おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
事業再構築補助金は6,000万円~1億円もらえる"おいしい話"に聞こえるかもしれません。しかし事業再構築を行うにあたっては、企業には様々な課題やリスクが必ずつきまといます。ちょっと説教臭いですが、しっかりと課題とリスクのお話したいと思います。
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「事業再構築」(≒新事業展開)の成功率は3割以下?
事業再構築補助金は、ポストコロナ・ウィズコロナ時代に向け、思い切った新分野展開、事業・業態転換を求めるものです。こうした新しい取り組みは、一般的にどの程度成功するものでしょうか。
調査に基づくデータをひとつお見せします。下記の表は、平成28年度「中小企業・小規模事業者の成長に向けた事業戦略等に関する調査に係る委託事業事業報告書」(中小企業庁委託事業)の26ページに掲載されている表です。これを見ると、新事業展開に取り組んだ1,363者のうち、明確に「目標を達成でき成功した」と回答した企業は367者(26.9%)にとどまっています。
これは僕の個人的感想なのですが、新規事業の成功率が3割弱というのは、結構高いのではないかという印象があります。こうしたアンケートは「自己申告」ですから、完全に鵜呑みにはできない数字だと思います。
ところで、多角化経営で有名なオリックス社ですが、シニアチェアマンである宮内氏は、オリックスにおける新規事業の成功率について「イチローの打率以下」と語っています。オリックスのように多角化を当たり前に行うという文化がありながらも、イチローの打率以下なのですから(イチローの生涯通算打率は.322)、新規事業展開に不慣れな企業だと、成功確率はこれよりも相当低く見積もらないといけないのではないかと思います。
オリックスは「新しいことをやれ」「ただし儲からないものはダメだ」という2つの命題の中でいろいろな事業を手がけています。正直なところ、多くは失敗します。うまくいきません。新しいことをやってすぐにうまくいくことなんて、そうそうあるはずはないのです。私はいつも「成功率はイチローの打率より低い」と表現しています。実際、オリックスの幹部で失敗したことがないという人は一人もいないと思いますよ。
(日経ビジネス記事より)
「事業再構築」に失敗したらどうなるか
仮に新規事業の成功率を3割だとします。単純な比較ではありますが、事業再構築補助金をもらって「思い切った改革」を行ったとしても、それがうまくいく可能性は、仮定に従って言うと3割程度で、反対に7割は成功しないということです。
補助金までもらい、期待を込めて始めた「事業再構築」が失敗に終わるとどういうことが起きるでしょうか。まずまっさきに思いつくのは、「事業再構築」のために銀行から借入れした分が重荷になるということです。最悪の場合は資産や事業の売却が必要になるかもしれませんし、最悪を逃れたとしてもリスケが必要になるケースもあるでしょう。こういう状態になると、金融機関から追加で融資を受けることが相当困難になるはずです。事業再構築補助金は補助金額も大きく、そのぶん融資額も多くなるでしょうから、失敗時の資金繰りインパクトはものづくり補助金よりずいぶん大きくなるでしょう。
お金のことと同じくらい深刻なのは、従業員のモチベーションです。新規事業が難しい理由の一つには、従業員のモチベーションの維持が難しいという問題があります。というのも、新規事業は一般的にはそう簡単に成果がでるものではありません。前述の平成28年度「中小企業・小規模事業者の成長に向けた事業戦略等に関する調査に係る委託事業事業報告書」(中小企業庁委託事業)では、下記のようなデータもあります。3年未満で成果がでた企業は42.8%ですが、過半数は成果が出るまで3年~10年かかったと回答しています。
成果が出ない中、モチベーションを維持し続けることは非常に困難です。一般的に人は、成果が見えない中を努力し続けることはできません。新規事業を成功させなければというプレッシャーを背負いながら3年以上も粘り続けないといけないのです。新規事業とは、そこまでしても7割が「成功しない」というシビアな世界です。ここで「成功しない」ということが明らかになった時には、従業員の緊張の糸はプツリと切れてしまうことでしょう。場合によっては退職者も出るでしょうし、会社全体の士気にも大きく関わる問題です。
「事業再構築」成功最大のカギは、補助金の有無ではなく"人材"である
では、事業再構築を成功させるために重要なことは何でしょうか。それは「必要な技術・ノウハウを持つ人材」です。前述の平成28年度「中小企業・小規模事業者の成長に向けた事業戦略等に関する調査に係る委託事業事業報告書」(中小企業庁委託事業)によると、新事業展開における最も大きな課題は「必要な技術・ノウハウを持つ人材が不足している」ことであることがわかります。
当社も新規事業に取り組む中小企業を何度かサポートした経験がありますが、本業の傍ら、従業員に兼務として新規事業を担わせているケースはだいたい失敗します。最低でも社内でもエース級の人材を、新規事業の専任者にしなければならないでしょうが、これも結構勇気のいる経営判断です。下手をすると本業の運用に差し障りがでるかもしれませんからね。それでもうまくいくかどうかはわかりませんので、やはり社外の経営資源や外部の技術・ノウハウを積極的に活用することになるのでしょう。
上記のデータによると「新規事業展開に必要なコスト負担が大きい」という回答は21.9%です。補助金の有無は、コストに関する課題については有効な手立てにはなるでしょうが、それだけでは「必要な技術・ノウハウを持つ人材不足」には手が打てません。やはり「事業再構築」成否最大のカギは、補助金の有無ではなく人材にあるわけです。
「事業再構築」を行う上では、人材以外の課題・リスクももちろん多い
もちろん「事業再構築」を行う上では、人材以外の課題・リスクももちろんあります。上記のデータによると、販路開拓はどうするのか、ニーズをどうやって把握するのかという点を課題視する声もあります。ニーズの把握は非常に重要で、「たぶんこういうニーズがあるだろう」というフワッとした見立ては誰でもやることですが、その見立てが独善的なもの、根拠のない思い込み、楽観論に過ぎない場合がよくあります。一時的な世間の人気やブームにのって着手した新規事業は失敗する確率も高いです。一時期、あれほど流行ったタピオカ屋さんは、もうほとんど見かけなくなりました。
事業再構築補助金では、新分野に進出することが要件になりそうですが、新分野には既に先行してビジネスを行う競合他社がウヨウヨしていて、競争の渦に巻き込まれてしまうこともよくあります。そうした先行者とどう差別化するかという点も考えなければなりません。
事業再構築補助金では、自社の強みや経営資源を活かした取り組みを行うことが、既存事業と「共食い」(カニバリゼーション)となる可能性があります。例えば、従来は対面で販売していたモノをネットで販売するとなれば、対面販売の売上は単純に減る可能性がかなり高いでしょう。既存事業との「共食い」(カニバリゼーション)を起こさないような仕掛けを考えないといけません。
このように、事業再構築補助金が求めている「思い切った新分野展開、事業・業態転換」の成功率は一般的に低く、しかも成否最大のカギは補助金ではなく、"人材"を始めとする様々な課題・リスクがあるわけです。
これらの課題・リスクを洗い出し、対策を検討した上で補助金にチャレンジするかどうかを考える方が、結果として新規事業の成功確率も高まると思うのですが、どうでしょうか。