おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
政府の緊急経済対策によって、事業再構築補助金に新たな特別枠と加点措置が設けられました。その対象となる事例が中小企業庁の資料に書かれていました。分析と解説をします。
事業再構築補助金 新たな特別枠と加点措置に関する資料はこちら
【例1:資源高による影響】
フライ菓子などの製造販売業者。コロナの影響により実店舗への客足が減少していることに加え、原材料となる小麦粉、油などの価格が高騰する一方、商品単価の値下げが難しく、売上・利益率が減少。既存の加工技術を活かし、新たにドライフルーツの製品を製造する機器を導入。原油価格・物価高騰の影響を受ける体制から脱却し、新たな市場の開拓を図る。
フライ菓子の製造販売業者の事例ですから、スナック菓子みたいなものを作っている会社の事例でしょうかね。
「コロナの影響で実店舗への客足が減少している」とあります。これはコロナの影響でねす。緊急対策枠では、コロナの影響を受けていることも必須です。そもそも事業再構築補助金はコロナ対策の補助金ですからね。
そしてその後、「原材料となる小麦粉や油などの価格が高騰」とありますね。これが物価高騰の影響です。コロナと物価高騰の影響をダブルで受けているということですね。
そしてここからがちょっと変なんですが、「商品単価の値下げが難しく、売上・利益率が減少」とあります。これは値下げではなく、値上げの誤植じゃないかと思います。原材料の高騰を価格に転嫁できないといいたいのだと思いますね。しかし仕入れ価格が高騰して利益を圧迫するというのはわかりますが、原材料の高騰のせいで売上も下がっているというのはなぜだろう?という気がしますよね。コロナの影響なのか、もしくは物価高騰で消費者が買い控えをしているのか、そういうことなのだろうとは思いますけれども。
そしてそれ以降が再構築の話しです。こうした影響をダブルで受けているので、新製品を作ろうという話ですね。ドライフルーツだと小麦粉や油を使わないので、原油価格や物価高騰の影響を受けずに済む、ということなのでしょう。
この事例には深く書かれていませんが、要件を満たすために必要なことが他にも当然あります。例えば事業再構築指針では、カニバリズムにならないような市場の設定が必要です。フライ菓子のお客がドライフルーツに流れていかないような商品設計や販売方法をとる必要があります。こうした事例だけを見て判断するのではなく、必ず事業再構築指針や公募要領の要件を確認してください。
【例2:直接的・間接的な輸出入の影響】
明太子を製造・販売する事業者。コロナの影響により飲食店向けの販売量が減少していることに加え、原料であるタラの卵はロシア産が多くを占めており、製造量を縮小せざるを得ず、売上が減少。既存の加工技術を活かし、ねり天ぷらや出汁など国内産の水産物を用いた新たな製品を製造する工場を新設。輸出入の影響を受ける体制から脱却するとともに、既存の販売経路に加え、EC販売も駆使し、感染症等の危機に強い事業として事業の展開を図る。
明太子の製造販売業の事例です。この事例もまず注目すべきなのはコロナの影響です。取引先の多くが飲食店なので、緊急事態宣言発令等の影響を受けて売上が下がっているという内容です。
その上、ロシアに対する経済制裁の影響からか、原料の輸入がままならず、製造量が落ちているという話で、これも「原油価格・物価高騰等の経済環境の変化の影響」ですね。この事例もダブルパンチを受けていることがわかります。
その後が再構築の話です。新製品としての練天ぷらや出汁を開発するということですね(新製品開発)。「既存の販売経路に加え」とありますから、これは指針の新市場要件も満たしていそうです。
この事例の最後に「感染症等の危機に強い事業の展開」とありますが、これは事業再構築補助金の核心の部分です。この補助金は、なんでもいいから新しい製品やサービスを開発すればよいという話ではありません。感染症等によって売上低迷するリスクの高い事業から、感染症等の影響を受けにくい事業へと転換する内容でなければ、この補助金の趣旨にあいません。新しい製品やサービスが、緊急事態宣言発令の影響を受けやすいものや、感染のおそれの高い密の状態で提供されるものであってはならない、ということです。
【例3:海外送金や現地駐在などの諸問題による影響】
機械部品の商社。コロナの影響により部品の調達に時間を要するなどの影響を受けていることに加え、ロシア企業と取引しているが、金融取引の制約によりロシアからの送金が止まってしまっており、ロシア企業からの代金を回収できない限り、コンテナを引き渡すことができず、売上が立たない厳しい状況。機械商社のノウハウを活かし、機械部品専用のフルフィルメントサービス(倉庫業)を行うためのシステムを構築。サービスの提供にあたっては、非対面での営業活動を徹底するとともに、取扱い商材のラインナップを大幅に増やし顧客層を拡大することでリスク分散を進めるなど、感染症等の危機の影響を最小限に抑えられるよう工夫しつつ、ロシア企業との関係に依存しない収入源の確保に取り組む。
この事例も冒頭で、コロナとロシア経済制裁の影響のダブルパンチを受けていることを説明しています。ロシア企業を顧客に持つのでしょう。海外企業と直取引をするくらいなので、中小の機械部品商社としては、結構規模が大きいところなのかもしれません。後半に「ロシア企業との関係に依存しない…」とありますが、ロシアに特化した商社なのかもしれません。いずれにせよ珍しいケースだと思います。
新サービスはフルフィルメントサービスですが、これは入庫から保管、受注後の梱包出荷、配送から代金回収までをワンストップで代行するサービスのことです。そのためにシステムを導入するという話ですね。システムも出来合いのものを購入するのではなく、「機械商社のノウハウを活かし」とあるので、ある程度は独自仕様を含んで開発をしてもらうのでしょう。この補助金は、自社の強みを活用して事業を行うことを求めていますので、出来合いのシステムを購入して「はい、できました」とお手軽に実現できるような内容は評価されにくいです。