おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
11月10日、経産省は『経済産業省関係令和4年度第2次補正予算案の事業概要(PR資料)』を公開しました。この資料をもとに、来年(2023年)の事業再構築補助金の見通しを解説します。
経産省『経済産業省関係令和4年度第2次補正予算案の事業概要(PR資料)』はこちら
『経済産業省関係令和4年度第2次補正予算案の事業概要(PR資料)』における2023年事業再構築補助金の説明はこちら
2023年事業再構築補助金に関する当社の勝手なコメント
まずはこのPR資料をみた大雑把な感想ですが、2023年事業再構築補助金の傾向としては、進出する先が成長分野であったり、グリーン成長戦略やサプライチェーン強靭化という政府が目指すテーマに合致していたりするようなものでなければ、評価がいっそう得られにくくなるんじゃないかと思っています。つまり「役所が期待する分野」にチャレンジする取組を支援するという色合いが、従来よりも濃厚になった印象がありますね。(まあもともと補助金というのは、役所が役所の望む方向に中小企業を誘導するための方策の一つでもあるわけですけどね)
反対に、従来の王道ストーリーのひとつである「コロナや物価高騰で来店客数が減ったから、リモート対応(もしくはデリバリー・テイクアウト・無人販売)をします」みたいな内容だと、もう評価はされないだろうなという感じがしますね。そうしたストーリーでも新しい申請枠である「物価高騰対策・回復再生応援枠」ならば、かろうじて申請が可能でしょうが、この枠は従来の「回復・再生応援枠」から推察すると、かなり売上が減っていないとダメではないかと思います。
もちろんこの補助金に限らず、補助金は一般的に審査員の目線のバラつきが大きいので、そうした従来型ストーリーでもラッキーパンチで採択はされるかもしれません。ただ、この後にお話をする、今回の制度変更点から総合して考えると、従来型ストーリーはあまり望まれているようには思えません。
2023年事業再構築補助金のポイント①:現行(2022年)の事業再構築補助金との事業目的の違い
では、2023年事業再構築補助金のポイントを解説していきましょう。まずは現行(2022年)の事業再構築補助金との事業目的の違いから解説をしましょう。現行(2022年)の事業再構築補助金と2023年事業再構築補助金とでは、事業目的に変更が見られます。この変更点は結構重要だと思います。現在の市場の動向などを踏まえ、いまこの時点で、役所が事業再構築補助金をどう捉えているかがわかるためです。
まずは2023年事業再構築補助金の事業目的を見てみましょう。
長引く新型コロナウイルス感染症の影響に加え、物価高騰等により、事業環境が厳しさを増す中、中小企業等が行う、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応した、感染症等の危機に強い事業への大胆な事業再構築の取組を支援することで、中小企業等の付加価値額向上や賃上げにつなげるとともに、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
(経産省『経済産業省関係令和4年度第2次補正予算案の事業概要(PR資料)』P17より引用)
今度は現行(2022年)の事業再構築補助金の事業目的を見てみましょう。
本事業は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
(『事業再構築補助金公募要領(第8回)1.0版』P2より引用)
まず注目したいのは「物価高騰等」というキーワードが見られるようになった点です。事業再構築補助金は、制度が作られた経緯からも、コロナ対策の意味合いが色濃い事業でした。第6回公募からは物価高騰の影響を受けた事業者への加点や特別枠も設けられましたが、事業目的として明確に「物価高騰」というキーワードが使われたということですね。もはやコロナ対策だけではなく、コロナ+物価高騰対策の補助金になった、といえるでしょう。
次に注目したい点は、「感染症等の危機に強い事業への大胆な事業再構築の取組を支援することで」という表現が使われるようになった点です。先程も申したように、この補助金は「コロナ+物価高騰対策の補助金」なので、当然、取り組むべき事業再構築の内容も、コロナの影響や物価高騰の影響から脱する事業(つまり、コロナや物価高騰によるリスクを低減・回避できる事業)への転換が本来の趣旨である、ということが強く打ち出された形でしょう。いくら新分野展開や事業転換という条件に当てはまっても、新しい取組がコロナの影響や物価高騰の影響から脱するものでなければ、従来以上に評価されなくなる可能性があるでしょう。
そして最後の点ですが、「中小企業等の付加価値額向上や賃上げにつなげるとともに」という表現が使われている点ですね。特に「賃上げにつなげる」という点が重要です。具体的には後で説明しますが、2023年の事業再構築補助金における「成長枠」と「グリーン成長枠」では、賃上げをすることによって補助金額や補助率の上乗せがあるようです。
2023年事業再構築補助金のポイント②:申請類型の再編
では、2023年事業再構築補助金のポイントのふたつめ、申請類型の再編について見てきましょう。
2023年の事業再構築補助金では、申請類型が大きく変わります。経産省のPR資料ではわかりにくいので、現行(2022年)と来年(2023年)の類型の比較をしてみました。赤字の部分が、現行から変わる部分です。
従来の「通常枠」が「成長枠」に再編
まず、従来の「通常枠」が「成長枠」に再編されます(再編といっても大幅に変わります)。PR資料を読むと「成長分野に向けた大胆な事業再構築に取り組む事業者に向け、売上高減少要件を撤廃した成長枠を創設します。」とあります。いわゆる「成長分野」(例えばバイオとか半導体とかロボット等)を新規進出分野とする場合に限定した申請類型だと思われます。成長分野とは具体的にどの分野か?というのはこのPR資料からではわかりませんが、「成長戦略実行計画(令和3年6月18日)」などで言及されている分野でないと、評価を得るのは難しいかもしれません。
また新しい「成長枠」では、売上高減少要件が撤廃されるようです。
さらには「成長枠」で申請する事業者の中で、中堅・大企業へ成長する事業者(つまり中小企業基本法における中小企業の定義を超えるほど拡大する事業者)や、大規模な賃金引上げ等を行う事業者に対しては、補助金額や補助率を上乗せするそうです。
従来の「回復・再生応援枠」は「物価高騰対策・回復再生応援枠」に再編
続いては、従来の「回復・再生応援枠」は「物価高騰対策・回復再生応援枠」に再編されるようです。補助金額は上がりますが、補助率は下がるようですね。補助率は基本的には中小企業等は2/3ですが、「特別枠」に該当する場合は補助率が3/4に引き上げられるようです。なお、3/4に引き上げられる条件は、PR資料からはわかりません。
またPR資料では「新型コロナの影響に加え、物価高騰等により業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む事業者の事業再構築を引き続き支援するため、補助率を引き上げた特別枠を創設します。」とありますので、コロナの影響と物価高騰の影響の両方を受けていることが条件でしょうね。
「グリーン成長枠」が大幅に拡充
3点目はグリーン成長枠の拡充です。PR資料によると、グリーン成長枠は、要件を緩和した類型(エントリー)が創設されます。この要件の何がどう緩和されるのかは、PR資料からはよくわかりません。当社の勝手な推測ですが、グリーン成長戦略「実行計画」14分野にあたるかどうかの判定を甘くしてくれるのかもしれません。
また「グリーン成長枠」で申請する事業者の中で、中堅・大企業へ成長する事業者(つまり中小企業基本法における中小企業の定義を超えるほど拡大する事業者)や、大規模な賃金引上げ等を行う事業者に対しては、補助金額や補助率を上乗せするそうです。
「産業構造転換枠」が新設
そして「産業構造転換枠」ですが、これは新しい申請類型です。「国内市場の縮小等の産業構造の変化等により、事業再構築が強く求められる業種・業態の事業者に対し、補助率を引き上げる等により、重点的に支援します。」とあります。衰退産業から新しい成長産業に事業再構築する企業が申請可能な類型だと思われます。
一般的に想像される衰退産業とは、出版・印刷業界や製造業界(分野にもよりますが、家電やエンジン自動車分野などはもはや衰退産業と言っていいと思います)、そしてアパレル業界などが思い浮かびます。こうした業界の企業が、IT業界や半導体業界、EC業界などの成長産業に事業再構築するようなケースを想定した申請類型と思われます。一般論としては結構無理がある転換なので、本当にそうした転換ができる裏付けがあるか(つまり成長産業でも活用できる強みがあるか)ということをしっかりと事業計画で述べないといけないでしょう。
ただし、衰退産業が衰退産業で新規事業をするようなケース(例えば印刷業界でオフセット印刷中心の企業が、デジタルオンデマンド機を導入する)みたいなものは「産業構造の転換」とまでは言い難いので、対象外かもしくは評価されない可能性が濃厚だと思います。印刷業を例にあげるとすれば、印刷業自体をすっぱりやめて、Webや紙媒体のデザイン専門会社になるとか、ECサイト構築業者になる、みたいなケースが想定されているのだと当社では考えます。
また「廃業を伴う場合は2,000万円上乗せ」とありますので、先ほどの例のように、印刷業界をすっぱりやめて成長分野に鞍替えするというケースだと、廃業にかかるコスト(設備の処分費等なんでしょうかね?)を補助してくれるということなのだと思います。
「サプライチェーン強靭化枠」が新設
最後に「サプライチェーン強靭化枠」です。これも新しい申請類型です。「海外で製造する部品等の国内回帰を進め、国内サプライチェーンの強靱化及び地域産業の活性化に資する取組を行う事業者を支援します。」とあります。いわゆる「サプライチェーン補助金」と重複しているような印象がありますが、これは事業再構築補助金なので、やはりコロナや物価高騰、円安の影響などによる売上減少要件を満たしているとか、事業再構築指針に当てはまるようなケースでないと申請が難しいのではないかと思います。(しかし海外製造部品を単純に国内回帰するというだけだと、製品の新規性要件や市場の新規性要件などは満たしづらいのではないかという気もしますが、どうでしょうかね)
一方で補助上限額が5億円と高額なので、色めきだってしまいそうですが、その分難易度も高い(要件にピッタリと当てはまるような案件が限られている)と思っておくのが無難です。