ものづくり経営革新等支援機関

改革はなぜ失敗するのか?をエージェンシー理論から考えてみた

https://imamura-net.com

おはようございます!マネジメントシステムいまむらの今村敦剛です。

お恥ずかしい話ですが、経営者から「社内改革をサポートしてほしい」と依頼を受けたにも関わらず、大した成果をあげられずに契約が打ち切られたことが何度かありました。その失敗の原因をエージェンシー理論から考えてみたいと思います。

エージェンシー理論とは

エージェンシー理論とは、経営学における重要な理論であり、異なる利害を持つ2種類の人(依頼人と代理人。プリンシパルとエージェントともいう)の関係を分析する理論です。

この理論は主に経済学者のミハエル・ジェンセン(Michael Jensen)とウィリアム・メクリング(William Meckling)によって1976年に「Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure」という論文で体系化されました。現在の経済学で、この理論は、企業の内部統制、監査、報酬システムの設計、リスク管理など、企業経営の多くの側面に影響を与えていて、ビジネスの世界においてもとても馴染み深い理論なんですよ。

エージェンシー理論をわかりやすく言うと

エージェンシー理論をわかりやすくいうと、依頼人(プリンシパル)と代理人(エージェント)の間の「利害の不一致」と「情報の非対称性」に注目し、これらの要因が互いの合理的な行動を妨げ、効率性の低下や不正行為のリスクを高める可能性があると指摘しています。

例えばですが、お母さんが子供に「おやつを買って食べなさい」と500円を渡したとします。ここでは、お母さん(おやつを買ってきてほしい人)が依頼人(プリンシパル)で、子供(おやつを買う人)が代理人(エージェント)です。

お母さん(依頼人)は、おやつといっても健康に良いものを子供に食べさせたいと思っているかもしれませんが、子供はジャンクなお菓子が欲しいと思っています。ここでは、お母さん(依頼人)と子供(代理人)の間で、何を買うべきかについての違いが生じています(利害の不一致)。

でも子供がおやつを買いに行くとき、お母さんは、子供が何を買うかを現場で見ることができません。お母さんはスーパーで売っているお菓子がいくらで売っているのかも現場で見ることもできませんから、もしかしたら子供はお釣りをちょろまかすかもしれませんね。ここでは、お母さん(依頼人)と子供(代理人)の両者が持てる情報に違いがあります(情報の非対称性)。

こうした「利害の不一致」と「情報の非対称性」がある場合に、非効率なことや不正が起きやすいというのが、エージェンシー理論です。また、お母さんの目的(健康的なおやつの購入)に反して、子供自身の利益(甘くておいしいお菓子の購入)のために行動することを「モラルハザード(道徳欠如」と言います。

そうなってはいけないので、お母さんは、お母さんが子供に食べさせたいおやつをちゃんと買うように仕向けるため、子供に「レシートを持って帰って見せてね」と言って対策をするわけです。

まあエージェンシー理論には、他にもいろいろとあるのですが(「逆選択」など)、今日のところはこれだけの説明にしておきます。

経営者(依頼人)がやろうとしている改革が失敗する理由

では本題ですが、経営者(依頼人)がやろうとしている改革が失敗する理由をエージェンシー理論で説明すると、どうなるでしょうか。

利害の不一致

エージェンシー理論では、依頼人と代理人の間の利害が一致しないと、非効率や不正が起きやすいんでしたね。一般的に、経営者(依頼人)は企業の長期的な成功や利益の最大化を目指して改革を進めるかもしれませんが、従業員(代理人)は自身の仕事の安定性、職場環境の変化、職務内容の変更など、自分に直接影響する問題により関心を持っています。

従業員(代理人)は、自分の関心に従って、自分が合理的だと思う選択をしがちですので、場合によっては改革に非協力であったり抵抗したりするわけです。改革は、場合によっては従業員(代理人)の仕事の安定性を奪うかもしれないですからね。

情報の非対称性

従業員(代理人)は経営者(依頼人)が持つ情報に完全にアクセスできないため、改革の全体像や長期的な利点を理解していない可能性があります。不十分な情報は不信感や誤解を生むことがあります。

また逆に、経営者(依頼人)は従業員(代理人)の現場における現状を深く理解していないため、現場の実態にあった改革になっていない可能性もありますね。これもまた、不信感や誤解を生む元となります。

改革がうまくいくようにするには、どうすればいいのか?

経営者(依頼人)がやろうとしている改革がうまく行かない場合、エージェンシー理論に基づくと、どんな解決策が一般的には考えられるのでしょうか。

  • コミュニケーションの強化
    • 経営者は、改革に関するコミュニケーションを頻繁にすることで、情報の非対称性を減らし、従業員の不安や誤解を解消します。具体的には、改革の目的、改革をする背景、改革を進めるプロセス、期待される成果を明確に伝えることが重要です。
  • 従業員の参加とフィードバックの促進
    • 従業員が改革プロセスに参加し、フィードバックを提供できる機会を提供することで、彼らの関与感と受け入れを促進します。これにより、彼らの意見や懸念が考慮されると感じることができ、利害の不一致が減ります。
  • インセンティブの調整
    • 従業員のモチベーションを高めるために、改革の成功に連動した報酬やインセンティブを設定します。これにより、従業員は改革の成果に直接関心を持つようになり、利害の不一致が減ります。
  • 成果のモニタリングと評価
    • 改革の進捗を定期的にモニタリングし、その結果を公平かつ客観的に評価します。これにより、従業員は改革が正しい方向に進んでいると感じることができ、情報の非対称性を減らせます。

これらの解決策は、エージェンシー理論に基づいていうと、利害の不一致と情報の非対称性を緩和することに貢献するわけですね。もっとわかりやすい言葉でいうと、改革を他人事ではなく自分事として捉えるように仕向けていくということです。そしてそれができるのは経営者しかいません。昔のぼくは、そうしたこともわからずに、改革のサポートを安易に請け負ってしまっていたので、失敗したのだと思います。

  • B!

最近の人気記事

1

「事業再構築補助金」は制度開始から3年目を迎えました。多くの中小企業に知られるようになった事業再構築補助金ですが、このページでは2023年の制度の全容を10分でわかるようにまとめて解説します。 「事業 ...

2

「ものづくり補助金」は制度開始から11年目を迎えました。中小企業政策で最もよく知られているといってもいい「ものづくり補助金」ですが、このページでは2023年の制度の全容を10分でわかるようにまとめて解 ...

3

おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。 先日、納税地の所轄税務署から「消費税課税事業者届出書の提出について」という文書がきました。個人事業主は、ある期間の課税売上高が1,00 ...