おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
今日は経営改革を急ぎすぎて失敗した事例をひとつご紹介したいと思います。
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厳しさを増す自動車整備業界
こちらの会社は自動車整備業です。どちらかというと、トラックやローリー車のような大型車の整備を中心に行ってきた会社でした。
自動車整備の業界は、最近の新車は壊れにくくなっているため、整備のニーズが減少しています。大型車に関して言うと、ドライバーの人手不足の問題もあって、荷物需要ほどは車の台数も伸びていません。普通自動車については、登録台数は、高度成長期からずっと右肩上がりだったものが、2007年頃を頂点として頭打ち状態が続いていますし、車の電子化が進むにつれ、民間の車検工場では故障診断ができなくなってきており、ディーラーが車検や整備顧客を囲い込むようになってきているためです。このような中、当社の売上も7年ほど前から減少しつづけていたのでした。
社長の新しいビジョン
そんな中、当社の社長は、新たな経営ビジョンを定めました。普通乗用車に乗る近隣住民を対象とした、来店型の店舗に業態変更することを計画したのです。そして社長は、工場長を中心として、この計画を遂行するようにと指示を出した。
工場長は、社長からの指示の通り、新業態への変更について検討を始めた。具体的には、会員制度の創設、引取納車サービスの開始、保険サポート事業の立ち上げなどでした。しかしこれらの具体策に着手しようとしたものの、従業員から大きな反発があり、一向にこれらの具体策は進行しなかったのです。
特に現場の整備士から「現場のことも知らないのに、事務所の椅子に座ったままで、勝手に物事を勧めようとしている」という批難の声があがりました。整備士によると、整備経験に乏しく営業畑出身の工場長は、かなり高圧的な態度であり、一連の計画に取り組まない部下を大声で叱責することも度々あったらしいのです。それがさらに社内の人間関係の悪化を招きました。
「これ以上改革を進めたら、会社が潰れる」と感じた社長は、工場長を解任することにした。その時点で、普通乗用車を専業とした来店型店舗への業態変更は中止となり、新たに現場あがり(整備士)の方を工場長に任命しました。
改革の実行者は現場第一線の従業員である
無理に改革を進めようとすると軋轢がでます。社長がここで改革を中止したのは英断だったと僕は思います。反発する現場を「抵抗勢力」だとして切って捨てるのは簡単ですが、改革を実行するのは彼らなのですから、彼らを力づくで押さえつけるのではなく、うまく巻き込むやり方にしなければなりませんでした。その点、高圧的な前任工場長は、いかに社長のビジョンの実現のためとはいえども、やり方が性急すぎて強権的な改革過ぎました。
トップが進める改革に、現場第一線の従業員の心情として不安はつきものです。改革が失敗したらどうしよう……。改革をやり遂げる上で、自分の役割が果たせなければどうしよう……と。その不安に寄り添わなければ、改革の実行者である現場の従業員は動きません。
改革の成功はだれもが願うことですが、悪影響を及ぼすようなリーダーシップは抑えるよう促さなければなりません。「君主は愛されるよりも恐れられよ」というのは、マキャベリの格言ではありますが、憎まれてしまっては何にもならないのです。