おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
6月22日、中小企業庁は「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」の中間報告書を公開しました。この報告書の結論を一言であらわすと、今後の中小企業支援策は「補助金」から「経営者支援」へと転換するようです。
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「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」とは
「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」とは、中小企業庁が今年2月から開催している有識者会議です。この研究会では、中小企業の成長経営に向けた新政策を検討するために、どのような政策の方向性が望ましいのかを検討しています。その研究会の中間報告が、下記の通り公開されました。
なお、この研究会に参加している委員(有識者)は次の通りです。(敬称略)
- 沼上幹 一橋大学 経営管理研究科 経営管理専攻 教授<座長>
- 北村 慎也 株式会社QUICK シニアマネージャー
- 黒澤 元国 一般社団法人埼玉県商工会議所連合会 広域指導員
- 沼田 俊介 株式会社日本共創プラットフォーム 執行役員
- 林 侑輝 大阪公立大学大学院 経営学研究科グローバルビジネス専攻 准教授
- 福地 宏之 一橋大学 経営管理研究科 経営管理専攻 准教授
中間報告「成長志向の中小企業の創出を目指す政策の検討成果と今後の方向性」の要点
この中間報告書は全部で72ページものボリュームがあるので、読むのが大変です。この報告書を要約した資料がここに掲載されています。(左記のリンクの資料のうち、P1からP7が当該研究会の中間報告です)。この資料をもとに、中間報告の要点を一言で示すと、今後の中小企業支援策は、経営者の経営力強化に対する支援に重点を置くようです。経営者の経営力強化の具体的な内容については、下記のスライドの赤字の部分で示されています(【最重要】と書かれています)。
ところでなぜ経営者の経営力強化を支援するかというと、中小企業庁は「売上高100億円企業」を作りたいからだそうです。昨今の物価上昇、人手不足、GX・サプライチェーン等の経済社会情勢を踏まえると、中小企業は成長をしていかなければならない。そのような成長を果たすには、中小企業は変革しなければならないが、そのためには経営者の意識改革も含めた支援が必要だ、ということのようです。本当に100億円企業が生まれるかどうかはともかくとして、菅政権のころから政府は「中小企業の規模を拡大して生産性を高める」ということをよく口にしていました。中小企業の規模を拡大させたいというのは、近年の中小企業庁の悲願でもあるのでしょう。
これまでの中小企業庁の支援とは一線を画す内容
個別の取り組みも読んでみるとなかなかおもしろいことを書いています。例えば(1)現経営者の経営力強化の①には「①成長志向企業を対象とした経営力再構築伴走支援の強化(支援者向けに対話・傾聴のノウハウをまとめた伴走支援ガイドラインを策定)」というものがあります。これはつまり、支援者側(経営相談員や診断士やコンサル)がもっと経営者の話を聴く力をつけなさいということのようで、支援者向けの伴走支援ガイドラインというものも6月22日に公開されています。その中では、エドガー・H・シャインの「プロセスコンサルテーション」(これはコンサルタントの支援理論の古典とも言うべき有名なもの)が触れられているなど、これまでの中小企業庁の資料とは一線を画すようなものになっています。ちなみに「プロセスコンサルテーション」は、一言で説明すると「コンサルは安易に助言をする前に、ちゃんとしっかりと話を聴かなきゃダメ」というものです。
また「②成長意欲を共有する経営者のネットワーキングの促進」では、経営者は経営者から学ぶべきという考えから、経営者同士の交流会や成功体験談を共有する場などの活用に触れています。これは従来、商工会議所や中小企業家同友会、盛和塾など、どちらかというと民間団体が中心でやってきたことに、中小企業庁として着目をしたという点で、やはり従来とは一線を画す内容だと思います。ただ、民間団体が既にやっていることと重複することを、行政としてどう具体的に進めるのかという疑問もあります。(そもそも、そんな意気のある経営者なら、もうすでに民間の交流団体に属していると思う)
個人的には、経営者支援は必要だけれども十分ではないと思います。経営者が意識改革し、成長への決意をしたとしても、それを現場で実行するのは従業員です。従業員が「社長が異業種交流会で、なんか知らんけど、かぶれてきた」と思うようなら、社長がいくらやる気になっても組織は変わりません。
また、成功体験談を聴くのを経営者は好みますが、あくまでもその会社での成功体験なので、それをそのまま自社に輸入することはできません。結局は、自社の従業員や顧客と向かい合って、他社の成功体験を自社にどうアレンジして落とし込むかを真剣に考えなければ、経営者支援も意味はないと思います。
そのために伴走者が支援をしなければならないでしょうけど、伴走者も月に1回や2回訪問してアドバイスするくらいなら、やっぱり効果はないでしょう。伴走者でも従業員でもいいですが、現場に入ってゴリゴリやる人がいないと、現場の変革は実行に移せないんですよね。(結局は、人が必要、金が必要という話になってくる)
したがって本件も、方向性自体は間違ってはないものの、経営者支援に加えて伴走者のレベルアップと採用育成支援を、三位一体でどこまで本気で行政がやるのかというところにかかっていると思います。
「補助金等で経営資源を補う施策以上に、経営者の意欲を喚起するきっかけを提供」すべし
ところで、報告書を要約した資料の5ページ目には、下記のような記述があります(黄色で強調した部分)
はっきりと「今後の中小企業政策では、従来型の補助金等で経営資源を補う施策以上に、経営者の意欲を喚起するきっかけを提供し……」と書いていました。ただ、中間報告を読んでいても、補助金を効果的に活用するという方向性も書かれていたので、まったく補助金施策がなくなるということはないだろうとは思います。経営者支援が【最重要】とまで書いているので、そちらのほうに予算が優先的に配分されるのではないかと思いますが。
RIETIのレビューでも書いていますが、補助金が政策的に有効かどうかというのを調べるのはかなり困難です(補助金の受領者と不受領者の双方の雇用や売上高のデータが数年間にわたって相当高い割合で収集できないと分析結果に自信を持ちにくいため)。経営者支援であれば政策の有効性が正確に判定できるかというとそうとは言えないでしょうが、「中小企業は経営者が全て」という面が確実にあります。不正受給にも使われかねない補助金よりも、経営者の成長や意識改革に投資をすることは、まあ一度やってみてもいいかもしれませんね。(どれだけ効果があるかは知らないけど)