おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
ISO9001の各箇条解説シリーズ、「監視及び測定のための資源」7.1.5項について解説したいと思います。ここは不適合がよく見つかる部分なんですが、不適合があるとお客さんにも多大な迷惑を掛ける可能性のある箇条ですので、ちょっと念入りに解説をしたいと思います。
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ISO9001 7.1.5「監視及び測定のための資源」の位置づけ
まずは箇条7.1.5の位置付けです。外部や内部の課題などを考慮して、品質マネジメントシステムを確立しましたが、それをちゃんと運用するためには人、モノ、ノウハウ等の資源が必要です。資源も7.1.2~7.1.6までいろいろありますけれども、今日お話する7.1.5はモノに関するところ、それも検査やチェックに関するモノについて述べた部分です。
箇条7.1.5.監視及び測定のための資源の具体的な解説をする前に、この箇条は何を言おうとしているのかという全体像をまず解説します。これまで見てきたとおり、顧客の要求するモノ・サービスを、そのとおりに作り上げて納品するのが品質マネジメントなんですけど、仕上がったモノ・サービスがお客さんの要求事項を満たしているかどうかを検証する必要がありますよね。一般的に検査とかチェックとか言われているものです。この7.1.5は、検査やチェックをする際に必要な器具や道具、チェックリストのようなものについてどう管理すべきなのかを定めた要求事項ですね。
検査やチェックについては、規格では「監視」と「測定」という言葉を使っています。監視というのは、見守ることで、測定というのは測ることですね。検査やチェックは、必ずしも何かを測ることばかりではないはずです。寸法や重さなどはノギスとか台はかりとかを使い、数値で測定できるでしょうけど、キズとか塗装のムラの有無なんかは器具では測れませんよね。また、工業製品ではなく、サービス業であった場合、例えば私はコンサルティングサービスを提供していますけれども、これも出来栄えを器具で測ることはできません。決められたとおりにサービスが提供されているかは、目視で確認するしかないですからね。ですので、7.1.5で言っている監視測定のための資源というのは、必ずしも計測機器だけではなく、他の資源も当然ありうるわけです。例えばチェックリストなんていうものも、監視測定のための資源と言えるでしょう。
ISO9001 7.1.5.1 「一般」の要求事項
では具体的な要求事項を見ていきますが、箇条7.1.5.監視及び測定のための資源には2つの細かい要求事項があります。まず最初に、7.1.5.1一般の要求事項から見ていきましょう。
ここでは主に、a)とb)、そして文書化した情報の保持の3つが要求されています。
まずはa)ですが、実施する特定の種類の監視及び測定活動に対して適切であるとあります。これも当たり前のことですね。寸法を測ろうとするのであれば寸法を測る資源を用意しなさいということです。寸法を測るのに台はかりを用意しても意味がないですからね。ただそれだけではなく、寸法もミクロン単位の測定が必要なら、デジタル測定器じゃないとダメでしょうね。監視の場合はどうでしょうかね。監視をするための手順が適切であることも必要ですし、監視をする人がその監視する能力を備えていることも必要ですよね。モニターとかディスプレイを使って監視している場合は、これも監視のための資源でしょうし、チェックリストも監視の資源といえます。こうしたものをちゃんと整えなさいといっているのがa)ですね。
一方b)ですが、a)で整えたものをちゃんと維持しなさいということです。計測は時間とともに測定性能がずれてきますので、そうならないように校正をすることが該当するでしょうし、監視について言えば、監視をする人の能力が維持されるようにしないといけないですね。私の個人的なことで申し訳ないんですけど、老眼で小さいものが見えにくくなってきているんですよね。こういう人に目視検査をずっとやってもらうというのはよろしくないですから、老眼鏡をかけてもらうのか、それとも若い人を検査員として育成していくのか、そうした手立てを講じて維持をしなさいといっているのがb)です。
そして最後に、監視及び測定のための資源が目的と合致している証拠を記録しなさいと言っているんですよね。これは計測機器管理台帳を作ったり、校正記録をちゃんと保存したり、力量の評価結果などを記録しておいておくのが一般的でしょう。審査では「校正証明書」とか「基準器検査成績書」、「トレーサビリティ体系図」など、ぞくにいうトレーサビリティ3点セットの確認をしたりしますね。
ISO9001 7.1.5.2 「測定のトレーサビリティ」の要求事項
次の箇条7.1.5.2 は「測定のトレーサビリティ」という要求事項なんですが、「測定のトレーサビリティ」とはそもそもどういう意味でしょうか。
現場で長さを測るためには、例えばノギスを使うことがあります。しかしノギスも長く使っているとずれが生じてきますので、どこかでずれを直さないといけませんよね。でも、これは勝手に「このくらいで大丈夫かな?」という直し方をしてはいけません。ちゃんと正しい長さに合わせる必要があるんですけど、その「正しい長さ」というのは、実は国が決めているんですね。この国が決めた「正しい長さ」に基づいて、現場で使っているノギスも正しく調整されている、という保証ができることを「測定のトレーサビリティ」といいます。
例えばこの図、ピラミッドの一番下の一般計測器、ノギスの校正にはブロックゲージを使います。ブロックゲージとは、この図でいうと参照標準と言われるもので、ピラミッドの下から2番めにあたります、ブロックゲージは、厚さの異なる小さなブロックがたくさんセットになったものなんですが、この小さなブロックをいくつか組み合わせると、あらゆる寸法を作り出せます。例えば50mmの組み合わせを作り、それがちゃんとノギスでちょうど50mmと測定できるよう、校正をするわけですね。
このブロックゲージの寸法が正しいというのは、どうやって保証するんでしょうか。それはこの図でいうとピラミッドの下から3番め、二次標準と言われる安定化レーザーで測定し、校正をします。その安定化レーザーが正しく測れているかどうかは、ピラミッドの一番上、国家計量標準の光コムで確認します。この光コム、光周波数コムは、経済産業省所管の公的研究機関である産業技術総合研究所が持っているものです。国が持っているんですね。なので国家計量標準と言われます。
このように、皆さんがたの工場の現場で使っているノギスも、その正しさの根拠をたどっていくと、国が持つ標準に行き着くんですね。こういうふうに、ちゃんと国が保証するものに行き着くことを確実にすること、後で何かあったときにたどって検証ができることを「測定のトレーサビリティ」といいます。
この基本的な考え方を念頭に置いて、7.1.5.2測定のトレーサビリティの要求事項を見ていきましょう。
まず抑えないといけないのは、測定のトレーサビリティについては「要求事項となっている場合」または「それをすることが不可欠だと自社が判断した場合」に限ります。特に必要ないのに測定のトレーサビリティをやるということまでは求められていません。精密加工が求められるようなものならまだしも、あんまり精度について細かく要求されないものってありますよね。そういうものについては必ずしも測定のトレーサビリティをやらなくてもよいです。
7.1.5.2で要求されていることは3点あります。まずa)ですが、定期的な校正、検証をしなさいという点ですね。校正の周期までは要求事項にはないので、お客さんの要求に従うか、もしくは自社として適切だと思う周期で実施することになります。b)は識別をしなさいと言っています。校正した年月日を書いたシールを測定機器に貼って、校正済であるという識別ができるようにするなどが該当しますかね。C)はちゃんと保護しましょうということなので、測定器や標準器は温度変化のない場所に保管するといったことが一般的ですね。熱膨張や熱伸縮でずれてきますからね。もちろん、落としたりぶつけたりしないよう、測定機器まわりの3S・5Sも重要ですね。
そして最後、「意図した目的に適していないことが判明した場合」とあるのは、実は測定機器が壊れていましたとかずれていましたというのが発覚した場合は、それなりの対応をしなさいということです。お客さんへの連絡や、場合によっては出荷した製品の回収・再検査なども必要になるかもしれません。こうしたことがないように、監視および測定のための資源はきちんと管理しないといけないね、というのが7.1.5の要求事項です。