唐突ですがクイズです。目の前に正方形の紙と鉛筆を用意してください。用意ができたら、その紙の3/4の2/3の部分に斜線を引いてください。
どうでしょうか?紙を4等分に畳んで、それをいったん開いて、3/4ができているのを確認してから3等分する……というやり方をした人も多かったのではないでしょうか?
実はこのクイズ、計算で解けるのです。3/4に2/3を掛けると、約分して1/2になります。その部分に斜線を引くというのがクイズの問いですから、正方形の対角線に線を引く、というのが正解です。答えを聞くと「簡単じゃないか」と思うのですが、年をとって凝り固まった頭では、ヒント無しで解くことは案外難しいものです。
他者と一緒に考えることで理解が深まる
このクイズを、250人を対象にして、一人で解かせるという実験をした人がいました。すると9割以上の実験参加者が、計算をせずに折り紙を折ったり目盛りを刻んだりしたそうです。ところが同じ問題を二人組で解かせると、なんと約7割が計算によって答えが出せることに気がついたのだそうです。
なぜ気づくのかをつぶさに観察してみたところ、どうも実験参加者の二人組は、対話をしながら自分の気づきや考えを交互に伝え合う過程を経て、計算で解けることに気づいていることがわかりました。
このように、一人で考えるよりも他者と一緒に考えることで理解や学びが進み、それまで思いもかけなかった発想が得られることを、心理学の分野で「建設的相互作用」と呼ぶそうです。「三人寄れば文殊の知恵」とも言いますし、一人では行き詰っていたことが、誰かに相談すると解決の糸口が見つかるという経験は、どんな人にもありますよね。
建設的相互作用を会社の中で起こす
この「建設的相互作用」は、多人数のいるところで同時並行的に起きるといわれています。例えば会議の場で、参加者一人ひとりが、ある共通の問題・課題に対して、それぞれ独自の考え方を、話し手になって深めたり、聞き手になってその適用範囲を広げたり、というコミュニケーションを繰り返している時に、その参加者の間に起こるのです。
もう少し具体的に言うと、どうしても作業場で不良が出てしまうことがあります。例えばですが、僕はある機械加工業で、「ビビり」(加工面が波打つ現象で、加工不良の要因でもある)を題材にした会議の進行役をしたことがありました。なぜビビりが生じるのか?ビビりを抑制するにはどうすればいいか?を、作業者一人ひとりの意見を否定せずにみんなで聞く場をつくり、深めていくいくわけですね。そうすると、お互いの持っている知識や経験、視点などが共有され、そこに学びや理解が起き、これまで一人では発想しえなかった抑制策が生まれることがあります。この時は、最初は機械のせいだとか、加工条件のせいだという話になりましたが、最終的には「センサーでワークの測定を何度もおこない、その測定結果を分析して、最適加工条件を設定したらどうだ」という結論がでました。
みんなで出した意見なので納得や学ぶが起きる
全員で意見を言い合い、ここまで話し合って出した結論なので、その会議の参加者はみなさんその結論に納得したのです。そこからはすぐ設備メーカーに相談をし、実際にデータを取るという行動に移ることができました。当然、作業者の皆さんの万全の協力のもとにです。
これがもし、僕や設備メーカーや、その会社のトップが、このような議論を経ずに「データをとれ」と言ったらどうなっていたでしょうか。おそらく「今は忙しいのでそんな暇はない」「いや、データなどとらなくても、これは設備の剛性の問題だから、設備を変えるほかはない」という意見がでて、すみやかな行動にはならなかったでしょう。
皆さんにも経験はあると思いますが、人は他人から言われたことよりも、自分で決めたことのほうがやりたくなるものです。ですから、このように自分たちで決める場を設ける必要があります。そして、決める過程では建設的相互作用が起きるので、議論を通して「ビビり」という現象に対する理解を深める学びの場にもなるわけですね。機械加工の技術のド素人である僕でさえ、その場にいるだけで「ビビり」について学ぶことができたのがその証拠です。
このような場を設定しても、実際に何が起き、どういう結論になるかは、実際に場を進行させてみないとわかりません。しかし、会議に最初から結論を持ち込まず、一人ひとりの意見に耳を傾け、その場で起きる相互作用を大切にすることが、組織を成長させ、本当の意味で問題の解決になるのだと思います。