経営者の方と話していてよく聞くことがあります。それは「うちの従業員には、もっと自分で考えて行動してほしいんだけどな」ということです。経営者が全てを細かく指示するということはできませんし、ほとんどの経営者は「自ら考えて行動する」ことの重要性や面白さがわかっているからですね。
価値観やにニーズが多様化する現代で重要な「自ら考え行動する」
ある介護福祉業の経営者からこういう話を聞いたことがあります。
「うちの仕事はね、マニュアルが作れないんですよ。施設の入居者様は、介護度はもちろん、個性も症状も全て違う。体調もその日によって変わる。全ての状況を網羅したマニュアルを作ることは無理なんですよ。だから職員は、その場その場で入居者様が何を望んでいるのかをに気づき、それを満たすにはどうすればいいかを考え、実行に移すしかないのです。だから『自ら考え行動する』ことが大切なのです。」
これは介護福祉業に限った話ではありません。価値観やニーズが多様化している現代では、状況に応じて対応をすることが昔よりも重要になっていますね。
人間は環境の影響を色濃く受ける
自ら考えて行動する人材を育てるというのは簡単ではありません。言葉で「自ら考えて行動するようにしなさい」と伝えるだけではふじゅうぶんですね。じゃあどうすればいいか?ということですが、その方法のひとつとして「環境づくり」という方法をあげてみたいと思います。
人間は、自分が思う以上に環境に影響を受けています。家ではリラックスしたくなるし、ホテルでは『だれかが掃除してくれて当然だ』と思うようになることでしょう。おそらく、自ら考えて行動するのが当たり前の人であっても、ホテルに泊まっている時に、すすんで掃除やベッドメイキングをする人はまれでしょう。ホテルでは、自分以外のだれかが掃除をするということを知っていますし、実際に部屋に入ると、自分以外のだれかがきれいにした部屋を目の当たりにするからですね。
これは会社も同じです。自分以外のだれかが考えて判断してくれるというのを知っていたり、実際に自分以外のだれかが考えて判断することを目の当たりにするのが当たり前の会社では、自ら考えて行動する人材は育ちません。
ならば「自ら考え出した環境」をつくればよい
人間は環境に影響を受けるのであれば、「自ら考える」という機会・環境をあちこちに作ればいいのです。
それには3Sや5S活動が最適です。自分たちで考えだした、下記の写真のようなものが、職場のあちこちにあったら、どういう気持ちになるでしょうか?自分たちで考えだした環境に囲まれていると「自分たちで考えて行動してもいいんだ」「自分たちで職場を変えられるんだ」「変えることはいいことなんだ」という気持ちになることでしょう。自分の考えを反映した物理的空間が、そこにいる人たちの想像力に影響を与えるのです。自分たちで考えて作った空間が身近にあれば、自分たちで考えて行動することが当たり前だという、無言のメッセージを発することになるので、3Sや5Sが最適なのです。
3Sや5Sでは、きれいさを求めすぎないほうがいい
ここで注意が必要なのですが、3Sや5Sでは、あまり「きれいにする」ということを目指さないほうがよいです。「きれいにする」というのは、ある程度の時間と労力がかかるものです。人手不足の時代に、忙しい合間をぬって、ピカピカに磨き上げ、置き場や置き方を完璧に仕上げることは、時間的にも余裕がありません。ですから3Sや5Sでは「きれいにする」ことよりも、人の意識を変えるということを目的にするほうが、現代ではうまくいきます。何時間もかけて、一直線にきれいにするのを目指すのではなく、3分程度でできることで構わないので自ら考えだした環境を一つずつ職場に増やしていくことが、自ら考え行動する従業員を育てる上で重要です。