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ものづくり補助金の審査体制をRIETIのDPより推測する(注意!完全に当社の憶測記事です)

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おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

今年の6月、独立行政法人経済産業研究所から『ものづくり補助金の効果分析:回帰不連続デザインを用いた分析』というディスカッション・ペーパーが公開されました。ここにものづくり補助金の審査体制に関する記述がありましたので、考察をします。

独立行政法人経済産業研究所『ものづくり補助金の効果分析:回帰不連続デザインを用いた分析』

経済産業研究所では経済産業省からの要請に基づいて、平成24年度より中小企業庁が実施している「ものづくり補助金」の効果を分析しました。EBPM(根拠に基づく政策形成)と呼ばれる動きが世界的にあり、その一環として「ものづくり補助金」がテーマに選ばれたそうです。

結論だけを端的に言うと「同補助金の採択事業者と非採択事業の間でアウトカム変数の統計的に有意な差は見られなかった(正又は負の政策効果があるとは言い切れない)」というものです。もっともディスカッション・ペーパー中でも触れられていますが、ものづくり補助金の制度自体が複雑であり、分析が容易ではないという背景もあります。そのなかでこういった分析を行った研究者のみなさんには敬意を評したいと思います。

平成28年度までのものづくり補助金の審査体制

このディスカッション・ペーパーの本来の使い方ではないのですが、本文中にものづくり補助金の審査体制についての記述があります。これまで一般には明かされることのなかった情報でもあります。少し長いですが、該当部分を引用します。

各事業者による申請は、各都道府県毎にある地域事務局に設置された地域採択審査委員会において、事業内容の技術的新規性等の「技術⾯」、事業としての市場性等に関する「事業化⾯」の得点が付けられ、各経済産業局及び沖縄総合事務局において、政策の⽬的に照らした妥当性などに関する「政策⾯」の得点が付けられた。これら 3 つの得点が合計された評価点が算出された。各地域採択審査委員会は書⾯審査結果を基本として案件の順
位付けを⾏い、全国採択審査委員会に提出し、全国採択審査委員会は、採択ボーダーライン近傍の案件を再審査し、最終的な採択案件が決められた※2。採択ボーダーライン近傍の案件のみ多くの審査員が評価することで、審査コストを抑えつつ事業計画の審査を精緻化することが⽬的であった。ただし、再審査の際、採択の可否のみを⾒直し、点数を再評価することは⾏わなかった。なお、上記の審査⽅法は、平成 29 年度事業以降は実施されていない。

※2 再審査の対象となる評価点の範囲は、各公募次により異なる。具体的には、平成 24 年 1 次公募 2 次締切では各都道府県の中で上位 32%から 40%に位置する案件、平成 24 年 2 次公募では上位 43%から47%、平成 25 年 1 次公募 1 次締切と 2 次締切では上位 35%から 39%、平成 25 年 2 次公募では上位28%から 32%が再審査にかけられるとなっていた。ただし、それらのボーダーラインは予算残額等により変更され得ることが明記されていた。

平成29年度以降は実施されていないということですから、平成28年度までは上記の審査体制であったことがわかります。ところで、審査体制が変わったと思われる数字の動きを当社では把握をしています。これは、都道府県ごとの採択率の標準偏差(ばらつき)を示した表ですが、平成29年度以降は都道府県ごとの採択率のばらつきが大きくなっていますね。

おそらく、都道府県ごとの採択率のばらつきが大きくなるような審査体制が、平成29年度以降に運用されはじめたということを意味しているのだと当社では想定しています。

平成28年度までの審査体制を図示する

あくまでもREITIのDPに記載されていた情報からの推測ですが、平成28年度までの審査体制を図にすると、下記のようなものではなかったかと想定されます。

各都道府県で審査をするのですが、そこで合計された評価点を算出し、案件の順位付けを行います。それが中央に送られるのですが、「ボーダーライン」近傍の案件は、中央で再審査をされるようです。ボーダーラインは「各都道府県の中で上位○%~○%」という具合に設定されるようです。

ですので例えば、兵庫県の上位28%~32%を中央で再審査する、鹿児島県の上位28%~32%を中央で再審査する、という具合に決まっていたのでしょう。この方式で審査をすると、どの都道府県でも一律で同じような採択率になるはずです。平成28年度以前に、都道府県ごとの採択率のばらつきが小さかったのは、こうした審査方式をとっていたからでしょう。

都道府県ごとの採択率のばらつきが大きくなったのはボーダーラインの設定がかわったから?

平成29年度以降は、都道府県ごとの採択率のばらつきが大きくなっています。ここからは完全に当社の推測ですが、平成28年度以前に「各都道府県の中で上位○%~○%」という具合に設定されていたボーダーラインの引き方が変わったからではないかと思われます。一例ですが、下記のような場合には、都道府県ごとの採択率のばらつきが大きくなるはずです。

都道府県ごとにボーダーラインを設定して再審査するのではなく、全国の案件を一元化して、その中でボーダーラインに該当するものを審査するようになれば、ばらつきは大きくなるはずです。この方法だと、中央での再審査の手間が削減されるというメリットもありますが、都道府県ごとの審査の甘辛傾向が顕著に現れてしまうというデメリットもあります(実際にそうなっていますけど)。

これはあくまでも可能性の一つであり、もしかしたら他の審査方法なのかもしれません。このあたりは情報公開請求でもすれば明らかになるのかもしれません(気が向いたらやってみようと思います)。

 

  • B!

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