おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
環境法令解説シリーズ、今回は労働安全衛生法の改正点について要点を絞って解説します。厳密に言うと労働安全衛生法は環境法令とは言えませんが、ISO14001の順守義務として取り扱う場合があります。その場合を想定して、企業が対応すべきポイントの要点を説明します。(今回は化学物質管理体型の見直し)
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【環境法令解説シリーズ】2022~2024年施行 労働安全衛生法ポイント解説(1)
おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。 環境法令解説シリーズ、今回は労働安全衛生法の改正点について要点を絞って解説します。厳密に言うと労働安全衛生法は環境法令とは言えませんが ...
2023~2024年施行 労働安全衛生法改正ポイント(化学物質管理体系の見直し)
2023~2024年にかけて段階的に施行される、改正労働安全衛生法のポイント(化学物質管理体系の見直し)は、下記の通りです。
労働安全衛生法におけるリスクアセスメント対象物とは何か?
2016年の労働安全衛生法改正により、一定の危険有害性のある化学物質について、リスクアセスメントの実施が義務付けられました。現在は674物質がリスクアセスメントの対象物ですが、これが2024年から順次追加され、最終的には2,900~3,000以上の物質がリスクアセスメント対象物質になります。具体的にどうリスクアセスメントを進めるかというと、企業は、①自社が取扱っている化学物質にはどのような危険性(爆発性や引火性など)や有害性(急性毒性、発がん性など)があるかを把握し、②その危険性・有害性についてのリスクを計算し、③リスク計算の結果を踏まえてリスクを低らすための措置を検討する、という流れで進めます。こうしたリスクアセスメントをしなければならない対象物質が大幅に増えるということです。
リスクアセスメント対象物について、ばく露を最小限度にすること
労働者がリスクアセスメント対象物にばく露(触れたり呼吸で吸い込んだり)される程度を、以下の方法等で最小限度にしなければなりません。また、リスクアセスメント対象物以外の物質も、上記の1~4の方法等で、最低限度にするよう務めなければなりません。(対象物以外の物質は努力義務)
- 代替物等を使用する
- 発散源を密閉する設備、局所排気装置または全体換気装置を設置し、稼働する
- 作業の方法を改善する
- 有効な呼吸用保護具を使用する
なお、2024年からは、国が指定した化学物質について、作業場で働く人がばく露する量を、国が決めた安全な範囲以下にしなければなりません。
ばく露低減措置等の意見聴取・記録作成・保存、がん原性物質の作業記録の保存
上記の措置(ばく露される程度を減らす対策)に関して、現場で実際に対策がどう実施されたか、労働者の氏名、従事した作業の概要などを、労働者から聴く機会を設けなければなりません。毎年1回、定期的に記録を作成し、3年間保存しなければなりません(記録の対象ががん原性物質である場合は、30年間保存)。記録すべき内容は、安衛則第577条2に書いています。
2024年からは、措置の状況だけではなく、ばく露の状況についても意見を聴き、記録する義務があります。
皮膚等障害化学物質への直接接触の防止
肌や目を刺激する化学物質、肌を傷つける化学物質、または肌から吸収されて健康に問題を引き起こすことが明らかな化学物質を含む製品を作ったり扱ったりする仕事に従事させる場合、その化学物質の危険度に応じて、労働者には保護具(防塵マスクや防毒マスク、化学防護手袋など)を使わさなければなりません。これは2023年度は努力義務ですが、2024年以降は義務化されます。
なお、健康に問題を引き起こす恐れがあるかもしれない化学物質を含む製品を作ったり扱ったりする仕事に従事させる場合も、努力義務として、保護具(防塵マスクや防毒マスク、化学防護手袋など)を使わさなければなりません。
衛生委員会付議事項の追加
衛生委員会の付議事項(法令で定められた話し合う内容)に、下記の4事項が追加となります。1については2023年度から、2~4については2024年度から義務付けられます。
- 労働者が化学物質にばく露される程度を最小限度にするために講ずる措置に関すること
- 濃度基準値の設定物質について、労働者がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関すること
- リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講ずるばく露低減措置等の一環として実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関すること
- 濃度基準値設定物質について、労働者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときに実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関すること
がん等の遅発性疾病の把握強化
化学物質を作ったり扱ったりしている事業場で、働いている人が1年間に同じ種類のがんになった場合、そのがんの原因が仕事にある可能性を医者に聞く必要があります。もし医者が、そのがんの原因が仕事にあると疑う場合は、すぐにその従業員の仕事の内容を、都道府県働局長に報告しなければなりません。
リスクアセスメント結果等に係る記録の作成保存
リスクアセスメントの結果と、それに基づいて企業が取る労働者の健康を守るための措置については、従業員にきちんと伝えるのは当然ですが、その内容を記録に残し、次のリスクアセスメントを行うまでの期間(最低でも3年間は)保管しなければなりません。
ラベル表示・通知をしなければならない化学物質の追加(2024年度より)
労働安全衛生法では、ラベル表示や安全データシートなどを通じて危険性・有害性の通知義務を定めていますが、そのラベル表示・SDS交付義務の対象となる化学物質が、約1,500物質追加されます(追加される物質は、労働安全衛生総合研究所・化学物質情報管理研究センターのWebで公表されています)。さらに順次追加される予定です。
化学物質労災発生事業上棟への労働基準監督署長による指示(2024年度より)
労働基準監督署長が、その事業場で、化学物質の管理がきちんと行われていない疑いがあると判断したら、労働基準監督署長はその企業に改善を命じることができます。改善の命令を受けた企業は、化学物質管理の専門家(厚生労働大臣が決めた要件を満たす人)からアドバイスをもらい、リスクアセスメントの結果に基づいた対策の効果を確認し、必要な改善策についてもアドバイスをもらいます。そして、1ヶ月以内に改善計画を作り、労働基準監督署長に報告し、必要な改善を行わなければなりません。
リスクアセスメントに基づく健康診断の実施・記録作成等(2024年度より)
リスクアセスメント対象物のリスク評価結果に基づいて、企業は化学物質の影響を減らすための措置をとることになります。そして企業は働いている人たちの意見を聞いて、必要がある場合には、医師や歯科医師に健康チェックをしてもらい、その結果に基づいて必要な対策をとる必要があります。特に、従業員が一定の濃度以上の化学物質に触れた恐れがあるときは、すぐに医師や歯科医師に健康チェックをしてもらう必要があります。そして、健康チェックをしたらその結果を記録に残し、5年間(がんを引き起こす可能性のある物質については30年間)保管しなければなりません。
実施体制の確立については、次回解説します。