おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
8月21日、中小機構は「令和5年度 経営力再構築伴走支援研修」(オンライン)の申し込み受付を開始しました。昨日はこの研修の発端となった「伴走支援の在り方検討会」の討議内容などをもとに解説しましたが、今日はこの取り組みが本当に効果を生むのかについて考えてみます。
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中小機構「令和5年度 経営力再構築伴走支援研修」(オンライン)に関するプレスリリースはこちら
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「経営力再構築伴走支援」とはいったい何なのか?(伴走支援の在り方検討会から読む)
おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。 8月21日、中小機構は「令和5年度 経営力再構築伴走支援研修」(オンライン)の申し込み受付を開始しました。これは、中小企業の支援者向け ...
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「伴走支援の在り方検討会」の結論を基本的には支持するが……
場末の零細コンサルのぼくの勝手な意見ですが、ぼくも「伴走支援の在り方検討会」の結論を基本的には支持します。例えば補助金支援なんてのは、まず中期経営計画があって、それを実現する手段として位置づけられるべきものでしょう(中経が絶対に必要だというつもりはないですが)。「革新性」とか「製品・サービスの新規性要件」などという補助金おなじみのキーワードから見ても、補助金制度もそういう設計になっているはずですからね。補助金単体で支援することには経営を良くする効果は限定的なものしかないでしょう。支援者はまず企業の課題を整理し優先順位づけをして、課題解決の推進をフォローし、場合によっては方向性の変更を助言するような関わりをするべきとぼくも思います。
ただ、そのような支援というのは、並外れた労力が必要です。基本的には支援先企業内の利害関係の調整に明け暮れるような仕事になります。課題の整理と一言でいっても、かなり大変です。まず、社長が課題を理解し、課題の解決が必要だと心のそこから感じていないと、解決策も浅い場当たり的なものしかでてきません。社長をその気にさせる必要があります。社長が課題解決にやる気になったとしても、多くの管理職や従業員は「社長が余所からコンサルを呼んできて、また何か変なことをしようとしている」と冷ややかな目で見ますので、そうした管理職や従業員を巻き込まないといけません。2-6-2の法則ではないですが、一般的には6割は無関心で、2割は敵対的です。敵対的と言っても排除することはできませんので、彼らの言い分も聴いて、それを課題解決に(もしくは課題を整理する場に)反映しなければなりません。計画はほとんどのケースで計画倒れになりますので、推進するためには進捗確認の場を運営し、そこで出た課題についてもまた社内で利害関係の調整をする……という地味な作業の繰り返しです。憎まれ役になることも多いですし、社内政治に巻き込まれて「今村さんは誰の味方なんですか!?」と詰め寄られるようなこともあります。
こうした支援をできる支援者は、能力や適性といった点で相当に限られると思います。ぼくも含めてですが、そういう利害関係の調整とファシリテーションをうまくできる人は、そもそもこういう支援者としての仕事についていないのではないか……と思うこともしばしばです(そういう人は、組織の中で認められて出世しているはず)。研修をやることが無意味だとは言いませんが、どこまで効果的なのかはまったくの未知数です。かなり暗黙知的なスキルなので、研修という場で本当にそうした支援のエッセンスを伝えられるのかという疑問もあります。長々と書きましたが、「伴走支援の在り方検討会」の結論は、方向性は間違っていないけれども、相当に難しいことをやろうとしている覚悟が中小企業庁にはあるのかという疑問が拭えないんですよね。
「プロセスコンサルテーション」が果たせなかったことを果たせるのか?
「伴走支援の在り方検討会」の結論は特別新しいものではありません。変革を促す支援者の考え方としては、エドガー・シャインの「プロセスコンサルテーション」が有名です。「プロセスコンサルテーション」は、2023年6月に中小機構が公開した「経営力再構築伴走支援ガイドライン」にも取り上げられている考え方であり、「経営力再構築伴走支援」のベースとなる考え方であることには疑いがありません。
「プロセスコンサルテーション」を一言でいうと、コンサルタントがクライアントの組織内の動きを理解し、その中で役割を変えながら支援するアプローチです。1960年代に考案され、1999年に改訂されました。しかし、シャイン先生のこの「プロセスコンサルテーション」は、多くの支援者(コンサル)から受け入れられたとは決して言えません。なぜなら、実際のビジネス現場で求められるのは即効性のあるツールだからです。「プロセスコンサルテーション」が世の中の支援者(コンサル)に受け入れられていないという事実は、「経営力再構築伴走支援ガイドライン」に大きく取り上げられているという点からも伺い知れます。「プロセスコンサルテーション」を支援者が理解していれば、そんなことがガイドラインに書かれるはずがないですからね。
経営環境が急激に変化する現代だからこそ、結果を迅速に求める現代の経営者にとって、じっくりと課題認識を深めるアプローチは受け入れられにくいのではないかという懸念もあります。実際、ぼくも多くの会社を支援してきましたが、このアプローチを理解してくれるクライアントは片手で数えられる程度しかありませんでした。そうしたアプローチに持っていこうとしても、「お前に期待してるのはそんなことではない」ということを何度も言われました。
逆説的ですが、こうしたアプローチを求めているのは、目先の課題に対応するだけでは意味がないと体験し、腹の底から痛感した経営者しかいないのです。正しいことであったとしても、その必要性を心底理解している企業に対してしか、このアプローチは有効ではないのです。
さらにこの支援は支援者側にもかなりの工数を要求するものなので、それに見合った報酬が得られるかどうかというのは、支援者の死活問題です。それだけの価値を見出して、しかもそれだけの報酬を払える力のある中小企業--その多くが大企業のやりたがらない儲からない仕事に四苦八苦している--が、この世界にどれほどいるでしょうか。仮にそうしたニーズがあったとして、そのニーズを満たす認識と覚悟と力量を、数回のオンライン研修で培うことができるでしょうか。
シャイン先生のような経験豊富な専門家でさえ受け入れられなかったこの方法を、果たして日本の行政が成功させることができるのかという不安が解けないんですよね。
しかし、何度も言いますが、行政の取り組みを全否定するわけではありません。その意志や方向性は評価します。しかし片手で補助金や低利融資といった目先の課題解決の施策をぶら下げながら、もう片手で「経営力再構築伴走支援」という名の研修事業をぶら下げても、やってる感の演出以上にうまくいくとは思えません。本気で中小企業支援のあり方を変えたいと思うのであれば、「異次元の対策」を講じるべきなのではないか、という思いがぼくには常にあります。