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経営分析フレームワークの使用には問題とリスクがある

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おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。

最近の補助金の参考様式を見ていると、SWOT分析やファイブフォース分析、PEST分析など、経営分析フレームワークの使用を促す体裁になっています。ぼくはこれに警鐘を鳴らしたいと思っています。安易にフレームワークを多用することにはリスクが伴うからです。

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最近の役所の補助金の参考様式はフレームワークの使用を促している

以下はものづくり補助金18次参考様式のスクリーンショットですが、ここを見ているだけでファイブフォース分析、PEST分析、3C分析などのフレームワークの使用を促す体裁になっています。

役所はフレームワークの使用を強制しているのではなく、「審査の観点で記載すると好ましい内容を、項目に分けて次ページ以降に示します。計画書作成の際の参考にしてください。」とも書いていることから、あくまでも推奨に過ぎません。

しかしあまりにもフレームワークの記述を求めすぎているという印象があり、そこに強烈な違和感を覚えます。役所はこうしたフレームワークを無批判に推奨しているのではないかという疑いすら感じます。

(余談ですが、この様式の「2.将来の展望」のところで、現状分析のフレームワークを使わせるというところに強烈な違和感があります。全然「将来の展望」の説明になっていません)

フレームワークとは何か?またフレームワークの何が問題か

経営学の教科書や一般のビジネス書に必ず載っているといってもよい「ファイブ・フォース」「バリューチェーン」「SWOT分析」「BCGマトリックス」「ブルー・オーシャン戦略」「イノベーションのジレンマ」などは、いわゆるフレームワークと呼ばれるものです。

このフレームワークには有用性があるものの、様々な問題点があるのも事実です。入山(2019)の『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社. (pp. 38-47).)をもとに、個人的に整理しました。

  • フレームワークは実践的な手法やツールであり、経営理論とは異なる。経営理論が「whyとhow」を説明するのに対し、フレームワークは主に「what」に焦点を当てており、なぜある事象が起こるのかやその背後にあるメカニズムを説明しない。そのため、フレームワークだけでは行動や戦略の背後にある理論的な根拠やメカニズムを理解するのが難しい
  • 経営理論はしばしば抽象的であり、実務で直接使いやすい形ではないため、フレームワークとして整理されることがある。しかし、フレームワークに落とし込まれた理論はファイブ・フォース分析など限られており、それ以外の理論はフレームワーク化されにくい
  • フレームワークの多くは、コンサルタントや実務家によって生み出されることが多く、理論的な根拠や発展とは直接関係がない

フレームワークが「what」に焦点を当てている(whyやhowに対する洞察が弱い)とはどういうことか

入山先生によると、フレームワークは「what」に焦点を当てていて、「why」に対する洞察が弱い、とのことです。これははどういうことでしょうか?ここからは入山先生の考えではなく、ぼくの個人的な考えになりますが、ちょっと説明を試みてみたいと思います。

例えばSWOT分析は、有名なフレームワークの一つです。SWOT分析は、主に現状や状況を整理することに焦点を当てたフレームワークですが、なぜ(why)それが強みや弱みとなるのか、機会や脅威となるのかについて深く掘り下げた説明は提供してくれません。

例えばSWOT分析をする中で「商品Aのブランド認知度が高い」という強みを挙げたとしましょう。しかし「商品Aのブランド認知度が高い」という要因(つまりwhy)になったものがあるはずです。例えば、この企業が長年にわたって積極的なマーケティング活動を行ってきたことや、高品質な商品を提供してきたことが、この強みの要因(why)かもしれません。そしてこうした要因そのものもまた「強み」と言えるでしょう。このように「強み」というのは、単独で存在するものではなく、因果関係(why)のある重層的なもののはずです。しかしSWOT分析は、単なる要因の羅列を求める手法であり、重層的な構造を明確にしてくれるものではありません。

したがってSWOT分析で洗い出したものが「本当の強み(根本的な強み)」かどうかはわかりません。根本的な強みが不明確なまま戦略や計画を立てても(how)、それは不完全に終わる恐れがあります。

またSWOT分析は、分析者や関与者の主観に大きく依存するという弱点もあります。これはぼくの経験でもあるのですが、SWOT分析に関わる人(企業の幹部とか、ぼくのようなコンサルタント)の頭の中にある結論から逆算してSWOT分析をしているような感じがあります。SWOT分析で未知の何かが導かれるのではなく、既知の情報や、既存の戦略や計画の範囲内に小さくまとまってしまう、という感じでしょうか。つまり既存の情報や既知の視点に囚われてしまい、その背後や根底にある要因(why)についての新たな理解や発見が得られない可能性があるように思います。そもそも、未知のものを頭に思い浮かべて羅列することは困難ですもんね。

フレームワークを使うことの限界

フレームワークに有用性があることは認めますが、それを使うことには以上のような限界があります。またフレームワークは、特定の時点の状況や条件に基づいて分析をしますが、現実の状況は常に変化します。あまりにもレームワークに固執すると、新たな状況や問題に適切に対処できなくなる可能性もあります。

このようにフレームワークは、特定の状況や問題を整理するツールに過ぎず、それ自体が自動的に解決策を導いてくれるものではありません。そして経営理論の深い理解と現場の現実とを結びつける能力がなければ、フレームワークの使用は表面的なものに留まりがちになることを、我々は忘れてはいけません。

事業計画書の雛形にフレームワークを多用する問題・リスクとは

役所が作成する事業計画書の雛形が、理論に基づかないフレームワークを推奨する傾向には、懸念があると言わざるを得ません。繰り返しになりますが、一般的なフレームワークは、コンサルタントの経験的な知見に基づいて構築されているものがほとんどで、経営的な理論の裏付けがありません。また、SWOT分析を例に説明した通り、現状を捉えるツールとしても限界があるので、無批判にこれらの雛形に従うことは、組織や事業の個別の状況や目標を無視し、効果的な戦略の策定や実施を阻害する恐れがあります。

つまりあらかじめ用意された、フレームワーク満載の雛形に縛られることは、企業から創造性や革新性を奪い、単なる形式的な書類作成に終始してしまうことに繋がりかねません。おそらく役所は、事業計画書を統一された形式で管理することで、情報の比較や評価を容易にして、審査負担を減らすことを目的にしているのでしょう。そうした背景は理解ができますが、そのプロセス全体が形式主義に終わらないように注意し、個々の企業はそれぞれ独自の存在であり、異なる目標を持っているということを、役所は念頭に置かなければならないと思います。

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