おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
5月31日に行われた行政事業レビューで、事業再構築補助金1次公募の申請について中小企業庁の部長さんが「顧客規模の想定の積算根拠が甘い」と評していました。「顧客規模の想定の積算根拠」とは何でしょうか。またどうやって求めればよいのでしょうか。
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中小企業庁の部長の発言を振り返る
経産省が公開した動画「令和3年度行政事業レビュ公開プロセス」の43:01ごろに、中小企業庁経営支援部長である村上敬亮氏は次のように述べています。
ただ正直に申し上げますと私も、1次申請出てきた後、数百にわたって申請書を読ませていただきましたが、若干共通した特徴がございまして、顧客規模の想定の積算根拠が甘い。なぜそれだけのお客さんが取れるんですか?というところについては、厳しく見ると8割落第しそうな勢いであります。
逆に勉強させいただいたのは、なかなか経営指導するべき立場の方がついてもなおマーケティングに必要な基礎的情報がとれないということなのかなと。ちょっとした工夫をすればそれぞれの市場規模やラフなマーケティングの算定根拠って出しようあると思うんですけど、これだけこぞって、そろいもそろって、申請書の顧客規模の見積もりが甘いところを見ると、マーケティングに必要な基礎的な情報やノウハウが日本中どれだけないのかということをあらためて実感させていただいているところでございます。
事業再構築補助金における「顧客規模の想定の積算根拠」とは何のことか?
中小企業庁の部長さんが言っている「顧客規模の想定の積算根拠」とは、具体的には何のことでしょうか。結論から言うとよくわからないというのが正直なところです。
まず「顧客規模」という言葉ですが、これがいきなり意味不明です。僕も中小企業診断士としてこういう仕事を12年やってますが、「顧客規模」という言葉は寡聞にして聞いたことがありません。Googleで検索すると45,200件ヒットしますが、マーケティング用語としてきちんと定義されたものは見当たりません。
また「積算根拠」とは何でしょうか。一般的に積算根拠というと「ある価格を算出する際の具体的な内訳」といった意味で使われるのではないかと思います。例えば、なにかの事業を行うにあたって予算を100万円確保したとしたら、その内訳として人件費が50万円で、交通費が30万円で、消耗品費が20万円で、あわせて100万円です、みたいな使われ方をするのが「積算根拠」だと思います。あまり民間企業の日々の業務の中では使わない言葉だと思います。
余計わからなくなってきましたが、先程紹介した動画「令和3年度行政事業レビュ公開プロセス」の中で、中小企業庁の部長さんは「顧客規模の想定の積算根拠」のことを「なぜそれだけのお客さんが取れるんですか?」と言い換えている部分があります。この言い換えから推察すると、この部長さんが言いたいのは「事業再構築によって見込まれる顧客獲得数の根拠」のことなのかもしれません。でも顧客数をわざわざ求める意味もよくわからないので(後述しますが顧客数を求めなくても事業計画は立てられる)、もう少し広く解釈すると「事業再構築によって見込まれる売上高の根拠」のことだと言いたいのかもしれません。
事業再構築指針では、とどのつまりとして、新製品の売上高が総売上の10%以上になるとか、売上構成比が最大になるとかが求められていますから、部長さんは"顧客規模"とか"お客さん"という言葉を使っていますが、要は売上の事を言っているのだと解釈もできると思います。
事業再構築補助金公募要領にも指針にも指針の手引にも「顧客規模」「積算根拠」というキーワードは一切出てこない
「厳しく見ると8割落第」と、中小企業庁の部長さんから、いわばダメ出しを受けているわけですが、ここでいわれる「顧客規模」や「積算根拠」というキーワードは、現行(6/14現在)の事業再構築補助金公募要領にも事業再構築指針にも、事業再構築指針の手引にも、一切出てきません。公式の文書において一切出てこないキーワードに対してダメ出しをされても、あまり納得ができませんよね。
しいて該当しそうな箇所を公募要領から探すとなると、審査項目の事業化点②が最も近いのではないかと思われます。審査項目の事業化点②は次のように書かれています。
事業化に向けて、競合他社の動向を把握すること等を通じて市場ニーズを考慮するとともに、補助事業の成果の事業化が寄与するユーザー、マーケット及び市場規模が明確か。市場ニーズの有無を検証できているか。
(事業再構築補助金公募要領(第2回)1.3版 28ページより)
これを端的に言うと、まずは自社が新分野・新業種・新事業において狙おうとしている新しい顧客・市場はどういう層であり、どのくらいの規模があるのかを押さえる必要があります。(ここで求められているのは"顧客規模"ではなく"市場規模"ですね)
その上で「市場ニーズの有無の検証」という聞き慣れない言葉もあります。これも僕の推測ですが、本当に顧客ニーズがあるかどうかを立証しなさいということなのだと思われます。漠然としたニーズではなく、市場ニーズが確かにあると言えるような証拠、つまり数字などを使ってニーズが確実にあることを説明することが求められていると思われます。証拠の提示が求められているという点が共通点になっていますので、この「市場ニーズの有無の検証」が、中小企業庁の部長のいう「顧客規模の想定の積算根拠」のことなのかもしれません。(そうだとしても、もっとわかりやすく書いてほしいものです)
「事業再構築によって見込まれる売上高の根拠」だとして、これはどう求めればよいか
さて、部長の言いたいことが「事業再構築によって見込まれる売上高の根拠をしっかり書け」ということだとして、どう求めればよいでしょうか。事業計画を立てる上で売上高の根拠を示す方法はたくさんあります。業界や業態によって異なるのが普通なので、こうして求めればよいと一言で言いきれるものは残念ながらありません。
それでは無責任なので、一つ参考になる資料をお見せしたいと思います。その資料とは、日本政策金融公庫のホームページにある創業計画書の記入例です。この記入例には、売上高等の計算方法例が、数はわずかですが業種別に示されています。
この中にある例で、理髪店の売上高予測の根拠をどう示すのかを参考までにお見せしましょう。
ここには、理髪店を営む場合の売上高算出方法として、客単価に席数と回転数をかけて求める方法が例示されています。この式から見てもわかりますが、合理的な指標がある場合は、事業計画を立てる際に必ずしも「客数」は求めなくてもよいのです。
しかしこの式を見ていると「回転数の根拠は何だ?」という気がしてきます。ここには根拠は書いてはいないので答えに困りますが、一般的な理髪店の回転数のデータをどこかから持ってくるなり、近隣の競合店を見に行ってこっそり調べるなりの、何かしらの調査が必要かもしれません。
この解釈が中小企業庁の部長が期待することなのかどうかはわかりませんが、僕が審査員だとすれば、ここまでの算出根拠が書かれていれば、まずまず説得力があると判断するでしょう。僕の限られた経験だけの話になりますが、ここまで書けている事業計画書というのは、僕はほとんど見たことがありません。