ISO/DIS 9001本当にAI&サステナビリティが重要?—真相をファクトチェック

おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

ISO/DIS9001が公開されて2ヶ月近く経ちますが、これを受けて、認証機関やISOコンサルの一部の人が「新しいISO9001は、AIなどの先端技術や、サステナビリティが重要なキーワードになっている」という言い方をしています。これは本当なんでしょうか?実際にDISを熟読して、ファクトチェックをしてみたいと思います

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ISO9001のDISではAIなどの新興技術やサステナビリティについての要求事項はない

結論から言うと、AIなどの新興技術や、サステナビリティ(持続可能性)については、DISの規格本文の要求事項には含まれていません。ですので、認証を取得している企業が、新しく先端技術やサステナビリティについて何かをしないといけないということは、一切ありません。AIについては、DISの本文中でも一切言及されていませんね。

ただ、DISの附属書Aという、要求事項の解説をしているコーナーがあるんですが、ここで、新興技術やサステナビリティについて軽く触れられています。触れられているといっても、内容はかなり抽象的な一般論レベルですので、一部の認証機関やコンサルがいうような、重要なキーワードであるとは言えない、というのが今日のこの動画の結論ですね。

DISの附属書Aとはなにか

AIなどの新興技術や、サステナビリティについて触れている附属書Aとはどういうものでしょうか。

これはあくまでも規格要求事項を誤解しないようにするための補足説明です。したがって、附属書Aは規格要求事項ではありませんので、これをやらなかったからといって審査で不適合になることはありません。また、附属書Aの冒頭にも書いているのですが、これはマネジメントシステム導入のやり方を指示するようなものでもありませんので、附属書に書いているからといって、やらなければならないということも一切ありません。本文の箇条4~10の規格要求事項と、附属書Aは分けて考える、ということをまずはしっかりと押さえてください。

DIS 附属書Aにおける「新興技術」(emerging technology)の扱い

ではこの附属書Aで、新興技術はどのように扱われているでしょうか。新興技術については、附属書Aでは5箇所で触れられています。

1つ目は箇条4.1「組織の状況」に関連しています。新興技術は、組織の状況(課題)を特定する上で重要である、ということですね。これはイメージしやすいですね。

2つ目は箇条5.3「役割・責任・権限」に関連しています。新興技術を使うときには、意思決定の履歴や責任、説明責任を明確にする、ということです。例えばAIによる外観検査装置を導入していた場合、いつ誰が設定を変更したのか、その変更を誰が承認したのか、その変更の理由などを誰が説明する責任を負っているのかといったことを明確にする、ということですね。何かの不具合が生じた時に「なぜそのような判断をしたのか」を、新興技術自身が語ってくれるわけではないので、人間の責任がより重要になる、ということですね。

3つ目は箇条7.1.2「人々」に関連しています。新興技術は人の代わりになるが、リスク・機会を精査すべきと附属書には書かれています。例えばAIによる外観検査装置を導入した場合は、検査に必要な人手が削減できるという機会がある反面、誤検出するリスクがありますよね。そうしたこともしっかり確認すべき、ということですね。

4つ目は箇条7.5「文書化した情報」に関連しています。「新興技術は文書の大量喪失や機密性喪失などのリスクを生む」と書いています。例えば、クラウド上に品質文書を保存していた場合、操作を誤ってすべての文書を消してしまったり、セキュリティ上の問題で外部に流出したりするリスクがある、ということを言っています。

最後は箇条10.1「継続的改善」に関連しています。新興技術は継続的改善を促進しうる、と言っています。これはイメージしやすいですよね。IoTとかAIを使うと、品質のパフォーマンスも高められそうですもんね。

附属書Aにおける新興技術の扱いは、ざっとこんな感じです。こうしてみると、AIを意識しているなと感じられることもありますが、これ自体は要求事項ではなく、あくまでも参考情報ですので、何かが義務化されたわけではないということは繰り返し強調しておきたいと思います。

サステナビリティとは何か

続いてサステナビリティです。附属書Aの話に入る前に、まず言葉の確認をしておきましょう。よく引用されるのが、1987年に国連の「環境と開発に関する世界委員会」が示した持続可能な開発の定義です。「将来の世代が自分たちのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たす開発」というものですが、これは“サステナビリティの考え方”を端的に表した有名な言い回しです。

サステナビリティは、環境・社会・経済の3つの視点で考えるのが一般的です。要は環境も守って、公平で多様な社会を作りながら、経済発展も実現するという考え方のこと。反対にいうと、経済発展を果たすにあたって、誰かを搾取したり、資源を取り尽くしたりしない、という感じですかね。

まあこれがISO9001品質マネジメントシステムと何の関係があるのか?という疑問は当然湧きますよね。

DIS 附属書Aにおける「サステナビリティ」の扱い

ではこの附属書Aで、サステナビリティはどのように扱われているでしょうか。附属書Aでは3箇所で触れられています。

1つ目は箇条4.2「利害関係者のニーズ・期待」に関連しています。サステナビリティに関する期待が顧客等から表明されうるということです。これは実際に動きがあって、日本ではイオンやセブンアイホールディングスなどが、サプライヤーに対してサステナビリティについての具体的な要求をしていて、サステナビリティ監査まで実施しているという例があります。こうした顧客の要求や期待のうち、対処する必要があると判断したものはQMSで扱うことになりますね。顧客満足に関係する要素になりますからね。

2つ目は箇条4.3「品質マネジメントシステムの適用範囲」と関係しています。顧客から“サステナビリティ”についての要求があると、QMSの境界線(適用範囲)や含めるプロセスが広がったり変わったりすることがある」ということですね。例えば顧客から、RoHSやREACHなどに準じて、有害な化学物質の管理について求められた場合は、化学物質の管理プロセスというのを確立する必要があるかもしれませんね。

3つ目は箇条8.3「製品・サービスの設計・開発」と関係しています。サステナビリティに関する要求があり、必要と判断した場合には設計に反映させる、ということですね。例えば省エネ性能の高い製品を求められて、それを取り入れると判断した場合には、省エネ設計をする、ということですね。
附属書Aにおけるサステナビリティの扱いは、ざっとこんな感じです。とはいえ、別に新しいことを言っているわけではなく、こうした要求が顧客からあればそれを守ることは自明のことなので、当たり前の事を言っているといえるんじゃないかなと思います。

流行のキーワードや噂に振り回されないように

確かに新興技術、サステナビリティというキーワードは、参考情報である付属書Aで触れられていますが、義務ではないですし、一般論に終始しているので、「重要なキーワード」とまでは言えない、というのが当社の見解ですかね。そもそもISO9001は、自分たちに関連があるかを自分たちで決め、必要なものを選ぶ仕組みです。こうした流行のキーワードは目を引くので、一部の人は好んで使うかもしれませんが、あまり振り回されないようにするのが賢明だと思います。

この記事を書いた人
代表取締役 今村 敦剛

中小企業診断士/審査員(ISO9001, 14001, 45001)/日本心理学会認定心理士