おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
中小企業の経営者には、自分の理念やビジョンを明確にもっていて、それにむけて組織を動かしていこうという熱意にあふれる人がたくさんいます。僕もそういう経営者には影響を受けることがあります。しかし経営者が、知識や創造性、才能を駆使して、素晴らしい戦略や計画を作りあげたとしても、それを実行するのは現場の第一線で働く従業員です。従業員が、勤勉さや持続性、献身をもってそれを実行し続けなければ、経営者の思う姿を実現することはできません。
従業員が途中であきらめることなく、何かを実行し続ける力というのは本当に重要ですが、これを培うのは容易ではありません。簡単に「こうすればいいよ」とは言えないのですが、一つヒントになるような話をしたいと思います。
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決めたことをやりきるための力"Grit"を測定したときの話
僕は3年ほど前まで大学院生として研究をしていたのですが、そのテーマがまさに「従業員が途中であきらめることなく、何かを実行し続ける力」でした。これを培うにはどうすればいいかを研究していたんですね。
実はこの力を測定することができます。Angela Lee Duckworthというペンシルバニア大の心理学教授が、Gritの測定方法を研究室のホームページで公開しているのです。Duckworthさんは、TEDのこの動画が非常に有名です。
ちなみにGritとは、日本語では根気とか根性と訳されます?合理的と言われるアメリカ人が根気や根性を研究しているって面白いですよね。
ちなみに彼女の本も出てます。結構売れた本ですね。
僕はこのGritの測定方法を使い、修士論文で中小企業の現場従業員のGrit(≒根性)を測定したのでした。
非正規社員のほうがGrit(根性)がある!?
僕の研究結果は実はあまりイケていませんでした。もともと「現場の第一線の従業員の根性を左右するのは、直属の上司の態度だ」という仮説をたてて検証をしていたのですが、結論を言うと、上司の態度はあまり影響がなかったんですね。(統計的に有意ではなかった)
でも調査結果を見ていて気がついたことがありました。なんと、正社員よりも非正規社員のほうがGrit(根性)があるという結果になったのです。結果をご紹介しましょう。60点満点で、雇用形態別にGrit得点を比較したグラフです。非正規社員のほうが得点が顕著に高いですね。
実は男女別にみても、女性のほうがGrit(根性)があることも
雇用形態だけではなく、男性・女性別に分析を行ったところ、やはり女性のほうが高いということが統計的にもわかりました。
これは役割や責任の重さと関係があるのではないか?
ここからは僕の仮説ですが、単純に性別や雇用形態によってGritが変わるというより、仕事の上で与えられた責任や役割の重さに関係があるのではないかと推測しています。例えばこのアンケート調査をした企業では、正社員は現場作業だけではなく様々な管理業務を行い、自らの職場の目標に責任を負って、自身のスキルアップだけでなく後輩の指導なども行っていました。反面、非正規社員は、軽微な作業を行うことが中心でした。
一般論としては、責任や役割が重いほど、目標の達成は困難になるため、Grit(根性)がくじけてしまうことが想像できます。ですから正社員のGrit(根性)が低いのは、いろいろな責任や役割やプレッシャーを背負い込んで、しんどいので物事が続かない、という可能性が考えられます。非正規社員はそのようなことが少ないので、根性が長続きする、というのが僕の見立てです。
意思の力は筋肉のようなものという仮説
僕の仮説である「役割や責任が重いと根性がくじけてしまう説」を裏付ける心理学的な説があります。下記のページに紹介されていますけど、意思の力は筋肉と似ていて、我慢などをして意志の力が損なわれると、自制の必要な取り組みは次第に難しくなるという説なのです。つまり、しんどいことはやりたくなくなるということです。ごく当たり前のことですよね。
ごく当たり前のことなのですが、経営の現場ではこの当たり前のことが守られてないようにも思います。目標管理制度もあり、QCサークルもあり、改善活動もあり、サンクスカード制度もあり、ISOもやり、5Sもやり……とたくさんの取り組みをやっている企業はあります。やればやるほど会社はよくなると、経営者は信じているんですね。
しかしそういう企業では、従業員の責任や役割は重くなり、意思の力を消耗してしまいます。端的に言うと「しんどい」のです。しんどいので、これらの取り組みも続かなくなってしまうのです。
過ぎたるは及ばざるがごとし、です。役割や責任はたしかに人を動かしますが、重すぎてもいけないのです。うちの従業員は決め事が続かないとお嘆きの経営者は、一度自社の業務や制度の見直しが必要かもしれません。