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株式会社マネジメントオフィスいまむら

AIコーディングに夢見る人が知るべき「不都合な真実」

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おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

昨日の記事で、AIコーディングについて夢のある話をしましたが、今日はその続きとして、少し耳の痛いお話をしなければなりません。AIコーディングで非エンジニアが乗り越えるべき現実の壁、や覚悟について深く掘り下げていきたいと思います。

昨日の楽観的な記事はこちら

AIコーディングは中小製造業の生産性をどう高めるか

製造業の現場では、人手不足と生産性向上の両立が大きな課題となっています。特に中小製造業では、限られた人員で効率的な生産管理や品質管理を行う必要があります。そんな中、AIコーディングが注目を集めているのをご存知でしょうか。AIコーディングとは、人工知能を活用してプログラムコードを自動生成したり、既存の

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AIコーディングの「不都合な真実」

ぼくの経験則ではありますが、「プログラミング知識ゼロでも大丈夫!」という甘い言葉を信じて飛び込む前に、まずは知っておくべき3つの現実があると思っています。

真実1:「コーディング能力」は不要でも「対話能力」は必須である

「AIに自然言語(日本語)で指示すればいい」というのは事実ですが、その「日本語」が曖昧であれば、AIは平気で的外れなコードを生成します。AIコーディングで本当に問われるのは、AIと正確に意思疎通するための「論理的な対話能力」です。

例えば、「在庫が少なくなったらメールで知らせて」という指示だけでは不十分です。

  • 「在庫が少ない」とは、具体的に何個以下ですか?
  • 誰にメールを送りますか?CCには誰を入れますか?
  • メールの件名や本文はどうしますか?
  • 毎日チェックしますか?それともリアルタイムですか?

こうした点を曖昧さなく言語化し、AIに伝える能力がなければ、期待通りのものは作れません。さらに、AIが生成したコードがエラーを起こしたとき、「ダメだ、使えない」と諦めるのではなく、「こういうエラーが出たんだけど、原因は何だと思う?」「この部分をこう修正してほしい」と、粘り強く対話し、問題を解決に導く「デバッグ能力」も求められます。

要は、人間の新入社員に対して粘り強く教えていくような姿勢を、ずっとキープし続けなければならない、ということですね。

真実2:「プロトタイプ」と「実運用システム」は全くの別物である

「半日で発注メールのプロトタイプができた!」というのは本当ですが、、それをそのまま現場で使うのは非常に危険です。

なぜなら、プロトタイプはあくまで「動く見本」であり、実運用で求められる信頼性や安定性が全く考慮されていないからです。

  • エラー処理は万全か?:もし発注先のメールアドレスが間違っていたら?システムは無限にメールを送り続けてしまうかもしれません。
  • セキュリティは大丈夫か?:誤った操作で、他の重要なデータを消してしまう可能性はないでしょうか?
  • 重複実行のリスクは?:担当者が間違って2回ボタンを押したら、発注が二重にかかってしまうかもしれません。

こうした「もしも」をすべて想定し、対策を講じて初めて「業務で使えるシステム」になります。この「プロトタイプ」と「実運用」の間にある巨大な溝を理解せず、安易に導入すると、業務効率化どころか、重大なトラブルを引き起こす原因になりかねません。

真実3:AIは「木を見て森を見ず」の専門家である

AIは驚くべきスピードでコードを書き上げますが、それはあくまで「部分最適」の達人だからです。AIには、人間が持つようなプロジェクト全体の「鳥の目(俯瞰的な視点)」がありません。この事実を理解しないまま頼り切ると、思わぬ落とし穴にはまります。

  • 全体像の欠如と短期的な記憶力: AIとの会話が長くなると、初期の指示や重要な前提条件を平気で忘れてしまいます。また、目の前のコード修正に集中するあまり、「そもそも、この機能は何のために作るんだっけ?」というプロジェクトの目的を見失いがちです。人間が常に「今、我々は大聖堂のこの部分の、この石を彫っているんだぞ」と、全体像と現在地を伝え続けなければなりません。
  • 依存関係の無視: 「この部分を修正して」と指示すれば、AIは忠実にそこだけを直します。しかし、その修正が他の機能にどんな影響を与えるか(依存関係)までは、指示しない限り考慮しません。結果として、一つのバグを直したら、別の三つのバグが生まれていた、というような事態が起こり得ます。どの部分がどう連携しているかを把握し、修正の影響範囲を管理するのは、人間の重要な役割です。

結局のところ、AIは非常に優秀な「部品製作者」ですが、システム全体の設計図を頭に入れ、部品同士を正しく組み合わせる「総監督」にはなれません。その総監督の役割こそ、AIコーディング時代に人間に求められる、最も重要なスキルだと思います。個人的には、結構ガチガチの管理をしないとAIはトンチンカンなことをしがちだと思っています。

ちなみにAIにプロジェクトリーダー役を担わせて、人間はプロジェクトオーナーに徹するということも技術的には可能ではありますけど、この仕組みを作るにはそれなりの知識が必要だったりします。

それでも挑戦するための覚悟

ここまでAIコーディングの「不都合な真実」をお話しましたが、ぼくはAIコーディングを諦めるべきだと言いたいわけではありません。これらの現実を直視し、正しい「覚悟」を持って向き合えば、AやっぱりAIは中小企業にとって最高のパートナーになり得ると思います。

覚悟1:ツールではなく「有能だが指示待ちの新人」として向き合う

AIを、ボタンを押せば何でも出てくる「魔法の自動販売機」のように考えてはいけません。AIは、「技術力は高いが、業務知識はゼロ。指示がなければ何もできない新人プログラマー」だと捉えてください。

そう考えれば、私たち人間がやるべきことが見えてきます。それは、優秀な「プロジェクトマネージャー」になることです。曖昧な指示ではなく、具体的なゴールと手順を示し、進捗を管理し、完成したものの品質をチェックし、最終的な責任を負うということですね。つまり、企業の管理職が頭を悩ませている管理業務を、やはり同じようにAIに対しても発揮しないといけないという覚悟ですよ。

覚悟2:小さく始めて、たくさん失敗する

当然ですが、いきなり会社の基幹業務である生産管理システムを作ろうとしてはいけません。必ず失敗します。

まずは「なくなっても誰も困らないが、あれば自分がちょっと嬉しい」くらいの小さなツールから始めてください。

  • 複数のExcelファイルから情報を転記する作業の自動化
  • 定期的にチェックしているWebサイトの更新通知
  • 自分用の簡単なタスク管理ツール

こうした小さな成功と、それ以上の数の「うまくいかない」という失敗を繰り返す中で、AIとの対話方法や、ツールの限界、そして自社に必要な機能が少しずつ見えてきます。「失敗は当たり前」と割り切り、そこから学ぶ文化を醸成することが重要です.

まとめ

AIコーディングの登場は、現場の担当者に「プログラマーになれ」と要求しているわけではありません。むしろ「優れたマネージャーになれ」と要求していると、ぼくは思っています。

それは、自部門の業務を深く理解し、課題を明確に言語化し、新しい技術(AI)の特性を学び、リスクを管理しながらプロジェクトを完遂に導く能力です。そして、その能力は、私たちがこれまで人間相手に培ってきたマネジメント能力そのものだと断言できます。

こうした現実と向き合う覚悟があれば、AIコーティングによって生産性を飛躍させることができる……はずです!☺️

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