おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
EUのAI規制法である”EU AI Act”に関して、8/19時点での最新情報を、かいつまんでお伝えします。(情報源は、The EU AI Act Newsletter #84です)。
ドイツ、規制の負担を減らしたい考え
POLITICO(アメリカのニュースメディア)のPieter Haeckによると、ドイツの新しいデジタル省は、AIに対する「やりすぎ規制」を避けるため、EUと協議しているようです。デジタル相Karsten Wildbergerの就任100日を振り返るブログ投稿で明らかになりました。
当省では、欧州委員会や他の加盟国と「経済への負担を軽くし、過剰規制を防ぎ、減らす」ための話し合いを進めていると述べました。
EU AI法がEU全体のAIの発展に与える影響を心配する国は他にもあります。スウェーデンのUlf Kristersson首相は、まだ実施されていないAI法の規定について、導入を一時停止すべきだと述べました。欧州委員会のデジタル担当トップHenna Virkkunenは、この一時停止を行うかどうかを8月末までに判断すると示しました。
EU AI法は、今年末までに予定されている「EUのテック関連ルールを簡素化する大きなパッケージ」の中で検討されています。EUのAI理事会の会合予定によると、EU各国の代表者が9月18日にAIについて協議する予定です。
EUのAI規則は、トランプ大統領の“規制緩和路線”を縛る可能性
コロンビア大学ロースクールのAnu Bradford教授は、ニューヨーク・タイムズの論説で次のように主張しています。
トランプ大統領は「AIアクションプラン」により規制を弱め、監視・偽情報・人類への重大なリスクといった懸念よりも、米国の優位性を重視して、米AI企業を自由に展開させたいと考えている。しかし、米企業は世界市場で活動するには、各地域のルールに従わなければならないため、EUがAI規制に本気で取り組む限り、「市場の自己規制で十分」というトランプの構想は現実には進みにくい。
「ブリュッセル効果」(EUのデジタル規制が世界に広がる現象)により、企業はバラバラの方針を持つよりもEU基準に合わせがちです。AppleやMicrosoftはGDPRを事実上の世界標準として使っていますし、各国政府もEU法を参考に法律を作ることが多いのが現実です。MetaはEUのやり方を「行き過ぎ」と批判してトランプ政権の支援を求める一方で、OpenAI、Google、Microsoftは、ユーザーの信頼を得て世界の方針をそろえられる機会と見て、欧州のAI実務指針(Code of Practice)に署名しています。
ヨーロッパは「規制をやめろ」という圧力に耐える必要があります。AIの統治(ガバナンス)とイノベーションは両立可能であり、欧州の遅れはデジタル規制のせいではなく、技術基盤の弱さに原因がある、というのがBradfordの見解です。
OpenAI、カリフォルニア州知事に「AI規制の足並みそろえ」を要請
OpenAIはGavin Newsom知事に書簡を送り、州ごとにバラバラな規制ではなく、統一的な枠組みを求めました。同社は、今年だけで全米の州議会に約1,000本のAI関連法案が動いており、これでは安全性が上がらないままイノベーションを遅らせる恐れがあると警告しています。
同社は、企業が連邦や国際的な安全ガイドラインに従い、他州が参考にできる全国モデルを作ることを提案。OpenAIは、米政府の新組織CAISI(AI基準とイノベーションセンター)と協力し、最先端モデルの国家安全保障リスクの評価に取り組むことを約束しています。OpenAIは書簡の中で、CAISIのような連邦機関と安全協定を結んだり、EUのAI実務指針(Code of Practice)のような枠組みに署名した「フロンティアモデル開発企業」は、カリフォルニア州の要件に適合したものとして扱うよう提案しました。
内部告発とAI法
Future of Life InstituteのEUフェローであるSanteri Koivulaと、AI Whistleblower Initiativeの創設者Karl Kochは、EU AI法の公式サイトで、EUの内部告発者保護指令(2019年)がAI法とどう関係するかを解説し、内部告発を考えている人のための資料を公開しました。
この指令は、EU AI法違反を報告する内部告発者を守るため、明確な通報窓口の設置と、報復からの保護を求めています。保護の対象は、従業員だけでなく、業務委託者、サプライヤー、求職者、元従業員など広く含まれます。通報は、組織内(内部)、各国当局(外部)、あるいは、緊急の公共性がある場合や報復の恐れがある場合には公表という形でも可能です。
2026年8月2日からは、AI法違反も明確にこの保護の対象になります(なお、AIに関わる一部の問題は、すでに現行の保護の対象になる場合もあります)。
AI法は施行から1年で新しい政治状況に直面
Equinox Initiative for Racial JusticeのSarah Chanderと、Access NowのEU政策アナリストCaterina Rodelliは、Tech Policy Pressで次のように書いています。AI法が成立してからこの1年で、政治環境は大きく変わりました。米欧間のAI競争、EUの「規制緩和」路線、軍事化の進行が、その背景にあります。これらは、権利とイノベーションの両立というAI法の前提を揺さぶっています。
Draghi報告書が欧州の規制アプローチを批判した後、欧州委員会は競争力強化のための大幅な規制緩和を打ち出しました。2025年6月には、Virkkunen委員が、AI法の安全策が2026年の全面実施前に弱められる可能性に言及しました。予測警察、移民のリスクスコア付け、人種・民族を推測する生体データ分類、当局による感情認識などが、まだ可能なまま残っています。
ChanderとRodelliは、大量監視の禁止をさらに強め、デジタル国境管理に異議を唱え、公的資金が入った民間の監視に説明責任を求めるべきだと主張します。AI法の全面実施は2026年8月の予定であり、これからの12か月は、市民社会が保護の後退を食い止めるための重要な時間だと述べています。
実務指針(Code of Practice)、実装の難所に突入
interfaceの上級研究員Lisa Soderと、欧州委員会のEuropean AI Officeの職員Ema Provićは、実務指針の公開がEUの規制の新段階を示すと述べています。これによりAI Officeは、世界で最も進んだAIモデルのリスク管理プロセスを初めて内側から把握できるようになります。実務指針に基づく文書化によって、事故・インシデントの記録、リスク評価、対策の有効性に関する実データが蓄積され、今後のAI政策にフィードバックできる可能性があります。
ただし、これを実現するには大きな課題があります。第一に、執行権限を実際に使いこなすための組織力と技術力の整備が必要です。複雑なシステムを検証できる高度人材を確保する必要があり、英国のAI Safety Instituteが大手テック企業から人材を採用している例に倣う形が考えられます。第二に、米国からの圧力に屈しない政治的意思が必要です。Virkkunen委員が「EUのデジタル規則は通商交渉で譲れない」と述べたという報道は、前向きなサインです。第三に、「システミックリスク(大きな社会影響を及ぼすリスク)」の範囲を明確にし、古くならないよう正式な更新手続きを設けるなど、実務指針を正確で現実に即したものとして保つ必要があります。
