おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
直近のものづくり補助金の採択者リストから、新しい会社・小さな会社はものづくり補助金に採択されにくいかどうかを検証しました。当社の結論としては「採択されにくい可能性が濃厚である」となりました。
「既存中小企業向けの支援施策は(中略)スタートアップにとって使いづらい」
日本のスタートアップ向け補助金・委託金制度の現状と問題点について、諸外国の事例を交えた考察をした資料があるのですが、その中に次のような記載がありました。中小企業庁経営支援部技術・経営革新課(イノベーション課)課長補佐の発言です。
ものづくり補助金も中小企業のイノベーション創出が目的ですが、実質95%以上が設備投資に使用されているのが現状です。事務局側としてもそのほうが検査も楽なため、予算は設備投資に流れがちです。スタートアップは設備投資を必要とするものでもないので、あまりものづくり補助金制度を利用することがありません。中小企業向けのプログラムではそういった点があるのではないかと思っています。既存中小企業向けの支援施策として制度設計をすると、スタートアップにとって使いづらいものになってしまう恐れがあるのではないかと感じています。
採択者リストから、上記の発言が裏付けられるかどうか分析する
スタートアップのような新しい会社、小さな会社は、ものづくり補助金などの施策が使いづらいのでしょうか。採択者リストから分析をしてみたいと思います。
分析方法
- 採択者リストに掲載されている法人番号をベースに、法人登記の種類ごとに採択者を分類する
- 採択者リストにおける法人登記種類ごと割合と、日本国全体の法人登記種類ごとの割合を比較する
- 持分会社(合同会社・合資会社・合名会社)の割合について、採択者リストでの割合と全体の割合を比較して、採択者リストのほうが低ければ、小さくて新しい会社は採択されにくいと仮にみなす
なぜ持分会社の割合を比較するかというと、2006年の会社法で施行された、新設の「合同会社」で比較したいからです。合同会社は2006年以降の新しい形態ですし、設立費用が株式会社に比べて低額なので、比較的規模の小さな会社が多いだろうという仮説に基づいています。
新しくて小さい可能性が高い「合同会社」について、全体の割合よりも、ものづくり補助金採択者における割合のほうが小さければ、ものづくり補助金に小さくて新しい会社は採択されにくいのではないか、というさらなる仮説が導かれます。
ものづくり補助金採択者リストにおける登記種類ごとの分類
ものづくり補助金採択者リストには、法人番号が記載されています。法人番号の命名規則によると、左から6桁目と7桁目で、登記種類を表しています。具体的には次の通りです。
次の2桁「01」は、設立登記の際の登記簿の種別(会社・法人等の種類)を表す。株式会社(特例有限会社を除く)は「01」、特例有限会社は「02」、合名会社・合資会社・合同会社・外国会社は「03」、商号・支配人・未成年者・後見人は「04」、各種法人等は「05」である。(Wikipediaより引用)
これにしたがって、登記種類ごとに集計した結果が次の通りです。
持分会社+外国会社(03)が、ものづくり補助金採択者に占める割合は0.9%とでました。
日本国全体の登記種別ごとの割合はどうか
では、日本国全体ではどうでしょうか。法務省が公開しているデータを活用し、下記の図のようにまとめました。
持分会社のうち、最も大きな割合を占めるのが、2006年から設立可能となった合同会社です。全国レベルでは、毎年設立数が伸びていっていますね。平成30年度では、合同会社を含む持分会社の割合は6%程度です。
明らかにものづくり補助金採択者における持分会社の割合が低い
結果を見ると明らかですが、ものづくり補助金採択者における持分会社の割合(0.9%)は、日本国全体の割合(6%)に比べると格段に低いです。このことから、新しい会社、小さな会社は採択がされにくいのではないかという新たな仮説が導かれます。
※念のための補足ですが、合同会社が採択されにくいという分析ではありません。便宜上、合同会社等を新しく小さな企業と見なして分析をした、ということです。
また、2006年以降は新規に設立できなくなった有限会社です。こちらは、全国レベルの割合が16%であるにもかかわらず、ものづくり補助金採択者に占める割合が20%を超えています。このことからは、古くからの有限会社が(全国レベルよりも)多く採択されているという仮説を立てることも可能です。有限会社は、1990年までは、最低資本金額が300万円でしたから、株式会社ほどは大きくないが、それなりに規模のある企業とみなすこともできますね。日本全体では徐々に減りつつある有限会社ですが、ものづくり補助金採択者の中ではまだまだ一定の存在感があると言ってもよいでしょう。
結論:新しい会社・小さな会社はものづくり補に採択されにくい可能性が濃厚
上記の分析結果と、中小企業庁技術・経営革新課の発言の両方を考慮して、当社では「新しい会社・小さな会社はものづくり補助金に採択されにくい可能性が濃厚」だと見立てを立てました。ただしこれは統計的な傾向を示したものです。もちろん個別のケースでは、小さな会社でも新しい会社でも採択をされたという事例はたくさんあるでしょう。僕が支援した会社の中では、最も小さな会社で従業員数が3名でしたし、最も若い会社では設立から4年目という会社もありましたからね。
しかし、数字から伺える可能性も考慮に入れたうえで、応募するかどうかを検討してくださいね。