ISO42001:2023 7.2 人が弱いとAIも弱くなる!?AIMSで力量はどう管理すべきか

おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

ISO42001各箇条解説シリーズ、今回は箇条7.2「力量」について、AIパフォーマンスに影響を与える力量とはなにか、それをどう管理すべきかの全体像を説明します。

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ISO42001 箇条7.2の位置づけ

まず、今日説明する箇条7.2の位置づけについて解説しましょう。箇条7.2は箇条7「支援」に位置づけられています。仕事でAIを使うときに、どんな知識・スキルが必要かを決めて、その知識・スキルを従業員が持っているかを確認し、足りなければ身につけさせ、その記録も残すことを求めています。

ISO42001 箇条7.2の要求事項

箇条7.2の要求事項は4つあります。

まずはAIの性能(パフォーマンス)に影響を与えるような仕事をするのに必要な力量を決める、ということです。

2つ目は、その仕事をする人が、適切な教育・訓練・経験を根拠に、必要な力量をもっていることを組織として確実にする、ということです。簡単に言うと、必要な知識やスキルを確かに持っている人に、その仕事をさせる、ということですね。

3つ目は、もしその仕事をするのにスキルや知識の不足があれば、処置を取るということですので、例えば教育訓練をするとか、スキルのある人が必要なサポートをするとか、配置転換する、といったことです。そして、その処置が狙い通りにうまくいったかどうかを評価する必要もあります。

最後は、力量の証拠を文書化するということです。その人に知識やスキルがあるということがわかるもの、例えば力量マップや教育訓練記録などを利用できるようにしておく、ということですね。

AIの性能(パフォーマンス)に影響のある力量とは

AIの性能(パフォーマンス)に影響のある力量とは、具体的にどういうものでしょうか。ケースにわけていくつか例を挙げてみたいと思います。

まずは生成AIを組み込んだ製品を企画・開発する“メーカー”での力量の例ですね。最初は「要件定義」のスキルです。これは目的やゴールを決めるスキルです。つまり、この製品がどんな状態なら“良い”といえるのかを数値や基準で定めることなんですが、ここが弱いと、作ったものが的外れになり、評価もぶれてしまいます。次に、データ管理のスキルですが、学習や評価に使うデータが偏っていないか、間違いが混じっていないかを見抜く力のことです。これが不足すると、的外れな回答を連発する、不安定なAIになります。三つ目はモデル選定のスキルです。回答精度やスピード、コストなどの制約を見ながら、最適なモデルを選ぶ判断力のことです。ここが弱いと、遅い、電池を食う、精度が足りない――といったようなことが起こります。このようなことが、例として考えられるでしょう。

続いて、生成AIを使って“AIコーディング”を行うシステム開発会社での力量の例です。最初は、コーディング支援ツールについての知識やスキルですね。Claude codeとかcodexとかありますが、それぞれどういう特徴があるのかを知っていることですね。このスキルがないと、コーディングの品質や効率が悪くなることがあります。次に、プロンプト(AIへの頼み方)についてのスキルです。具体的に指示する力なんですが、ここが弱いと、出てくるコードの方向性がずれて修正だらけになるリスクがあります。

以上はあくまで例ですが、いずれもAIのパフォーマンスに影響を及ぼすかもしれない仕事に関連する力量ですね。こうした力量を、箇条7.2に沿って管理をすることが必要です。

力量管理プロセスの例

では、力量はどのように管理をする必要があるでしょうか。ISOの基本はプロセスアプローチですので、力量管理プロセスというものを確立して管理することがよいでしょう。具体的にはどのようなプロセスになるでしょうか。一つの例をお見せします。

まず出発点になるのがインプットです。「業務一覧」「現場のニーズ」「AI目標」「リスク分析結果 など」を起点にして、「業務と必要力量の特定」で、業務ごとに求められる知識・スキル・経験が何かを特定します。

次に現状力量の把握です。担当者がその基準を満たしているか、これまでの教育・訓練・経験などを根拠にして確認します。

続いて仕事の割当です。確認結果に基づいて、適任者に業務と権限を割り当てます。

次が力量ギャップの是正です。不足があれば、教育訓練やコーチング・サポートなどを通じて、計画的にギャップを埋めます。

その後は有効性評価です。講じた方策が狙いどおり機能したかを、テストや実務の結果などで評価します。評価まで進んだら記録を保持します。

最後に定期的または都度の見直しです。定期的、もしくは業務内容やリスク、AI目標などが変わったタイミングで、必要な力量や・仕事の割当・計画・記録などをアップデートします。

これらのプロセスの成果として、「力量マップ」「教育訓練計画」「教育訓練記録」「職務の割当・権限付与記録」「有効性評価記録」などがアウトプットされます。こうした管理を回すことで、AIのパフォーマンスに影響する仕事を、必要な力量を持つ人が担当することを確実にできる、というわけですね。

まとめ

今日のポイントをまとめると、AIのパフォーマンスに効く仕事で必要な力量を“根拠つきで”確実にしておくということですね。AIに関する知識やスキルは次から次に新しくなりますし、陳腐化も早いので、この管理サイクルは短いスパンで回していく必要がありそうですね。

この記事を書いた人
代表取締役 今村 敦剛

中小企業診断士/審査員(ISO9001, 14001, 45001)/日本心理学会認定心理士