おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
3月14日、事業再構築補助金事務局は「第10回公募以降の成長枠対象業種・業態リスト(第一弾)」を公開しました。新しい「成長枠」とは何か?という基本を踏まえながら、本リストを解説します。
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「第10回公募以降の成長枠対象業種・業態リスト(第一弾)」はこちら
2023年事業再構築補助金「成⻑枠(旧通常枠)」とは
まずは「成長枠」について、2022年12月14日に中小企業庁が公開した資料「事業再構築補助⾦令和4年度第⼆次補正予算の概要」にもとづいて解説をします。
第9回公募まで「通常枠」と呼ばれていた申込みプランが、第10回以降は「成長枠」に衣替えをします。いわゆる「成長分野」を新規進出分野とする場合に限定した申請類型です。売上減少要件が撤廃される代わりに、①付加価値額が年率平均4%以上増加すること、②市場規模が10%以上拡⼤する業種・業態であること(基本的には事務局が指定した業種・業態)、③事業終了後3~5年で給与⽀給総額を年率平均2%以上増加させること、の3つを新たに満たさなければなりません。給与支給総額の向上についての要件がありますので、毎年賃金台帳等の提出が求められる上、最終的に賃上げが未達であることが判明したら、補助金の返還が求められる可能性が高いです。
今回公開された業種リストは、このスライドで言う②に関連するリストですね。
そしてこちらが成長枠の補助上限額、補助率です。旧通常枠と比べると、補助上限額も補助率も低下しています。上乗せしてほしければ、大規模な賃上げをするか、中小企業を卒業するかしなさいということなんだろうと思いますね。
ところで最近、「事業再構築補助金の要件が緩和される」と喧伝しているコンサルや商社・メーカーの話をよく聞きます。当社にも「事業再構築補助金の要件が緩和されるんですか?」という問い合わせがたびたびあります。しかし上記の資料を読めばわかるように、売上高減少要件が撤廃されるだけで、その他に新しい要件が付与されています。2023年の事業再構築補助金は、要件が緩和がされるとは単純には言えません。コンサルや商社・メーカーには、都合のよい話しかしない人が少なからずいますので(無論、当社も含めて)、必ず公式の資料を自分の目で確認してください。
リストに「衰退産業」は含まれていないか
リストの注釈を見ると、経済産業省「工業統計調査」、経済産業省「企業活動基本調査」を基に、以下①②の両方を満たす業種を機械的に指定しているようです。なお第一弾の対象業種は109個あり、日本標準産業分類の小分類で指定されています。
①2009年~2019年の間に市場規模(製造品出荷額等/売上高)が10%以上拡大していること。
②2019年だけ極端に増加したため達成、2009年だけ極端に低いため容易に達成といったような推移ではなく、継続的に上昇トレンドにあると認められること。
このリストは、いわゆる成長産業を絞ったリストですが、ここには衰退産業は本当に含まれていないでしょうか?2つほど深掘りして見ていきたいと思いますが、衰退産業として一般的に思いつくのは、印刷・同関連業(中分類15)ですね。印刷業がデジタル化などの紙離れで、最盛期より市場規模が半分以下になっている業種ですね。15から始まるコードとしては、159の「印刷関連サービス業」しか含まれていませんね。159の「印刷関連サービス業」とは、総務省の定義でいうと「主として校正刷り、刷版研磨などの印刷・同関連業に関わる補助業務を行う事業所」だそうです。これが果たして成長分野であるかといわれるとちょっと意外ですが、機械的に指定しているということなので、どういうわけか要件は満たしているんでしょうね。ただ、159以外の印刷・同関連業はこのリストには含まれていませんね。
またアパレル関係も衰退産業として、今日では一般的に認知されています。アパレル関係も最盛期は10兆円市場でしたが、今では7.5兆円にまで縮小しています。アパレル関係は、産業分類の中分類でいうと、51「繊維・衣服等卸売業」や、57「織物・衣服・身の回り品小売業」のうち、衣服などのアパレル製品の卸売、販売に関わる産業ですね。ただ、51から始まるものや、57から始まるものは、この度のリストには、たしかに載っていませんね。唯一「511繊維品卸売業(衣服、身の回り品を除く)」がリストに含まれていますが、この業種は衣服や身の回り品を除くので、アパレル業とはいえないですね。511は何の業種なのかというと、細分類を見ると、繊維原料や糸などの卸売のことを指していると思われます。この分野も伸びているとは意外ですが、もしかしたらペットボトルなどから作った再生繊維などの卸売あたりが、分野として伸びている理由かもしれません。
リストはあくまでも「第一弾」。これ以外も対象業種になる可能性がある
ここでもう一度、リストの注釈に戻りましょう。注2には「指定された業種・業態以外であっても、応募時に要件を満たす業種・業態である旨データを提出し、認められた場合には対象になり得ます」と書いていますね
指定された業種・業態以外であっても、応募時に要件を満たす業種・業態である旨データを提出し、認められた場合には対象になり得ます。公募開始以降事務局HPに掲載予定の様式に必要事項を記載の上提出してください。(過去の公募回で認められた業種・業態については、その後の公募回では指定業種として公表します。
このリストで指定された業種・業態でなくても、自らデータを提出し、認められた場合には、対象となり得るらしいです。ただし、そもそも役所が「これは成長分野ではないな」と除外したものを再度認めさせるようなデータを出さないといけないわけですから、これはかなりハードルが高いと言えるでしょう。今回のこのリストは、公的な調査結果である「工業統計調査」や「企業活動基本調査」をもとに作られたものですから、これらに類する信ぴょう性のあるデータに基づいて、成長分野であることを主張しなければならないでしょう。ネットで拾ってきたような都合の良いデータだけを出しても、認められる可能性は低いでしょう。
なお、事務局ホームページのトップページに書いていましたが、「業界団体等からの指定申請」といって、業界団体が「うちの業界を対象にしてください」という申請をして、事務局の審査で認められた場合には、その業種・業態を指定するそうです。これもどこまで認められるかは不透明ですね。
事業計画書で書かれた内容が指定業種であるかどうかも審査されるはず
最後に、新しい成長枠とこのリストに関する留意点を説明しましょう。最初の点ですが、要は、このリストに書かれた業種を新規分野とする事業計画しか対象になりません。もともと事業再構築補助金は、今の事業にまつわるリスクを低減するために、新分野で新製品を提供するという趣旨の補助金ですからね。
二点目は、リストに書かれた業種を新分野としたとしても、書かれた内容によっては評価されにくいということです。例えばリストには、自動車・同付属品製造業が指定されています。自動車関係の部品を作っている鉄工所などがこれに該当すると思いますが、同じ自動車関係の部品でも、今後需要が減っていくと思われるガソリン車の内燃機関の部品などでは評価されないでしょう。EVの部品とか、内燃機関であっても水素自動車用の部品など、今後伸びていく分野でないと評価が得にくいでしょう。
もちろん無理やり指定されている業種にこじつけたり、虚偽の事業計画を作るのは大きなリスクになるのでやめたほうがいいでしょうね。それでも採択されたらラッキーだろという考えで申請をするのも止めたほうがいいです。補助金は、採択されたら逃げ切れるというわけではありません。例えば事業再構築補助金の「補助事業の手引き(1.3版)」14ページ (注2)には「採択公表後又は交付決定後に公募要領等に定める要件に対する違反が判明した場合は、原則として採択、交付決定の取消しを行います。」と書かれています。審査員がたまたま見逃して審査をパスすることもあるでしょうが、その後、会計検査院の監査等で要件違反が発覚すると、採択・交付決定取り消しになりえますので、虚偽や不正というのは絶対にやめてくださいね。