おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
環境法令解説シリーズ、今回はEU(欧州連合)の規制であるREACH規則について解説をします。成形品を日本から輸出するというケースに絞って、ざっくりと解説します。
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REACH規則とは何か
REACH規則とは、化学物質の登録、評価、認可、制限に関するEU(欧州連合)の規則のことです。
EUで製造したり、EU域内に日本から輸出して販売される物質や混合物、成形品に、ある特定の化学物質を使う際の規制をしている法律みたいなもののことです。こまかいルールはいろいろあるんですが、日本で仕事をしている我々から見ると、日本で作ったモノをEU域内へと輸出して販売するものが規制の対象です。
自社が作ったモノが日本国内しか流通しない、というのであれば、もちろんREACH規則の対象外です。ただしちょっと気をつけないといけないのは、日本の中小企業などで「うちは部品や材料を作って、日本の取引先に納めているだけですよ。ヨーロッパには直接出荷しているわけではありませんよ」という場合でも、取引先からは、「REACHで規制されているモノを使っていないという証明を出してください」と求められることがあります。なので日本国内の取引だけであっても、REACH規則については最低限知っておいたほうがよいでしょう。
一般的にはREACH(リーチ)と呼ばれるんですが、これは到着するとか手を伸ばすとかいう意味の英単語のREACHと同じつづりです。このつづりになっているのには意味があります。
REACH規則の英語での正式名称が、Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicalsというんですが、これらの単語の頭文字をとっているんですね。これを日本語に訳すと、化学品の登録・評価・認可および制限に関する規則となります。EUで、2007年6月1日に発効した、いわば法律のようなものですね。
REACH規則の経緯と目的
REACH規則ができた経緯は、2002年に「ヨハネスブルグ地球サミット」という、地球環境問題に関する国際会議が開かれたことにさかのぼります。そこで採択された実施計画に従って、EUがこのREACH規則をつくりました。
だからこの規則には、「人の健康と環境を保護する」という目的があります。ちなみに日本では、この「ヨハネスブルグ地球サミット」に基づいて化学物質審査規制法(いわゆる化審法)が改正されました。なので日本の化審法と、このREACH規則はまずまず似ています。もちろん違うところもあるんですけどね。
REACH規則における「成形品」とは
REACH規則は、化学物質や混合物、成形品などに適用される、非常に幅広い規制です。 今日のこの記事では「成形品」に適用される要件に焦点を当てて、REACH規則を解説したいと思います。
REACH規則における「成形品」とはどういうもののことでしょうか。成形品の定義を見てみたいと思いますが、これが難解です。簡単に言うと、成形品とは、ネジのように単純なものもあれば、電子機器のように複雑なものもあります。もっというと、家庭や産業界で広く使われている部品や製品のほとんどは、成形品だといってもよいと思いますね。こうした成型品が、EUへ輸入される際……つまり日本人の我々から見た場合は、日本からEUの市場に輸出する場合に、REACH規則が適用されます。
REACH規則における「成形品」に対する制限
まず最初に、成形品に対する制限から解説をしましょう。REACH規則では、人の健康や環境にとってリスクのあるモノの製造や販売・使用は、EU全域で使用制限または場合によって禁止されています。
制限されている物質は、REACH 規則の付属書XVIIというもので定められています。付属書XVIIの最新のリストには、この記事の執筆時点で、76エントリーあるんですね。大雑把に言うと、76くらいの物質が規制されているということです。
例えばですが、ニッケル化合物は附属書XVIIに記載のある制限物質ですが、これを使った成形品のうち、皮膚に直接かつ長時間接触することを意図した成形品、具体的にはピアスやイアリングなどですが、これらのニッケル溶出率がある一定以上だと、EUへの輸出ができません。
REACH規則における「成形品」に対する義務
つづいて、成形品に対する義務について見ていきましょう。成形品に対する義務は3つあります。
まず最初が物質の登録義務です。意図的に放出される物質が含まれているもの(例えば芳香するマスクなど)で、その意図的に放出される物質が成形品中に、年間に1輸入業者あたり1tを超える量で存在し、さらにその用途が登録されていないものというこの3つを全て満たす場合は、登録が必要です。ただし、REACH規則による登録は、EU域外の企業はできません。したがって、欧州側の輸入者が、登録義務を負うことになります。
次の義務は物質の通知義務です。REACH規則で定められた物質のうち、非常に高い懸念のある物質があります。こうした物質は、SVHC(高懸念物質)と呼ばれたり、 CLS(候補リスト物質)と呼ばれたりします。SVCHとCLSは厳密には違いますが、今日は便宜上似たようなものだとして扱います。
SVHCとは、高懸念物質(Substances of Very High Concern)の略で、だいたい6ヶ月ごとにどんどん追加されていきます。この記事の執筆時点では224エントリーが高懸念物質とされています。このSVHCが年間に1輸入業者あたり1tを超える量で存在して、さらに成形品の重量に対して0.1%を超える濃度であるというこの3つを全て満たす場合は、欧州化学品庁に通知が必要です。
そして最後、情報の伝達義務です。これは、物質の通知義務から、年間1トンという条件を除いたものです。SVHCであり、さらに、成形品の重量に対して0.1%を超える濃度であるというこの2つをどちらも満たす場合は、消費者等の受給者への通知(少なくとも物質名を伝えること)が必要になります。
納品先が日本国内の取引先だけでもREACH規則は知っておいたほうがよい?
「うちは直接EU向けに輸出・販売してないよ」「納品先は日本国内の取引先だけだよ」という場合でも、その取引先がEUでの販売するつもりならば、REACH規則の規制物質を使っていない証となる非含有証明書や不使用証明書を提出することが求められる場合もあります。
非含有証明書は自己宣言でも作成できるんですが、信憑性があるとはいいがたいので、第三者検査機関のレポートを一緒に出せと求められることもありえます。そういう場合は、専門の試験機関に依頼して、規制物質が含まれていないかどうかの含有分析をするなどをしてもらう必要もあるかもしれません。
こうした有害化学物質の管理の流れは、持続可能な社会を実現する上で、EUだけでなく中国やアジア諸国においても今後は厳しく求められることになっていくと思われますので、しっかりやっていかないといけないんでしょうね。