おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
今日は僕のコンサルタントとしての先生をご紹介します。MITのスローン校で教鞭をとっていた、エドガー・H・シャイン先生です。シャイン先生のコンサルティング理論の中核にあるキーワードは「謙虚」です。なぜ「謙虚」でなければならないのでしょうか。
エドガー・H・シャイン先生はすごい人
シャイン先生の名前を知らなくても、シャイン先生の考え出した概念を知っている人はたくさんいます。例えば「組織文化」という言葉がありますが、これを定義し、理論化したのはシャイン先生です。
その他にも「キャリアアンカー」という言葉もまずまず知られていますね。人がキャリアを選択する上での価値観や欲求を理論化したもので、人材開発系の書籍などを読んでいるとよく出てくる考え方ですね。
シャイン先生は、経営コンサルタントでもありますが、その以前に心理学者でもあります。あの有名な社会心理学者のクルト・レヴィンのお弟子さんであったりします。シャイン先生の考え方の根底には、臨床心理学の考え方が見え隠れしていまして、僕が放送大学で心理学を学んだのも、シャイン先生の考え方をより正しく理解することが理由の一つだったりします。
「謙虚」(humble)とは何か
日本語では「謙虚」とか「控え目」などと訳されますが、シャイン先生は"humble"と言っています。"hubmle"は、英英辞典を引くと"not considering yourself or your ideas to be as important as other people’s"(拙訳:自分や自分の考えが、他人のものと同じくらい重要であるとはみなさない)とあります。反対語は"proud"(誇る)や"overbear"(押し付ける)ですね。
「謙虚」と日本語で訳するとちょっと違和感もあるのですが、「押し付ける」の反対語として理解したほうがわかりやすいかもしれません。(下記の動画の中でも、humbleの反対の意味の言葉としてoverbearをシャイン先生が使っています)。まあまずは、「押し付けないコンサルティング」が重要だと理解しましょう。
※この動画は、2016年にシャイン先生が"hubmle consulting"(謙虚なコンサルティング)という書籍を出した時のインタビューです。
なぜ「謙虚」が必要なのか
シャイン先生には臨床心理家としての考えが根底にあるからでしょうが、支援者(例えばカウンセラーやコンサルタント)は、被支援者(クライアント)を直接的に助けることはできない、というのが基本的な考え方です。例えばプロセスコンサルテーションという本の冒頭(謝辞)の部分にはこういう記述があります。
およそ人間の関わることにおいては、指図するのではなくて、その人たち自身に自分が何を必要としているかを発見させ、しかるのちに彼らがそこに向かって進んでいくのに力を貸してやるのがベストだということであった。
これは、当事者でない支援者が、当事者であるクライアントとは別人格であり、クライアントそのものにはなりえないと一線を引いているのですね。別人格なので、クライアントと同じように問題認識をしたり、クライアントの動機や態度、思考を(支援者だからといって)コントロールなどできないということです。
なのでまずは謙虚に、クライアントの声を聴いて、クライアントに寄り添う姿勢でいることが大切だ、ということです。拙速な判断をしないけれども、ある程度の判断をするためには情報がいるし、信頼関係がないとそういった情報も集まりません。
上記の動画でもシャイン先生は語っているのですが、ものすごく率直に(僕なりの解釈で)言うと「コンサルタントはよそ者だから、その組織固有の問題を(コンサルティングの当初から)正しく理解などできっこない」ということです。その会社の置かれている外部環境や業界構造、組織の構造、一人一人のスタッフの特性やスキル・能力、諸制度など、組織が直面する問題の要因となりうるものは無数にあります。そういうものを最初から理解することはできないのです。
ましてや近年は、技術向上やグローバル化などが急速に進んでいるのですから、その企業のことをよく知らない人が「ああ、問題はこれですね」「ではこういう手を打ちましょうか」などと簡単には言えないはずです。このように、安易に問題を決めつけたり、ソリューションを押し付けるのではなく、「謙虚に」(過信をせず、自分の考えを押し付けずに)接する必要があるということです。
心の病を抱える患者に「あなたの問題は〇〇だから、××しなさい。そうすれば100%よくなりますよ」なんて言わないでしょ?それと同じようなことをコンサルティングの現場でもしちゃだめよ、と言っているのですね。
コンサルタントの仕事はソリューション提供ではない。企業の問題を解決するのが仕事である
これも僕なりのシャイン先生の考え方の解釈ですが、コンサルタントの仕事はソリューション提供ではありません。でも、コンサルタントの仕事はソリューション提供だと思っている人はたくさんいるんですよね(というか、そういうコンサルタントが大多数だと思います)
僕の知り合いのコンサルでもいるのですが、コンサルタントの仕事はソリューション提供だと思っていると、自分の得意なソリューションを押し付けがちなんですよ。例えば評価制度のコンサルタントは、問題の原因を評価制度に求めがちです。自分が仕事を欲しいからなのか、それともハロー効果のようなもので、それが原因だと過大評価するからなのかはわかりません。
ISOや目標管理のコンサルタントであれば、「仕組みがない」というのを原因に求めがちとなり、ISO構築や目標管理制度構築を提案しがちです。補助金コンサルタントは「設備が古いのが生産性阻害要因なので、補助金で新しい設備を買いましょう」と押し付けがちなのです。
でも、それは本当にその企業の抱えている問題であり、適切な解決方法であるとは限りません。そんなに簡単に問題や解決策の特定なんてできるはずはありません。本来であれば、何が問題か、どうすれば解決するかは、思案に思案を重ね、試行錯誤しないとたどり着かないものです。そこにたどり着いたとしても、会社を取り巻く環境が変わると、原因やら対策やらはその都度変わります。
そうなると「今、何が問題なのか」「なぜそれが起きているのか」ということにアクセスし続けるしかありません。ソリューションはそれを解決するための手段の候補にはなりえますが、絶対的で唯一無二の解決方法ではないはずですからね。
そういう意味での「謙虚」であり、「ソリューションを押し付ける」こととは真逆の態度でいることが重要だと、シャイン先生は重要と言っていると解釈しています。