おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
人材育成の場でよく語られる話題の一つに「役割が人をつくる」というものがあります。これはとある心理学の実験でも明らかになっていることなのですが、役割がなぜ人を動かすのかを、実例を交えて紹介します。
サブリーダーに任命されて本領発揮したAさんの話
ある会社で、5S活動のサブリーダーをしているパートさん(以降、Aさんとします)の話です。
Aさんは、パートという立場もあって、それまでは特に会社に意見や提案をすることもなく、毎日決められた作業に真面目に取り組んでいました。ところが、会社で全員参加の5S活動をすることになったときに、サブリーダーに任命されました。
Aさんはサブリーダーに任命されて「実はうれしかった」のだそうです。そのうれしさから、Aさんは積極的に5S活動に取り組むようになるのですが、まず考えたのは「とにかく自分で率先して行動し、みんなを巻き込もう」ということでした。
しかし職場のメンバーは、Aさんの後ろ姿も見てくれなかった様子。悩んだAさんは、気づいてもらえるようにわざと散らかしたり、モノを職場の真ん中のよく見えるところに積んだりと、試行錯誤しました。
やがてメンバーもAさんの意図に気づき、次第に協力を得られるようになりました。Aさんの努力は、社長からも高く評価されました。
ある日Aさんは僕に「もしサブリーダーに任命されなかったならば、ここまでは絶対にしなかったでしょうね」と笑いながら話してくれました。Aさんは、サブリーダーという役割を得て、人を動かすコツを身に着けたのでした。
役割は行動に影響を及ぼすという有名な実験「監獄実験」
ところで、1971年に、アメリカのスタンフォード大学で「監獄実験」なるものが行われました。実験者である心理学者のフィリップ・ジンバルドーが考案した実験なのですが、囚人役と看守役が刑務所暮らしをするという実験です。実験ではリアルさがとことん追求されました。看守役と囚人役は、服装はもちろん、実験の初日には本物のパトカーに乗って囚人役の被験者を逮捕するくらいの徹底ぶり。
この実験を進めていくうち、看守役はより看守らしく振る舞うようになり、囚人役はより囚人らしく振る舞うようになりました。やがて看守は、囚人を番号で呼ぶようになり、トイレ掃除を素手でさせたり、服をはいで裸にして屈辱を感じさせたりとエスカレートするようになっていきます。肉体的、精神的な暴力が激しくなり、実験は6日目に打ち切りました。実験者であるジンバルドーでも制御できなくなったのですね。
これは有名な心理学実験なのですが、この実験からも、人は何かの役割を与えられると、それを全うしようとする傾向があることがわかります(ただしこの心理学実験は再現性の乏しいので、現在でも様々な議論がされていることには注意が必要ですが)。
こういう実験結果を知らずとも、なんとなく想像できませんか?「自分は何をしたらいいの?」というように役割が不明確な状態だと、行動しようという気持ちにはなりませんもんね。勝手に動いて「何をしているんだ」と怒られたくはないですからね。反対に、やるべきことが明確になっていれば(しかもしれが公式に承認された役割であれば)人は迷わずに役割に向かって行動することができます。このあたりが「役割が人を動かす」理由なんだと思います。
活動に巻き込むためには、小さくてもよいから何かの役割を与えることが重要
Aさんの話や「監獄実験」の話から、日々の経営に活かせることがあるとすれば、それは「小さくてのよいから何かの役割を与えること」と言えるでしょう。
Aさんのように5S活動に巻き込むためには、リーダーという役割を与えるということもその一つでしょうし、もしかしたら5Sの「持ち場」を明確にすることかもしれません。ISOマネジメントシステムの運用に巻き込むには、内部監査員に任命するというのも方法でしょうし、もしかしたら、手順書やチェックリストをその担当に自ら作らせるということかもしれません。
リーダーに任命するというような大きな役割では、かえってプレッシャーに感じたり重荷に感じたりして、かえってやる気を失わせるかもしれませんが、毎日の掃除や整理整頓をする「持ち場」を決めるくらいならそれほどの負担にはならないですよね。こうして自分が、ある活動において、何をすべきかという役割を明確にしてあげる事によって、はじめて人は動くのだと思います。