おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
12月に東京商工リサーチが『経営のプロ 「コンサル会社」 の倒産が急増 ~ コロナ禍での政策支援と「本物を求めるニーズ」のはざまで ~』という記事を出しました。ぼくも業界で生きる端くれとして、この記事に疑問を抱いたので、ちょっとまとめてみたいと思います。
東京商工リサーチ『経営のプロ 「コンサル会社」 の倒産が急増 ~ コロナ禍での政策支援と「本物を求めるニーズ」のはざまで ~』はこちら
疑問点1:どういうコンサル会社の倒産が急増しているのかが謎
そもそもコンサル業といっても、経営全般の助言をするコンサルだけではなく、特定分野(例えばSEO対策指南とか、SNSの使用方法を助言するような限定的な分野)のコンサルもあります。というか、コンサルを名乗っている人たちは、そういう特定分野の人が多いように思いますね。
特定分野の知識があることは、特定分野のプロではあるでしょうけど、必ずしも東京商工リサーチの記事の表題にもあるような「経営のプロ」を意味しません。
コンサル会社の倒産が急増しているといっても、その中のどういう層の倒産が増えているのかが、この記事からはわかりませんね。業界全体の傾向を理解するためには、さらに詳細なデータや分析が必要です。倒産している企業がどのようなサービスを提供していたのか、その規模や市場での位置付け、経営戦略など、さまざまな要因を考慮する必要があります。
疑問点2:倒産率はどうなのか
記事には急増の根拠として「こうして2020年1-10月96件、2021年同期73件、2022年同期78件と高止まりし、2023年同期は116件に急増している。」と、倒産件数が絶対数として書かれています。
しかし東京商工リサーチの2014年のレポートでは、「5年間で経営コンサルタントを営む企業数は約1.9倍」とあります。記事にもあるように、コンサル業は参入障壁が低いので、コンサル企業の新規参入数は、一般的な業種と比べても多いことが推測できます。ということは、記事にある倒産件数が多いといえるかどうかは、倒産件数の絶対数だけでなく、業界全体の企業数に占める倒産企業の割合で判断しないと、本当に急増していかどうか、正確なことは言えないと思います。
疑問点3:コロナ禍でコンサル業の収益が悪化するのは当然ではないか
記事には「本来は企業が苦境に直面し、受注が促進される時期に仕事が減少する皮肉な事態となった。」とありますが、これは別に皮肉でもなんでもないと思います。コンサル業の顧客は企業ですから、コロナ禍で企業の収益が悪化すれば、コンサルに仕事を依頼することが減るのは自明といえます。現場の実感としても、企業が苦境に直面したときに「よっしゃ!これで仕事が増えるな!」とは思いませんよ。(この辺は専門分野や、どういう顧客を対象としているのかによっても違うのかもしれませんけど)
疑問点4:補助金コンサルが市場をしゃぶり尽くして撤退したのではないか?
記事では「企業がコンサルよりも政府や自治体の各種支援金への依存度を高めたので、コンサルは仕事が減った(意訳)」と書いています。確かにそういう側面もあったでしょう。飲食業だったら、一時支援金をもらっていれば、店を開けなくても一定の補償が受けられるので、コンサルを雇う意味はなくなりますからね。(ただ、そういう飲食業がそもそもコンサルを使っていたかどうかは疑問ですが)
むしろコロナ禍の補助金バブルで、コンサル業に参入した企業が大量に発生しましたが、それがバブル終了とともに撤退したことを「倒産」と認知しているのではないかという気もします(まあ、廃業や撤退と倒産は意味合いが違いますけどね)
疑問点5:コロナをきっかけに、年配のコンサル業が引退・廃業した可能性はないか
廃業や撤退と倒産は意味合いが違うのを承知で可能性を挙げますが、コロナをきっかけに、年配のコンサル業が引退し、それが原因で廃業したというケースが、この倒産件数に含まれていないかという疑問もあります。一般論ですが、コンサルタントは年齢が高い人が多いですからね(あまりに若すぎると経営者に舐められる。もちろんそうでない人もいますけど)
記事にある棒グラフを見ると、2017年頃からずっと、コンサル業の倒産件数は高止まりしています。確かに2023年は過去最大数ですが、コロナ禍のような経済的不確実性が高い時期と、コンサル業界における引退傾向の高さが噛みあわさった、と解釈することも、そんなに無理筋ではないように思いますがどうでしょうか。
高齢化問題は、コンサル業にも容赦なく降り掛かっていますからね。
コンサル業の倒産が増えているかどうかについては、以下の点も考慮したい
コンサル業の倒産が増えているかどうかについては、以下の点も考慮したいところです(自分でやろうとは思いませんけど)。
- データの多角的分析
- もっとデータを深く分析しないといけないでしょうね。例えば、倒産したコンサル会社の業務範囲や、規模、市場でのポジショニングなどをさらに詳細に分析する、みたいな感じで。
- 他業界との比較分析
- 倒産率を把握するというのはもちろんですが、コンサル業界の倒産率と他業界の倒産率の比較もしたいところです。コンサル業界の状況が特異なものなのか、それとも他業界でも一般的に見られるものなのかも知りたいですよね。
- 経済状況の広範な考慮
- これは記事にも一部書かれていますが、コロナ禍による経済的影響に加えて、他のマクロ経済的要因(例えば、技術革新、グローバル経済の変動、政策変更など)も業界に影響を与えていると考えられます。このあたりも考慮に入れると、倒産が本当に増えているのかどうかが見えるようになりそうです。
- 質的分析の導入
- 数値データだけでなく、業界の関係者や専門家からのインタビュー、ケーススタディなどを取り入れたいですね。数字では表現できない業界の実態を把握することができますからね。
このデータだけで「経営を助言する側がつぶれてどうする!」などと結論を出すのは早計
以上のように、この記事に書かれていることには疑問が多く浮かびますし、まだまだ詳しい分析の余地があります。したがって、この記事をもって業界の姿を正しく写しているかどうかはわからない、というのがぼくの感想です。ましてやこの記事だけに基づいて「経営を助言する側がつぶれてどうする!」などと結論を出すのは論外と言えます。
そういう安易な結論には、コンサル業に携わる人間であれば、飛びついてはいけません。コンサル業はあくまでも客観的な事実に基づいて判断をする役割を担っているわけですからね。