おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
ISO9001箇条7.1.6「組織の知識」ついて説明をします。ここはISO9001が2015年版に改訂されたときに、新しく追加された項目の1つですね。そんなに長ったらしい要求事項ではありませんが、具体例を交えないとちょっとわかりにくいので、できる限り例を使って説明します。
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箇条7.1.6「組織の知識」の「知識」とは何か
「知識」というと、本とか教科書、テレビ、新聞とかネットなどで頭の中に仕入れたコトというイメージがありますね。この箇条7.1.6で言われている「知識」は、英語でいうとknowledgeですが、knowledgeを英英辞典で意味を調べると「教育や経験を通じて得た情報、理解、技能のこと」と定義されています。つまり頭の中に仕入れたコトだけではなく、技能、すなわち体で覚えたことなども含まれています。
この7.1.6でいう「知識」とは、どういうものを指すのでしょうか。規格を読むと大きくわけて2つあげられています。一つが「プロセスの運用に必要な知識」です。これは例えば、不良品が発生したときには、是正処置として、なぜそうした不良が発生したのかという原因を分析して、原因に対して再発防止策を取ることが必要です。しかし原因を分析するのも結構難しくて、原因分析のコツがテクニックがわかっていなければ「うっかりしていた」などという浅い原因しか思いつきません。そうならないよう、原因分析にはコツやテクニックがあるのですが、例えば「なぜなぜ分析」という手法があります。そうしたものは、プロセスの運用に必要な知識と言えるでしょう。
もう一つは製品及びサービスの適合を達成するために必要な知識です。いわゆる「職人技」だと思ってもらったらよいでしょう。旋盤で金属を加工するときは、チャックと呼ばれる部分で材料を固定するのですが、固定の仕方が甘いと狙い通りの精度がでなかったり、材料に跡が残ったりします。職人さんは機械のクセとか材料の特性などを見て、微妙にチャッキングの加減を変え、良品を作るのですが、そうした技能も「組織の知識」です。
ISO9001では作業標準書や手順書を作ったり検査の記録を取ることを求めていますが、そうした標準・手順書だけではなく、いわゆる「職人技」がないと、良品が作れなかったり、不良が発生してしまうケースが多々あります。そうした「職人技」についてもちゃんと明確にして、「職人だけがその知識を知っている」という状態にとどめておくのではなく、社内で展開しなさいと7.1.6では言っているわけですね。
箇条7.1.6「組織の知識」の規格要求事項
では箇条7.1.6の規格要求事項を見てみましょう。
まず組織は、プロセスの運用に必要な知識、並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要な知識を明確にしなければならない。とあります。先程、例にあげたようなもので、良品を作るため、または不良を作らないようにするために必要な情報、理解、技能にはどういうものがあるのかを明確にしなさいと言っています。
その上で、「この知識を維持し、必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。」とあります。文書化の要求ではないのですが、「必要な範囲で利用できる状態にする」ということですから、何らかの形としてまとめて、それにアクセスできるようにしないとならないでしょう。例えば作業手順書にコツ、ポイント、勘所などを書いてまとめておくとか、文書という形でなくてもよいですが、作業の流れやもようなどをビデオに撮ったものを保存しておく、といった方法が考えられます。私が過去に監査した組織では「ノウハウ集」「成功事例集」「失敗事例集」みたいな形でまとめておいて、紙ファイルにとじて書棚においている、という会社がありました。
ちょっと注意しないといけないのは、外部審査などで「組織の知識をどう明確にしていますか」と聞かれて、ただ単に作業標準書を出したり、スキルマップや教育訓練の記録を見せたりするのはちょっと物足りないかなと思います。確かに作業標準書に書かれていることも「組織の知識」に違いはありませんが、ここで言っている「組織の知識」は、もうちょっと言葉や文字だけでは説明が難しい、コツや勘所などのことを指しています。
そして最後の一文ですが、これはどういう意味でしょうか。変化するニーズ及び傾向というのは、箇条4.1や4.2で分析したような、内部・外部の課題の変化や利害関係者のニーズなどの変化を指しています。例えばわかりやすいのは、法令への対応ですね。例えば私の仕事の一つに、中小企業等経営強化法に関連する仕事っていうのがあるんですね。法律にしたがって書類を作るという仕事なんですが、法律が変われば仕事の正しいやり方も変わる場合があります。法律が変わったのに、古いやり方をしていたら、お役所から「これ違いますよ」と書類を突き返されかねないですよね。これは、利害関係者である行政のニーズの変化といえます。こうしたことに対応するために、法律の改正点をどこでどうやって調べるのか、みたいなことは、決めておいてくださいね、ということをここで述べているわけですね。
箇条7.1.6「組織の知識」は、いわゆる「暗黙知」というものについて触れている要求事項といえます。これがわざわざ2015年版から登場したとうことは、良品を作るため、または不良をへらすうえで、暗黙知と言われるノウハウや情報、技能というのがとても重要だということなんですよね。このあたりもしっかりと管理していただきたいと思います。