おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
5月31日、経済産業省は令和3年度行政事業レビュー公開プロセスを行いました。レビューにおける外部有識者による評決の結果、「事業内容の一部改善」という結論になりました。これを受け、3次公募以降に要件等のいくつかが変更になる可能性がでてきました。
行政事業レビューと公開プロセスは何か
政府の行革推進本部事務局のホームページによると、行政事業レビューとは次のように述べられています。要は、制度として無駄がないか、改善の余地はないかを各府省が確認することです。
行政事業レビューとは、国の約5,000のすべての事業について、Plan(計画の立案) -Do(事業の実施) -Check(事業の効果の点検) -Action(改善)のサイクル(「PDCAサイクル」)が機能するよう、各府省が点検・見直しを行うもので、いわば「行政事業の総点検」とでもいうべきものです。
(行革推進本部事務局のホームページより)
5月31日に行われたのは行政事業レビューの「公開プロセス」というものです。公開プロセスについては下記のとおりです。
各府省は、毎年4~6月ごろにかけて、各事業について予算が前年度に最終的にどこに支出され、どのように使われたかといった実態を把握し、事業の自己点検を行います。この自己点検のうち、「外部の視点」を活用して「公開の場」で行うのが「公開プロセス」です。
公開プロセスでは、6名の外部有識者が事業を担当する部局と議論し、その模様をインターネット生中継等で公開するものです。
議論の結果は、外部有識者の共通意見である「取りまとめコメント」として課題や改善点が取りまとめられ、各府省はその内容を次年度の予算の概算要求に反映します。
(行革推進本部事務局のホームページより)
この度、中小企業等事業再構築促進事業(事業再構築補助金)の行政事業レビュー・公開プロセスが行われましたが、出席した外部有識者は下記の6名です。(50音順・敬称略)
- 上村 敏之 関西学院大学経済学部 教授
- 梶川 融 太陽有限責任監査法人 代表社員 会長
- 佐藤 主光 一橋大学国際・公共政策大学院 教授
- 滝澤 美帆 学習院大学経済学部 教授
- 藤居 俊之 関西学院大学経済学部 教授
- 水戸 重之 TMI総合法律事務所 パートナー弁護士
中小企業等事業再構築促進事業(事業再構築補助金)の評決結果は「一部改善」
進行役の梶川融氏は、外部有識者による評決結果について、下記の通りまとめています。
評決の結果、「現状通り」3名、「事業内容の一部改善」が2名、「事業全体の抜本的改善」が1名でございますが、いずれにしろ改善を求められた方が3名おられて、現状通りが3名ということでございます。このケースでは、少しゲンカ?(筆者注:聞き取れず)には申し訳ないんですが、厳し目な方をとるということでこの行政事業レビュー運営されてきていたと思いますので、私の不手際で、「一部改善」2名と「現状通り」3名を比較して先程は「現状通り」と申し上げましたけれども、本来の運営の趣旨から考えまして、今回の評決にしましては「事業内容の一部改善」ということで、「抜本的に改善」の方は「一部改善」に含んでいただいて、「一部改善」ということで評決結果とさせていただきたいと思います。
(令和3年度行政事業レビュー公開プロセス動画1:17:20ごろより)
中小企業等事業再構築促進事業(事業再構築補助金)に対する外部有識者のコメント(論点シート)
では、外部有識者は事業再構築補助金の制度に対して、どういう部分を改善すべきとコメントしたのでしょうか。これは論点シートとしてまとめられたものが公開されていますので、見てみましょう。
事業再構築補助金・レビューの論点1 無駄な補助がなされないようにすべき
- 約 67,000 者という採択予定件数が支援すべき対象に対して適切な規模かどうか、検討すべき。
- 予算ありきで採択をしていくと、本来自ら投資すべき事業や、当初より撤退が予定されていた事業に対する補助が行われることになりかねないため、審査を厳格に行うべき。
- 金融機関のコミットを求め、融資先として不適切と考えられている事業者に補助がされないようにすべき。
- 成果を高めるため、補助事業の進捗を途上で把握すべき。
事業再構築補助金・レビューの論点2 効率的な事業運営を行うべき
- 事務局経費が 400 億円を超えるなど大規模であるため、効率的な運営を行うべき。
事業再構築補助金・レビューの論点3 成果測定の実施方法を十分検討すべき
- 新型コロナウィルス感染症の影響を受けた時期と比較すると、成長目標の達成が容易になってしまうため、付加価値額の増加率等の成果測定に当たっては、比較対象をよく検討すべき。
- 成果目標は事業者の規模や補助対象事業の性質によって、異なるものを設定すべき。
- 補助金を受けなかった事業者と補助金を受けた事業者を比較し、補助金の純粋な効果を測定する方法を検討すべき。その際、(特に補助金を受けなかった事業の申請時及びそれ以降の財務情報など、)検証に必要なデータの整備に取り組むべき。
- 審査基準が全て定性的な書きぶりになっており、政策効果を検証する際に審査員のバイアスを検証することが困難であることから、可能な限り審査基準は定量的に設定することを検討すべき。
中小企業等事業再構築促進事業(事業再構築補助金)に対する外部有識者のコメント(論点シート以外)
上記の論点シートに記載された以外でも、公開プロセスの中で下記のようなコメント(主に改善要望)が外部有識者から挙げられています(できる限り網羅的に挙げているつもりですが、筆者である僕の独断と偏見で挙げているので、漏れや抜けがあるかもしれません)。このあたりも見直しの対象として考慮に入れられる可能性があるかもしれませんし、見直されないかもしれません。
- (佐藤)中小企業等事業再構築促進事業と生産性革命推進事業の棲み分けが不明確。委託機関は一本化できないのか
- (佐藤)中小事業者からは、単に補助金のメニューが追加しただけと思われているのではないか
- (佐藤)BCPの観点もあったほうがいいのではないか
- (佐藤)個社支援の制度になっているが、面として(サプライチェーンとして)の支援もすべきではないか
- (上村)国が補助することによる市場への影響(コロナ後有益な産業に集中すると競争が激しくなり収益性に影響はないか)についても考慮すべき
- (上村)事業化報告5年間もとめてモニタリングの結果は国民もモニタリングできるような仕組みにすべき
- (上村)中小企業の成長のありかたについて、税制上の問題、租税特別措置を含めた税制、補助金、規制を総合的に考察すべき
- (滝沢)卒業枠の要件未達の場合、資本金の操作による悪用の恐れがあるのではないか
事業再構築補助金3次公募以降で何が変わるか
上記の結論を見ていると、「審査基準が全て定性的な書きぶりになっており、政策効果を検証する際に審査員のバイアスを検証することが困難であることから、可能な限り審査基準は定量的に設定することを検討すべき」というコメントがあることから、審査項目や申請要件が見直される可能性があります。「定量的に設定すべき」というコメントなので、それが売上高なのか利益額・利益率なのか、付加価値額なのかはわかりませんが、定量的に測定可能な審査項目が設けられる可能性があるでしょう。
また、審査体制についても厳格化される可能性があります。「予算ありきで採択すべきでない」は有識者による主な懸念事項の一つと思われます。特に一橋大学の佐藤教授から質疑・コメントが多くありました。67,000社という採択予定件数に関わらず、採択するのは将来性ある企業にすべきという見解です。予算ありきでは無駄になりかねないので、予算が余れば一般会計に戻すこと、というコメントもありました。
これに対して中小企業庁側も「67,000社にこだわって採択率を調整する気もありませんし極端なことを言えば、本当に再構築に値するものが出てなければ予算は不要を立てるべき性格のものであると思います」と述べています。このことからも、厳格さを維持したまま(場合によっては今後さらに厳格化する可能性も含んで)今後は審査をされるものと思われます。