おはようございます!
ISO42001各箇条解説シリーズ、今回は箇条5.2「AI方針」です。そもそもなぜ方針を作ることが必要なのか、そして方針にはどういうことを書かないといけないのかを解説します。信頼されるAIサービスに不可欠な「会社のぶれない軸」をどう作るかが明確になります。
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箇条5.2「AI方針」の位置づけ
まず、今日説明する箇条5.2「AI方針」ですが、これは箇条5「リーダーシップ」の中にあります。箇条5.2では、社長や事業部長といったトップマネジメントが、AIサービスの開発や利用に関しての方針、つまり会社としての大まかな方向性を定めなさい、と求めています。
「AI方針」はなぜ必要なのか
なぜこの方針を、現場のマネージャーではなく、社長などの経営トップが定める必要があるのでしょうか。それは、AIがもたらす影響が、単なる一製品の品質問題にとどまらず、事業全体、ひいては会社の評判や存続そのものを揺るがしかねないからです。だからこそ、経営トップが会社としての覚悟と責任を「コミットメント」として内外に示す必要があるのです。
そもそも、なぜ方針が必要なのでしょうか。いくつか理由はありますが、まず方針は日々の業務で迷ったときの「羅針盤」、つまり判断基準になるからです。
例えばAIサービスを開発していて、「安全安心のために追加のセキュリティ対策をすべきか、それとも最小の工数で開発し、利益を重視すべきか」と迷ったとします。その時に会社の方針が「何よりも顧客の安心・安全を優先するAIを作る」という明確なものであれば、現場の人たちは迷わず安心・安全を選ぶことができますよね。もし方針がなければ、担当者は「自分の判断でコストをかけていいのか…」と萎縮してしまい、結果的にリスクの高い選択をしてしまうかもしれません。方針は、こうした現場の迷いを取り除き、会社として正しい判断を後押しする「お墨付き」の役割を果たすのです。
また、方針は現場で働く人たちのやる気を引き出す「旗印」としても機能します。例えば「世界中の人々を笑顔にするAIを作る」という方針があると、エンジニアの皆さんも、自分の仕事に社会的な意義を感じられるようになりますよね。自分の書くコード一行一行が、単なる作業ではなく、会社の大きな目的の一部だと実感できるからです。さらに、こうした魅力的な方針は社外にも影響を与え、「責任あるAI開発」を本気で掲げる会社には、同じ価値観を持つ優秀な人材が集まりやすくなるという、採用面でのメリットにもつながります。
こうした効果があるから方針は必要なのですが、特にAIに関しては、こうした「方針」を明確にすることは、他の分野と比べても重要だと言えます。というのも、AI分野は進化が速く、未知のリスクがあったり、規制が未整備だったりして、極めて不確実性が高いからです。例えば、生成AIがもっともらしい嘘をつく「ハルシネーション」のリスクや、AIの判断根拠がわからない「ブラックボックス問題」など、従来のソフトウェアにはなかった質のリスクが現れています。
また、法規制が追いついていないということは、「法律さえ守ればいい」という時代ではない、ということです。むしろ法律がないからこそ、企業が自ら高い倫理基準を掲げる「自主規制」の姿勢が、お客様や社会全体から厳しく見られているのです。
このような中で倫理的かつ責任ある判断を行うには、明確な方針という航海図が必要不可欠です。
次回は、その極めて重要な「AI方針」について、規格が何を求めているのか、その具体的な中身を見ていきましょう。