おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
遅まきながら、昨年公開された「AI事業者ガイドライン」をざっと読んでいきたいと思います。今回は前編として、「はじめに」「第1部」と、第2部のAとBを要約していきます。
AI事業者ガイドラインはこちら
この記事を執筆時点(2025年1月)では、第1.01版が公開されています。
はじめに(P2~P8)
AI事業者ガイドラインがなぜ必要であったかという背景や、ガイドラインはどういうものかという全体像を「はじめに」で示しています。
ガイドラインが作られた背景
AI技術が発展して、個人や企業がAIを簡単に使えるような時代となった。これによって産業の変革や社会課題の解決が進む一方で、知財侵害や偽情報生成などのリスクが増大した。こうした状況を踏まえ、AI活用の安全とイノベーション促進を両立するための、日本における統一的なガイドラインが必要になった。
このガイドラインの全体像
従来あったいくつかの既存ガイドラインを統合し、新たな社会的課題や技術の発展を反映した内容に再構築した。利用分野や形態に応じたリスク評価と、それに基づく対応策を記載した「リスクベースアプローチ」を採用している。
そのうえで、ガイドラインは全5部構成になっている。
このガイドラインは、国際的な議論も踏まえて検討されたものである。AI技術やデジタル技術の発展が非常に速いため、ガイドラインを高頻度で見直していく方針でもある(アジャイル・ガバナンスの思想を参考にしている)。
対象となる事業者の定義
「はじめに」で重要なポイントは、このガイドラインが対象とする事業者の定義が明確になっている部分でしょう。「AI 開発者(AI Developer)」「AI 提供者(AI Provider)」「AI 利⽤者(AI Business User)」の3つに分けられていて、それぞれの役割が図示されています。
具体的な例でいうと、
AI開発者: OpenAI(ChatGPTを設計し、モデルをトレーニングし提供する)など
AI提供者: 翻訳サービスのプロバイダー(ChatGPTのAPIを使って独自の翻訳プラットフォームを開発)
AI利用者: 翻訳サービスの利用者
という感じでしょうか。
なお、AI開発者とAI提供者は、EU AI Actにおける"Provider"に、そしてAI利用者は"Deployer"に該当すると思われます。
第1部 AIとは(P9~P10)
ここでは用語の定義をしています。ちょっと難しい言葉で書いていますが、公式の定義なので、ガイドラインを読んで確認をしていただければと思います。(本記事では割愛します)
第2部 AI により⽬指すべき社会及び各主体が取り組む事項(A.基本理念)
基本理念では、AI技術の開発・提供・利用において、何を目指すべきかを明らかにしています。このガイドラインでは、以下の3つの基本理念を掲げています。この基本理念は、事業者がAI技術の開発・提供・利用において、判断に悩んだときの基準にもなるものですね。
- 人間の尊厳が尊重される社会
- AIを人間の能力を引き出す道具とし、豊かな生活を実現するような、人間の尊厳が尊重される社会を作る。(AIが人間をコントロールするような社会にはしない)
- 多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会
- 多様性を包摂し、新しい価値を創造する。(AIによって少数派を迫害したり差別を助長するような社会にはしない)
- 持続可能な社会
- 格差解消や環境問題への対応を通じて、持続可能な未来を構築する。(AIによって格差を助長したり、地球環境に悪影響を及ぼすような社会にはしない)
第2部 AI により⽬指すべき社会及び各主体が取り組む事項(B.原則)
ここでは、基本理念を実現するために事業者が守るべき「原則」を示しています。基本理念と似たようなことを言っていますが、ここで述べているのは、基本理念を実現するために具体的に何をするべきかという「行動」ですね。
- AIの開発・提供・利用において、人間の尊厳を守り、社会的リスクを低減することが重要
- 安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティの確立が求められる
- AIのバリューチェーン全体での品質向上と、ステークホルダー間での連携を重視
- 社会と協力し、AIリテラシーの向上や公正競争の促進
- 新たなビジネス創出を通じて、全ての人にAIの恩恵を届けることを目指す