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マネジメントレビューでは全てのインプットを網羅する必要があるのか

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おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

よく尋ねられる質問に「マネジメントレビューでは全てのインプットを網羅する必要があるんですか?」というものがあります。ここはISOマネジメントシステム規格でも解釈が分かれるところの一つですが、ぼくは「はい、全て網羅する必要があります」と答えています。その理由を整理しておきます。

マネジメントレビューのインプット項目とは

マネジメントレビューのインプット項目とは以下のとおりですね。これを全部マネジメントレビューで網羅するというのは結構たいへんですよね。

9.3.2 マネジメントレビューへのインプット

マネジメントレビューは、次の事項を考慮して計画し、実施しなければならない。

a) 前回までのマネジメントレビューの結果とった処置の状況

b) 品質マネジメントシステムに関連する外部及び内部の課題の変化

c) 次に示す傾向を含めた、品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関する情報

1) 顧客満足及び密接に関連する利害関係者からのフィードバック

2) 品質目標が満たされている程度

3) プロセスのパフォーマンス、並びに製品及びサービスの適合

4) 不適合及び是正処置

5) 監視及び測定の結果

6) 監査結果

7) 外部提供者のパフォーマンス

d) 資源の妥当性

e) リスク及び機会への取組みの有効性(6.1参照)

f) 改善の機会

そもそもマネジメントレビューの目的はなにか?

マネジメントレビューの目的は、規格の9.3.1にかかれています。(赤字強調筆者)

9.3.1 一般

トップマネジメントは、組織の品質マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効で更に組織の戦略的な方向性と一致していることを確実にするために、あらかじめ定めた間隔で、品質マネジメントシステムをレビューしなければならない。

箇条9「パフォーマンス評価」にマネジメントレビューが位置づけられているように、マネジメントレビューとは、トップマネジメント(多くの場合は社長は事業部長)によるPDCAのC(チェック)とA(改善)の場です。そして、それは組織の品質マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効で更に組織の戦略的な方向性と一致していることを確実にすることを目的としています。

このような目的の場に、限られたインプットしか報告されなければどうなるでしょうか?例えば「顧客満足及び密接に関連する利害関係者からのフィードバック」が報告されなければ、トップマネジメントが品質マネジメントシステムの適切性、妥当性、有効性を適切に判断できるような気はしませんよね。また、限られたインプットをもとに出したアウトプットは、片手落ちになる可能性も大きいでしょう。こうしたマネジメントレビューの目的を考えても、インプット項目は全て網羅する必要があると、ぼくは考えます。

でも「考慮する」って書いてない?

しかし9.3.2の規格要求事項を見ると「マネジメントレビューは、次の事項を考慮して計画し、実施しなければならない。」と書いています。ISOオタクの皆さんはご存知かと思いますが、ISOの規格の中に「考慮する」(consider)という言葉が出てきたら、それは「その事項について考える必要があるが除外することができる」という意味です。なんでそんなことがお前にわかるんだ!と思われるかもしれませんが、この定義は、ISO14001やISO45001の附属書Aに公式に書かれています。一方でISO9001の規格にははっきりは書かれていませんが、同じ考え方をしてよいと思います。

「その事項について考える必要があるが除外することができる」のであれば、マネジメントレビューのインプットも、除外していいだろう?と思うのは至極当然の考えだと思います。でもここで、英語の原文ではどう書いているかを確認します。

9.3.2の「考慮して」の英語原文では、附属書Aの説明にある"consider"という単語を使っているのではなく、ISO9001では"Take into consideration"、ISO14001とISO45001では"include consideration of"、ISO42001では"include"になっています。このように、日本語訳では単なる「考慮する」である一方、英語の原文では単なる"consider"ではない表現になっています(ISO42001はまだ日本語化されていませんが)。この表現の違いはネイティブスピーカーでもなかなかわからないとは思いますが、単なる「考慮する」(consider)とは異なる意味を持っていると解釈するのが適切と考えます。ちなみにChatGPTに訊いてみたところ、単なるconsiderよりもtake into considerationやinclude consideration ofのほうが強い義務性のニュアンスがある、と回答しました。まあこれはあくまでも参考意見ですけどね。

一方、特にこの中で最も新しい規格であるISO42001(AIマネジメントシステム規格)では、considerという単語が使われずに、includeと書かれています。これは明確にconsider(考慮する)よりも強い義務性を持ち、指定されたインプット項目は必ずマネジメントレビューの議題として扱わなければならないことを示していることは明白です。

このように規格を横断的かつ原文にそってに見ていくと、単に「考慮するって書いているから、考える必要があるが除外することができるんだな」という解釈で片付けてはいけないことがわかります。「じゃあ最初から、考慮に入れる(take into account)って書いておけよ!」って思うかもしれませんが、これについては続きをちょっと読んでいただきたいと思います。(ちなみに「考慮に入れる」(take into account)は、その事項について考える必要がありかつ、除外できない、という意味です)

全てを1回のマネジメントレビューで網羅しなければならないのか?

マネジメントレビューのインプットとして規格に書かれていること全てを1回のマネジメントレビューで網羅しなければならないのか?というと、そうではありません。項目の重要度に応じて、重点を置いてもよいと思います。例えば6) 監査結果は年1回だけど、5) 監視及び測定の結果は毎月、のような感じですね。

現実問題として、トップマネジメントが品質のことについて、年1回しか情報のインプットを受けないということは、どんな大企業でもありえないと思います。マネジメントレビューという名称の会議体でなくても、経営会議や幹部会議という会議体の中で、そうした情報についてのインプットを受けているはずです。それは規格が求めているマネジメントレビューの一部に位置づけられるというのは、皆さんに理解していただけると思います。別々の会議体であっても、こうした情報が最終的にトップにインプットされていれば、それは規格の要求を満たしていると言えるのではないかと思います(つまり全てを1回のマネジメントレビューで網羅しなくてもよい、ということ)。これらのインプット項目については、トップマネジメントはそのように、一度に全てがインプットされるのではなく、時と場に応じてその都度必要な情報がインプットされるという関わり方が一般的だろうと思いますし、そうした運用でもよいとぼくは考えます。

こうした柔軟性を残しているから、ISO9001や14001では"Take into consideration"や”include consideration of"としてconsiderの要素が残っているのであり、日本語訳も「考慮する」と書かれているのかな?と勝手に想像しています。

ただし、そうした運用で全てのインプット項目が網羅されたことを、外部審査員に説明して納得してもらう必要はあるでしょう。

ですので、マネジメントレビューで無理やり全てを1回のマネジメントレビューで網羅するのではなく、複数の会議をもって総合的にマネジメントレビューのインプット項目を網羅すること、そしてそれぞれの会議についての議事録を残すことで、規格の要求を満たすことはできると考えます。(それぞれの会議についての議事録を残すのが難しければ、年1回に総括的なマネジメントレビューを行い、そこでインプット項目の一部は「再確認する」という形で議事録に残すという方法もあろうかと思います)

  • B!

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