おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
ものづくり補助金の審査項目の一つに、申請企業の財務状況があります。これはどの程度採否に影響を及ぼすのでしょう。当社が支援した企業に限りますが、調べてみました。結論から言うと、確かなことは何もわかりませんでした?
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財務状況の審査項目について
ものづくり補助金の審査項目で、事業化面①に、財務状況に関する記述があります。
事業実施のための体制(人材、事務処理能力等)や最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか。金融機関等からの十分な資金の調達が見込まれるか。
これを根拠にして、「赤字の企業は採択されにくい」や「債務超過の企業は採択されにくい」という噂をよく聞くのですが、実際のところはどうなのでしょう?
分析の前提と結論
当社が平成30年度補正ものづくり補助金2次公募で支援した17社について調査をしました。調査内容は、採択企業(11社)と不採択企業(6社)とで、①経常利益率、②当期利益率、③自己資本比率、④直近期末から計画終了年までの経常利益額伸び率、⑤直近期末から計画終了年までの付加価値額伸び率、にどの程度の差異があるか、です。
不採択企業には、1次公募1次締切で不採択だったが1次公募2次締切で採択された企業も含みます。(2次締切で採択されたけれどもこの分析では不採択として扱っています)
17社の決算報告書と事業計画書をもとに、①~⑤について、採択企業と不採択企業の平均を調べました。平均は、率を単純に平均しています。絶対額を積み上げて割ると、小規模企業の影響度合いが、中堅規模の企業に埋没してしまうためです。
結論から言うと、差異がほとんどみられませんでした? 考えられる要因としては、①母数が少なすぎる、②あくまでも審査項目の一つに過ぎないので、他の要素の影響度があって差が見えにくい、ということだと思います。まあ当然といえば当然の結論と言えるでしょう。
分析結果① 経常利益率
経常利益率を比較すると、採択企業のほうが高くでていますね。(くどいようですが、母数が少ないことに留意が必要です)。差はありますが、検定まではしていないので、誤差の範囲と言える可能性もあります。というか、誤差の範囲っぽいです。
2期前の経常利益率の比較
採択企業平均 | 6.9% |
不採択企業平均 | 6.7% |
直前期での経常利益率の比較
採択企業平均 | 7.4% |
不採択企業平均 | 6.4% |
分析結果② 当期利益率
これは、2期前の比較では採択企業のほうが高くでている一方で、直前期では不採択企業のほうが高くでています。くどいようですが、母数が少ないことに留意が必要です。
2期前の当期利益率の比較
採択企業平均 | 4.4% |
不採択企業平均 | 5.5% |
直前期での当期利益率の比較
採択企業平均 | 5.6% |
不採択企業平均 | 4.9% |
分析結果③ 自己資本比率
自己資本比率は高いほうが健全であると言われている指標ですね。これについては不採択企業の平均のほうが高くなっています。ただし誤算範囲っぽい感じもします。
採択企業平均 | 33.4% |
不採択企業平均 | 37.7% |
ところで、今回分析した17社のうち、債務超過企業は1社ありました。その企業は、1次公募1次締切に不採択となり、2次締切と合わせての発表において採択されていました。
分析結果④ 直近期末から計画終了年までの経常利益額の伸び率
利益額の伸び率の比較です。これも不採択企業のほうが高いですね。経常利益については、直近期末が収支トントンだった場合、ちょっとの利益の増加でも伸び率が高くでるので、そもそもこの指標をもって事業の成否を判断するのが適切なのかという根本的な疑問があります。まあ、少なくとも、当社の分析結果からは何もわからないですね。
採択企業平均 | 174.0% |
不採択企業平均 | 193.2% |
分析結果⑤ 直近期末から計画終了年までの付加価値額伸び率
付加価値額の伸び率の比較です。これも不採択企業のほうが高いですね。単純に、伸び率が高いから採択されやすいとは言い難いです。もしかしたら、伸び率の妥当性を見られている可能性も否定できないかもな、と思わせます。もっとも、5年後の予測なんて精密に立てることは困難なんですけどね。
採択企業平均 | 25.1% |
不採択企業平均 | 29.2% |
結論。この程度の分析では何もわからない
というわけで分析をしては見たものの、この程度の母数の分析では何もわからない、というのが正直なところだと思います。冒頭にも書きましたが、母数が少なすぎるというのもありますし、あくまでも財務状況は審査項目の一つに過ぎないので、他の要素の影響度もあって、直接の相関関係が見出しにくいのだと思います。
ただし、ここから新たな仮説も導き出せます。特に伸び率については、甘い分析ながらも不採択企業のほうが高いという結果になったので、新たな仮説としては「あまりに楽観的な5カ年計画を立てているとかえって審査上で心象を悪くする可能性(つまり伸び率の妥当性で判断されている可能性)」が浮かび上がってきます。まあこれも当たり前といえば当たり前の仮説なのですが。
もう少し母数があれば、もっと違った結論も見いだせるのでしょうけどね。次回以降もこの分析は続けていきたいと思います。