おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
最近、3S・5S関係のブログ投稿をサボってお休みしていたので久しぶりなのですが、3Sや5Sをしていて必ず現場サイドから出てくる疑問や不満に「上司(または社長)が3S・5Sに積極的でないんですがどうしたらいいですか」というものがあります。個人的には、これには有効な手立てはないと思っています。現場サイドから変えることは不可能と言いきってもよいでしょう。
「上司が3S・5Sをしない」は、現場サイドの最も大きな不満
セミナーやコンサルティングの現場で、ほぼ確実に現場サイドから質問をされることが「上司が3S・5Sをしないがどうすればいいか」というものです。これはとても大きな不満足になります。だって「3S・5Sをしなさい」というのは上の人たちなのに、その上の人たちが指示だけをして自分たちはやらなければ、不満足になるのは当然です。
もっとも、本当に上司や経営者が3Sや5Sをやっていないかというと、それはそれで疑問でもあります。常に一寸の狂いもなくモノを整理整頓されている状態にすることは不可能です。たまたま業務が忙しくて机の上や作業場が散らかっていたのをみて「上司はやってない」と判断しているケースもなくはありません。(まあそういうケースはレアケースでもありますが)
上司を無理に変えようとするとどうなるか
これは僕の実体験です。今では3S・5Sのコンサルティングをしている僕も、過去には従業員として5Sをやっている(やらされている?)ことがありました。その時の上司が、まさに「5Sをやらない」人だったのです。机は汚いし、掃除時間でも決められた持ち場は守らないし(上司の気分で勝手に持ち場を変える)、もう何年も使っていないモノであっても、たいした理由もなく「これは捨てられない」といい、いつまでも倉庫に山積みさせているような上司でした。
職場の5S委員をしていた僕は、一度ビシッと「会社が決めたルールを、ちゃんとやってくださいよ!」と上司に言ったのです。上司も下っ端の僕にそういわれて面白くなかったのでしょう。「上司に向かってその言い方はなんだ!」と、「言い方警察」になって、5Sから話をそらされ、かえって怒鳴られるという逆ギレをされました?
では「自分が結果を出せばわかってくれる」という状態にはなるか?
次に僕が思ったことは、「じゃあ自分が5Sで結果を出せば、上司は認めてくれるようになるだろうか」ということでした。上司を動かすことができない分、自分で結果を出して納得させてやろうと思ったのです。自部の身の回りや机回りはほぼ完ぺきにするくらいに改善しつくしましたが、それでも何年たっても、上司から「今村君は5Sがよくできているね。私も見習おうじゃないか!」というような言葉を聞くことはありませんでした。
最初は「見返してやる」という気持ちで燃えていた僕でしたが、あまりにも無反応すぎてやる気がなくなっていったのです。バカバカしい、とさえ思うようになりました。もうこうなれば、会社全体から見たら損失ですよね。ちゃんと5Sをやる従業員がいたにもかかわらず、上司が無能なのでやる気がなくなったのですから。
3S・5Sに限らないが、そもそも組織はトップのレベル以上には発展しない
これは断言してもよいことですが、組織というものはそのトップのレベル以上には発展しないものです。上の立場の人たちが3Sや5Sを軽視していたり、その重要性に気が付いていなければ、それは組織の中で浸透することはありえません。結局のところ、「組織の運命を左右するのは、経営トップと組織のオーナーの世界観だけ」(『ティール組織』日本語訳 P396)であり、その世界観を外部から矯正することはできないのです。外部からの矯正は「押し付け」になってしまいますし、上司であろうと部下であろうと人間であれば誰しもが、押し付けの価値観に対しては反発するものです。3Sや5Sに関して言えば、その重要性や有用性を自分から気がつかなければ、価値観を変革することはできません。
トップの意識レベル改革は、トップ同士でしか起こらないと言ってよい
「そんなトップの意識を変えるのがコンサルの仕事だろ?」と言われるかもしれません。しかしコンサルが(単独で)トップの意識を変えることもまた困難なことです。これは前述の通り、外部からの世界観の矯正にあたるので、無理に変えようとすると反発があります。これはコンサルに限った話ではありませんよ。社長の奥さんが社長を変えようとすることも、会長が社長を変えようとすることも(その逆も)、基本的にはうまくいきません。社長が従業員を変えることさえも困難があるのですから、結局は誰であろうが人間の価値観を変えるということは容易ではないのです。
方法があるとすれば、価値観の変容はトップ同士の関係性の中で起こるということです。例えばですが、経営者が集まる異業種交流会などで「5Sをやると会社が変わるよ」「そうだよね」というような声が多数派を占めていれば、多数派の理論によって聞く側に価値観の変容が起こりえます。ただしこれは「同じ立場である者たち」の関係性の中でなければ作用しません。人間は、同じ立場の経験談(特に成功体験談)は聞く耳を持ちますし、しかもそれが多数派の意見であれば、聞くほうにとっては説得力をもって聞こえるものです(3Sや5Sに理解のある経営者は、だいたいこのパターンです)。僕のかつての上司の場合も、上司同士の話し合いの場などがあれば、また3Sや5Sに対する価値観の変容が期待できたかもしれません。しかしそのような場づくりがなかったのは、これは会社の責任と言わざるを得ないでしょう。
一方でこういう場を経験したからといって価値観の変容が起きるかどうかは、人次第でもあります。変わる人もいれば変わらない人もいます。したがって、このような「トップの意識レベル改革」を、意図的に、上下関係のある社内で、下から起こそうというのは無理な話です。労多くして実りなしに終わる可能性がオチです。
暴論かもしれませんが、そのようなトップの意識しかない組織では、3Sや5Sはやらないほうがいいですし、そんな意識でやるくらいならば今すぐやめたほうが組織のためです。その代わり、トップが心の底から信じていること――それが提案制度であろうが社内レクであろうが飲みニケーションであろうが――を社内で実施したほうが、組織にとってはもっと有益です。