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神戸製鋼の品質データ改ざん問題の原因は何であったか

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おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

遅まきながら、昨年10月に発覚した神戸製鋼の品質データ改ざん事件の報告書をじっくり読むことができました。なぜこれらの事件が起きたのかという原因を、報告書から抜き出してみたいと思います。神戸製鋼以外の会社でも当てはまるところはたくさんあるのではないかと思います。

「当社グループにおける不適切行為に関する報告書」

神戸製鋼は、弁護士を中心とする外部調査委員会の調査結果を受け、社内検討結果と併せて、この事件の事実関係、原因分析及び再発防止策等を取りまとめた報告書を3月に作成・公表しました。下記のリンクから確認できます。

不適切行為の原因分析 (1)収益偏重の経営と不十分な組織体制

  1. 本社の経営姿勢
  2. 本社による統制力の低下
  3. 経営陣の品質コンプライアンス意識の不足
  4. 事業部門における監査機能の弱さ
  5. 本社による品質コンプライアンス体制の不備

この章では、経営上層部における問題点を指摘しています。本社が各事業部への影響力を行使できなかったと何度か書かれていますが、現場サイドに権限を委譲することそのものは悪いことではありません。それが機能しなかったという点では、やはり3の経営陣の品質コンプライアンス意識の不足というのが大きかったのではないかと感じます。顧客に対してもデータ改ざんするくらいですから、上の顔色をみて仕事をしていたといえるのではという気もします。

不適切行為の原因分析 (2) バランスを欠いた工場運営と社員の品質コンプライアンス意識の低下

  1. 工程能力に見合わない顧客仕様等に基づく製品の製造
  2. 生産・納期優先の風土
  3. 閉鎖的な組織(人の固定化)
  4. 社員の品質コンプライアンス意識の鈍麻
  5. 本件不適切行為の継続

このあたり社内風土の指摘が続くところです。報告書でも

受注の成功と納期の達成を至上命題とする生産・納期優先の風土が形成され、短期的利益を確保する目的で本件不適切行為を行うに至り……

とありますが、やはりこのような風土も、経営陣の意識が反映されたものではないかという気がします。

それにしても「目標」というものの否定的な面を感じずにはいられません。おそらく経営陣も、生産・利益目標を強く意識し、現場サイドに達成を強く要求していたことでしょう。売上や利益といった目標を持つということそのものを否定するつもりはありませんが、過度にそれを追求することが、経営にひずみを生む可能性があるのだということは、コンサルタントとしても経営者としても肝に銘じておきたいところです。

最近よく耳にする「ホラクラシー組織」では、明確な数値目標を持たない組織も多いと聞きます。目標を設定し追及することのデメリットを理解しているからこそ、数値目標を持たない経営ができるのでしょう。私たちには、目標を設定し、それを追及することが「常識」であると信じて疑わない面がありますもんね。

不適切行為の原因分析 (3) 本件不適切行為を容易にする不十分な品質管理手続

  1. 改ざん又はねつ造を可能とする検査プロセス
  2. 単独かつ固定化した業務体制
  3. 社内基準の誤った設定・運用

社内の「仕組み」の部分についての原因分析です。確かにこれも原因としては筋が通っていますが、果たしてこれらの仕組みを厳密にし、運用することで、本当にデータ改ざんが防げるのかというと少し疑問があります。中小企業のような、ゆるい仕組みしかない組織でも、ねつ造が蔓延しているわけではありません。逆に、管理が厳密になればなるほど、その管理業務に手を取られ、ほかの面がおろそかになるという可能性もあると思います。例えばですが、社内のチェックが過度であり、現場の生産活動の負担になってしまい、生産計画が実現できないとなれば、やはり不正をするのではないかと思います。

経営に人間性を取り戻す

僕の独断と偏見ですが、報告書としてはかなり当たり障りのない内容だと感じました。外部委員会に経営の専門家や生産の専門家などもいませんし、経営の問題、意識の問題、仕組みの問題という、一般的な問題点に終始しているのではないかという印象を受けます。外部委員会が入っているからといっても、あくまでも公表元は当事者である神戸製鋼ですから、やむを得ないかもしれません。

この報告書に決定的にかけていると思われるのは、人間の感情です。生産・納期至上主義だったと報告書にも書かれていましたが、報告書から読み取れる以上のプレッシャーが、現場に対してのしかかっていたのではないかと推察します。プレッシャーで追い詰められた現場が、それから逃れようとした結果がこの不正行為であった可能性はないでしょうか。人間は誰しもが、過度なプレッシャーを歓迎するとは限りません。右肩上がりの経済成長が期待できる時代なら我慢の甲斐もあるかもしれませんが、低成長時代の現代ではどうでしょうか。

管理を強めることが本当に再発防止策になるでしょうか。僕は逆に、プレッシャーを強める方向に作用しかねないとも思います。不要な管理を弱め、現場を過度なプレッシャーから解放する――すなわち、経営に人間性を取り戻す――という方向性を優先的に考えなければならないのではないかと思います。

  • B!

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