僕はコンサルタントという仕事をしていますが、失敗経験がたくさんあります。「もう明日からコンサルしなくてもいい」と経営者からクビを宣告されたことも、一度や二度ではありません。
今日はそんな失敗経験をお話したいと思います。
経営者の方針が違う
ある会社で、OKR導入支援をしていた時のことです。OKRでは上位目標が大切なので、もっとも基本となる経営方針(この会社ではビジョンと呼んでいました)を社長に作ってもらったのです。いくつか方針がありましたが、そのうちの一つに「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)が取れるように会社も配慮する」という、社長の方針がありました。
ところがその会社で、長時間残業をしている従業員がいるという事実が判明しました。その従業員の月の残業時間は100時間をゆうにこえ、自宅に帰るのは2日に1回くらいということでした。(会社で徹夜をしていたのではなく、ホテルに泊まらせていたそうです)
僕はその会社の社長に尋ねました。
「これだけの残業時間は、ビジョンにあるワークライフバランスを取るということに反しているのではないですか?」
かなり直球に聞いたように思います。するとその会社の社長の顔色が変わり、かなりムッとした感じで僕にこういいました。
「ビジョンはビジョンだが、現実はそうはいかないところもある。今が会社の正念場だから、ここで手を緩めるわけにはいかないのだ。今村さんは経営者じゃないだろう?サラリーマンのコンサルタントには、この気持ちはわかるはずがない」
この後、社長には「もうこんな活動(OKR)なんて辞めだ」と言われ、僕はこの日でコンサルタントをクビになりました。
理不尽だとは思うけれども
「ワークライフバランスを大切にする」というビジョンを立てたのは社長です。それを反故にしたのも社長であり、このような矛盾する対応をとると従業員も混乱すると、その時僕は思っていました。社長の言い分はあるにせよ、自分でたてたビジョンには自分自身も忠実であるべきと、僕は社長のこの対応を理不尽だと思っていました。
だからといってクビになってよかったとも思えず、「サラリーマンには経営者の気持ちがわからない」という言葉が頭の中をかけめぐり、悶々とした気持ちのまましばらく過ごしました。
経営者も人間である
振り返って考えると、社長の気持ちもわからないではありません。その社長は健康上の理由から、とにかく結果を出すことを急いでいました。自分の思い描く理想に、少しでも早く到達しなければという気持ちもあったのでしょう。決して「ワークライフバランスを大切にする」というビジョンが嘘であったとは思いませんが、様々な理由が複雑に絡み合い、社長も逡巡した結果として「長時間の残業はやむを得ない」と思っていたのかもしれません。経営者といえども人間なのですから、全てを理想どおりに運ぶことなどできっこありません。そのような背景や心情を汲むことができず、ただ直球で社長の矛盾を追及する私の態度にも問題があったのだろうと思います。
経営者の気持ちに配慮し、タイミングを見計らうことを内省
私にかけていたのは、このような「社長の気持ち」に寄り添うことだったと感じています。だからといって、矛盾する対応を取る際のリスク(従業員の混乱や反発)にも気を配らなければなりません。今の僕であれば、ストレートに社長の矛盾を追及するのではなく、タイミングを計りながら折りに触れ、そのリスクを社長に伝えるようにするでしょう。例えば、長時間残業をしている従業員が愚痴をこぼしていたり、体調に変化が見られたというタイミングで社長に話をすると、もっと穏便に伝わっていたはずです。
経営者であろうが従業員であろうが、人間は理論や理屈だけで動くのではないと経験できたエピソードでもあり、今でも私の中に生き続けている教訓でもあります。