おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
自社の構想が事業再構築補助金の対象になるかどうかは気にりますよね。そこで今回は、事業再構築補助金に関する公式な事例をまとめたうえ、解説をします。その上で「事業再構築」はどういうことを指すのかがおぼろげながら見えてきたので、紹介したいと思います。
「経済産業省2020年度第3次補正予算PR資料」に見る事業再構築補助金の事例
経済産業省から下記の資料が12月に公開されています。この右下にある3つの事例を紹介しましょう。
事例1
⼩売店舗による⾐服販売業を営んでいたところ、コロナの影響で売上が減少したことを契機に店舗を縮⼩し、ネット販売事業やサブスクサービス事業に業態を転換。
対面型販売から、ネット販売による非対面型販売へと転換していますね。またサブスクサービスについて言及されていますが、これは月額定額制で洋服が借り放題.、返却期限がなく何度でも借りかえられるような"ファッションサブスクリプションサービス"のことを指していると思います。つまり「売る」から「貸す」への転換とも言えます。なお、縮小にかかる店舗改修の費用も事業再構築補助金の対象です。
事例2
ガソリン⾞の部品を製造している事業者が、コロナ危機を契機に従来のサプライチェーンが変化する可能性がある中、今後の需要拡⼤が⾒込まれるEVや蓄電池に必要な特殊部品の製造に着⼿、⽣産に必要な専⽤設備を導⼊。
自動車は部品点数が2~3万点と多いのですが、その部品は必ずしも組立工場(大手自動車メーカーやTier1)の近くで調達されるわけではなく、海外調達もよくあるケースです。しかしコロナ禍で海外からの部品が入ってこなくなった(海外工場がロックダウンで操業停止した等)で、自動車の生産工程全体が停止することがおきます。そうなると、ガソリン車の部品(エンジン部品か何か?)を作っている企業も仕事がなくなりますね。それでは困るので、新分野である電気自動車部品の加工に着手したのでしょう。(一般論ですが、電気自動車部品の部品点数は1万点程度とガソリン車よりも少ないので、サプライチェーン寸断の影響を受けにくいと言われています)
事例3
航空機部品を製造している事業者が、コロナの影響で需要が激減したため、当該事業の圧縮・関連設備の廃棄を⾏い、新たな設備を導⼊してロボット関連部品・医療機器部品製造の事業を新規に⽴上げ。
航空機部品は、ボーイング等の生産停止の影響で、北米や日本国内では部品向上が操業停止・減産しました。航空需要は回復が見込めないので、新分野であるロボット部品や医療機器部品の加工をする、という話でしょう。航空機部品は(機械加工が顕著ですが)比較的数が多く出て、しかも息が長いアイテムが多いのが特徴です。反面、ラインは多品種少量生産にはあまり向かない面があります。そこで多品種少量生産が可能になるような複合機のようなものを新たに導入するという事例なのだと考えられます。
「第1回中堅企業・中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議」資料に見る事業再構築補助金の事例
12月9日に行われた「第1回中堅企業・中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議」の資料では、事業再構築補助金における「事業再構築」の具体事例が、業種ごとに挙げられています。
事例4
産業機械向けの金属部品を製造している事業者が、人工呼吸器向けの特殊部品の製造に着手、新たに工作機械を導入。
ちょっと情報量が少ないのですが、産業機械向け金属部品とは例えばFAマシン(自動機)の装置内に組み込む部品のようなものでしょうか。人工呼吸器は、コロナ禍で需要が急増している分野ですが、そうした新分野での特殊部品(コンプレッサーによる圧縮空気を制御するような部品?)の加工に乗り出すという内容でしょうかね。産業機械向けと比べると人工呼吸器部品のほうが数が多そうなので、ロボドリルのような量産加工に向いているMCなどの導入をするんでしょうかね。
事例5
光学技術を用いてディスプレイなどを製造している事業者が、接触感染防止のため、タッチレスパネルを開発。医療現場や、介護施設、公共空間の設備等向けにサービスを展開。
タッチレスパネルとは非接触で操作ができるタッチパネルモニターのことで、空中の指の位置や動きを検出するものですね。これは新製品開発の事例でもありますけど、その後に「医療現場や、介護施設、公共空間の設備等向けにサービスを展開」とあります。自社開発の製品の貸し出しサービス、サブスクリプションサービスのようなものをしているとすれば、製造業からサービス業への業態転換とも言えそうです。
事例6
売上が激減した飲食店が客席や厨房等の設備を縮小して経費を節減。その一方で、オンライン上で注文を受付できるサービスを導入。宅配や持ち帰りにも対応。
客席や厨房設備を縮小して経費を節減というのはイメージがわきづらいかもしれませんが、客席を少なくすればホール係の人員も減らすことができるので経費削減になります。厨房設備縮小もメンテナンス費用や電気代の削減につながります。こうした店舗縮小にかかる店舗改修の費用も事業再構築補助金の対象です。そのうえでネット注文による宅配、持ち帰りに対応して、非対面型のビジネスモデルへと転換を図っていくということでしょう。
事例7
飲食店が、観光客の三密回避のため、来客データの収集と分析をし、来店予測、混雑予報AIを開発。飲食店をはじめ様々な業種にサービスを展開。
この事例はおそらく、三重県の飲食店である
有限会社ゑびやの事例ではないかと思います。ゑびやは、飲食業として店舗運営の効率化・合理化をすすめるなかで自社開発の情報システムを開発してきましたが、そのノウハウを活かしてシステムを同業他社に提供するというITサービス事業をはじめました。つまり、飲食業からIT業への転換ですね。
事例8
小売店が店舗への来客数減少に伴い、売上が激減したことを契機に店舗を縮小、ネット販売事業やサブスクリプションサービス事業に業態を転換。
上記の事例1とほぼ同内容の事例ですので、事例1の解説を参考にしてください。
事例9
金属表面処理技術を活かし、銀の抗菌被膜を形成する抗ウイルス製剤の製造に着手、生産ラインを新規に立ち上げて主力事業化。
この事例はおそらく、静岡県浜松市のメッキ加工業である
三光製作株式会社の事例ではないかと思います。三光製作は
バイク、自動車などの輸送用機器等へのメッキを得意としていましたが、平成21年から抗菌メッキ事業を始めています。銀を始めとする金属自身には抗菌性の効果があり、それを薄くメッキするという加工ですね。従来持つメッキ加工のノウハウを活かし、需要の伸びが見込まれる新たなメッキ分野へ進出をするという内容です。
事例10
宿泊客数が激減し、ホテルの稼働率が低下している中、テレワークの拡大を受けて、客室をテレワークルームやコワーキングスペースに改造し不動産賃貸業に業種転換。
宿泊業の事例です。移動制限もありホテルは厳しい厳しい経営状況が続いていますが、客室が個室であることやネット環境が整備されていることを活かして、テレワークプランを設けているホテルが数多くあります。行政としても、例えば
さいたま市では、ホテルのテレワーク環境整備に対して協力金を出すなどの支援も行っています。宿泊業から不動産賃貸業へと業種転換をする例といえるでしょう。
「中小企業庁の告知資料」に見る事業再構築補助金の事例
中小企業庁が運営するミラサポPlusの事業再構築補助金に関するページにも、想定事例が掲載されています。ただし上記の事例1、3、6と同じ事例ですので、詳しい解説は上記をご参照ください。ここでは事例の載っている資料の掲載にとどめておきます。
公式の事業再構築補助金事例から見えてくる事業再構築の定義
1月8日時点で、上記の9つの事例が公式に公開されているのですが、これらの9つの事例から何か見えることはあるでしょうか。当社がこの9つの事例をじっくり読んだ限りでは、事業再構築の定義がおぼろげですが見えてきたように思います。
事業再構築の定義は、当社の推測の範囲内ですが、大まかに分類して次の3つに分類できそうです。
- 業種や提供する商品・サービスはそのままで、提供方法だけを変えること(事例1、6、8)
- 業種や提供方法はそのままで、新しい商品・サービスを手掛けること(事例2、3、4、9)
- 自社の業種までも新たに変えること(事例5、7、10)
今後、「事業再構築指針」というものが経産省から公表される予定になっていますが、おそらく上記のような定義がされるのではないかと、これら9つの事例から推測できます。