おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
神奈川県秦野市にある旅館、元湯・陣屋さんをご存知ですか?僕もたまたま最近知ったのですが、IT導入や経営合理化で大きな成果を上げている旅館なのだそうです。とても興味深い取り組みをしているので、紹介したいと思います。
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営業時間が短くなると、売上も利益も減る……というのは思い込み?
一般的な考えとしては、営業時間が少なくなると、そのぶん売上も利益も減る、と考えがちですよね。ところが神奈川県秦野市にある旅館「元湯・陣屋」では、毎日営業から週3日の休業日を設けたにもかかわらず、利益が倍増したのだそうです。従業員の平均年間給与額も40%ほど増加したのだとか。
先代を継いだ現社長・4代目女将夫妻の奮闘
元湯・陣屋の転機となったのは、2009年に先代経営者が急逝したことだったそうです。長男の宮崎富夫さんは、大手自動車メーカーで働いていたのですが、仕事を辞めて旅館の事業を継承。宮崎さんの妻の知子さんも、旅館で働いた経験はなかったのですが、女将となったそうです。このとき知子さんは、出産してからわずか2ヶ月だったそうで。
事業を継承したお二人がまず気づいたのは、10億円の負債。しかも富夫さん自身が知らない間に連帯保証人となっていたのだそうです。事業を清算する見通しもつかないなか、思い切った経営改革に乗り出しました。
しかし、大きな改革に着手するときは、必ず従業員の反発があるものです。お二人は、旅館の経営の現状を包み隠さずに何度もスタッフに説明をしましたが、改革に着手して数カ月の間に、30人の社員が20人まで減ったそうです。少ないスタッフで切り盛りしなければならない状況で始めたのがITへの投資です。お二人は、タブレットをすべてのスタッフに配布し、顧客の好みなどの情報を共有して顧客サービスを向上させることを図りました。また、浴場にセンサーを設置し、顧客の数が一定基準を超えたときに、スタッフに清掃のタイミングであることを通知するようにしたそうです。そのおかげで、スタッフは、浴室を繰り返し訪れて清掃が必要かどうかを確認する必要がなくなりました。
このような投資により、従来あったムダを減らし、結果的にはスタッフの労力を本業である接客に集中できるようになったのですね。その後、ブライダル事業などにも着手するほか、宿泊料金も徐々に引き上げたり、自社開発の顧客管理システムを他の旅館に売ることによって、新たな収入源を作り出しました。
経営は改善。しかし女将が疲弊
これでめでたしめでたし……と思いきや、ノンストップで働き続けてきた女将が倒れてしまったそうです。
「顧客満足度が上がったとしても、従業員の生活の質が改善しなければ意味がない」と悟った女将は、労働環境の改善にも着手します。2014年には、毎週火曜日と水曜日を休業日とすることを決定。2016年には、月曜日の昼食後に営業を止め、その日の宿泊客はとらないようにしました(実質、週休2.5日ですね)。これは旅館の常識からかけ離れた決断です。実際、銀行からも従業員からも、大きな反対があったそうです。
しかしながらこの決断はよい結果を生みます。旅館やそのグループの年間売上高は、2010年の2.9億円から、今日の7.26億円に増加。年間の利益も2億円以上もアップ。スタッフの年間平均所得も、288万円から388万円に増加し、離職率は33%から4%に低下したそうです。劇的ですね。
成功の要因は何だったのか?
僕なりに元湯・陣屋の成功要因を分析してみます。次のような点があるのではないかと思います。
- 業界の常識にとらわれない人材(現社長・女将)による改革の主導
- 経営状況を包み隠さずに従業員へ説明
- 状況に応じた素早い投資判断(人が辞めたのでITで合理化をしよう)
- ムダの徹底的な削減(特に人が減ったことが大きい)
- 適正価格の確保(≒値上げ)
- 収益性の高い新規事業への着手(システム販売、ブライダル事業)
- 選択と集中(客数の多い曜日だけを営業するようにして経費削減)
いろいろと学ぶ点が大きいですね。