセスメントで「有機溶剤を使用する作業はリスクが高い」と認識されなかったのですか?(例えば、「作業リスクを評価する基準が明確でなかった」「評価の際に有機溶剤の影響を十分に考慮しなかった」「アセスメントを行う担当者が有機溶剤のリスクについて十分な知識を持っていなかった」など)→回答:有機溶剤に関する専門的な知識が不足していた
質問 6:なぜ、作業リスクを評価する基準が一面的だったのですか?(例えば、「リスク評価の方法が標準化されていなかった」「有機溶剤に関する専門的な知識が不足していた」「過去の経験を重視しすぎて、理論的な評価が不足していた」など)→回答:有機溶剤に関する専門的な知識が不足していた
質問 7:なぜ、有機溶剤に関する専門的な知識が不足していたのですか?(例えば、「有機溶剤の取扱いに関する教育・訓練が十分でなかった」「リスクアセスメントを実施する担当者が適切な情報にアクセスできなかった」「法令や規制に基づく管理が徹底されていなかった」など)→回答:「リスクアセスメントを実施する担当者が適切な情報にアクセスできなかった
質問 8:なぜ、リスクアセスメントを実施する担当者が適切な情報にアクセスできなかったのですか?(例えば、「有機溶剤に関する情報を収集・提供する仕組みがなかった」「情報はあったが、どのように活用すればよいかわからなかった」「そもそも情報収集の必要性が認識されていなかった」など)→回答:「有機溶剤に関する情報を収集・提供する仕組みがなかった」「情報はあったが、どのように活用すればよいかわからなかった」の両方です
AIによる真因分析
質問8に回答すると、AIは真因を特定しました。
「有機溶剤に関する情報を収集・提供する仕組みがなかった」ことと、「情報はあったが、どのように活用すればよいかわからなかった」ことが原因で、適切なリスクアセスメントが実施されず、結果として換気設備の導入が見送られたため、有機溶剤中毒が発生した。
人間(ぼく)がもともと想定していた真因
このAIの分析に対して、人間(ぼく)がもともと想定していた真因は以下のとおりです。
リスクアセスメントの手順や評価基準に「作業環境(気温・湿度・換気条件)」を考慮する項目が含まれておらず、その結果、高温環境下での作業負荷が見落とされ、防毒マスクの着用が困難になり、有機溶剤中毒を引き起こした。
リスクアセスメントのやり方に問題があるというところにたどり着いたのはよい点ですが、手順や評価基準に「作業環境(気温・湿度・換気条件)」を考慮する項目が含まれていなかったところにはたどり着けませんでしたね。
今回の検証の結論としては、AIはある程度の真因分析には役立ちますが、実用レベルではない、ということでしょうかね。真因分析手法を知っている人が補助的に使い、「この方向性はなんか違うな」と思った都度、修正をほどこすという使い方ならば使い元になるでしょうが、真因分析手法を知らない人がAIの分析を鵜呑みにするのは危険かもしれませんね。今回の分析以外にも何度かトライをしましたが、明後日の方向に分析が進んでいくことも何度かありましたので、注意が必要ですね。