おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
11月13日、日本経済新聞は『ものづくり補助金、身内から効果に疑念』という記事を報じました。この記事よると、ものづくり補助金は2021年以降も支給は続くものの、年内に始める次の公募(おそらく5次締切)から、ものづくり補助金の要件が厳しくなるようです。
『ものづくり補助金、身内から効果に疑念』
日本経済新聞記事の冒頭部分を引用します。
2020年度の第3次補正予算案の策定が始まった政府内で経済産業研究所(RIETI)が6月にまとめた報告書が話題になっている。長年にわたり補正予算で巨額を計上してきた中小企業向けの「ものづくり補助金」について「政策効果があるとは言い切れない」と指摘したのだ。
(11月13日日本経済新聞より)
ところで、経済産業研究所(RIETI)が6月にまとめたものづくり補助金に関する報告書は下記から読むことができます。この研究は素晴らしいもので、今後のEBPM(根拠に基づく政策形成)に大きな意義のある研究だと僕個人としては思っています。
ものづくり補助金は2021年以降も支給は続くものの、公募要件を厳格化へ
なお、記事には次のような記述もありました。
同補助金は19~20年度の補正の分がまだ残り、21年度以降も支給は続く。中企庁はRIETIの指摘を踏まえ「これまで申請を幅広く受けすぎた面がある。年内に始める次の公募から要件を厳しくしたい」(担当者)。導入から8年たって制度のあり方が問われている。
(11月13日日本経済新聞より)
ここでいう「19年~20年度の補正の分」というのは、令和元年度補正予算3,600億円(いわゆる一般型・通常枠の予算)と、令和2年度第1次・第2次補正予算計1,700億円(いわゆる特別枠・事業再開枠)のことをさしています。ものづくり補助金に関しては、令和2年度第1次・第2次補正予算計1,700億円(いわゆる特別枠・事業再開枠)に関する募集は、12月18日締切の4次締切で終了することを経産省が公表をしています。
一方で「21年度以降も支給は続く」とも記事中に書かれています。こちらの動画で当社が分析をしていますが、令和元年度補正予算3,600億円のうち、今年11月時点ではおよそ550億円程度しか執行済みではありません。もともと令和元年度補正予算3,600億円で執行されるものづくり補助金等の中小企業支援策は、基金形式で3年間の公募を予定したものですから、2021年以降も支給が続くことは既定路線でしょう。
一方、中小企業庁は「これまで申請を幅広く受けすぎた面がある。年内に始める次の公募から要件を厳しくしたい」と述べています。年内に始める次の公募とは、現在の4次締切が12/18に締め切った後の公募で、2月中の締切を予定している5次締切のことと思われます。この中小企業庁担当者の言葉が正しければ、5次締切からは公募要件が厳格化される見込みです。
効果が不透明なのは採択の甘さが一因?
RIETIの分析結果(同補助金の採択事業者と非採択事業の間でアウトカム変数(業統計調査(一部は経済センサス)の個票に記入された従業者一人当たり付加価値額、付加価値額、従業者数、有形固定資産額)に統計的に有意差は見られなかった(正又は負の政策効果があるとは言い切れない)というものでした。これについて日本経済新聞の記事中には「採択の甘さが一因とみられる」とあります。
しかしRIETIの分析内(ディスカッション・ペーパー)には「採択の甘さが一因」というような記述は見当たりません。おそらく「採択の甘さが一因とみられる」というのはRIETI分析に対する記者か中小企業庁の見解だと思われますが、こうした評価は飛躍だと感じます。RIETIの分析内でも「様々な限界に直面した」とあり、必ずしも精緻な分析ができていないことを課題として言及しています。そのうえでの有意差がないという結論です。有意差がないということは、効果がないということと同じではありません。したがってこの時点で「採択の甘さが一因」と評することは、RIETIの分析を正しく読み込めていないように感じます。
確かに支援の現場から見ても、補助金の効果に疑念を持つ場面はありますが、まずやるべきことは公募要件の厳格化ではなく、効果を精緻に測定できるように制度を見直し、測定方法を確立することと考えます。RIETIの分析の目的とするところはEBPM(根拠に基づく政策形成)なのですから、科学的根拠として言及されていないものに依拠して飛躍した判断をすることは、本来の目的からずれていると言わざるをえません。