おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
管理者教育のやり方に悩んでいる経営者のかたはたくさんいらっしゃいますが、それは米軍も同じようで、米軍でも将校教育で試行錯誤が繰り返されています。米軍ではどうやって管理者(将校)を育てているのか、まとめてみたいと思います。
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今回の参考文献
米軍における軍事専門職教育(JPME/PME)の改革 ― 教訓としての作戦術の導入と戦略的思考の強化 ―
Developing Today's Joint Officers for Tomorrow's Ways of War
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米軍ではどうやって管理者(将校)を育てているのか(1)
おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。 管理者教育のやり方に悩んでいる経営者のかたはたくさんいらっしゃいますが、それは米軍も同じようで、米軍でも将校教育で試行錯誤が繰り返され ...
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米軍将校育成のための大まかなアプローチ
アメリカ統合参謀本部はDeveloping Today's Joint Officers for Tomorrow's Ways of War(拙訳:明日の戦争のために今日の統合将校を育成する)という資料を公開しています。ここでは、戦略的思考を持つ将校を育成するための教育システムが説明されていますが、概ね以下のようなアプローチが採用されています。
継続的かつ全体的な学習システムの構築
戦略的リーダーの育成には、キャリア全体を通じた継続的な学習と成長が必要であるとしています。教育だけでなく、訓練、実務経験、演習、自己研鑽などの要素を組み合わせて、リーダーとしての資質を磨いていくことが重要です(PDFのページ2-3あたり)。
批判的および創造的思考の重視
教育プログラムでは、批判的思考と創造的思考を促進するための方法論を強化しており、戦略的リーダーが複雑な問題に対応し、独創的な解決策を見つける能力を持つようにしています。具体的には、歴史的なケーススタディやシミュレーション、戦争ゲームを通じて判断力や問題解決能力を磨くことが含まれています(PDFのページ6)。
アウトカムベースの教育モデルへの移行
PME(Professional Military Education)は、従来のトピックベースのモデルから、具体的な成果を重視するアウトカムベースの教育モデルにシフトしています。これにより、学生が実際の戦略や作戦に即した知識を習得し、実務でそのスキルを発揮できるようなカリキュラムが提供されています(PDFのページ5)。
実践的なスキルと経験に基づく教育
戦略的思考力を強化するため、現実の戦争や作戦環境に基づいた実践的なスキルを育成することが強調されています。教育プログラムでは、用兵の術と学(art and science of warfighting)を学び、現代の課題に適用できるようにするための実務的な訓練が組み込まれています(PDFのページ7)。
どういった点に特徴があるか
将校教育においては、単発の教育や訓練ではなく、キャリア全体を通じて継続的に学習し、成長を続けることを重視している点が特徴的です。これは、教育だけでなく、実務経験、演習、自己学習など、多様な学習機会を組み合わせてリーダーとしての資質を育むという、包括的なアプローチだと言えますね。
また歴史的な事例研究やシミュレーション、戦争ゲームなどを通じて、判断力や問題解決能力を高め、複雑な問題に対処するための独創的な解決策を見つける思考力を育成しています。その際に重視されるのが「批判的思考」のようです。ここでいう「批判的思考」とは、いわゆるクリティカルシンキングのことですね。米軍将校の教育に批判的思考が必要とされる理由は、現代の戦争や作戦環境がますます複雑化し、多様な状況に対して迅速かつ柔軟に対応する必要があるからです。軍隊は伝統的に上意下達の仕組みを持っていますが、現代の軍事作戦は、複雑で不確実な戦場環境に柔軟に対応するために、従来のやり方にとらわれないことが必要なので、批判的思考が重視されているのだと思われます。
また、トピックベースの教育から、具体的な成果を重視するアウトカムベースの教育にシフトしている点が特徴です。トピックベースとは、「何を学ぶか」に注目して、特定のテーマや内容を学ぶことが目的です。たとえば、算数の授業で「かけ算を学ぶ」と決めて、そのかけ算のルールや方法を教える感じです。一方でアウトカムベースは、「学んだ結果、何ができるか」に注目しています。たとえば、かけ算を学んで「買い物で合計の値段を計算できるようになる」といった、学んだことを実際にどう使うかが大事になります。
米軍では、幹部候補者が学ぶ内容が、実際の戦略や作戦に役立つように設計されているそうで、実務でその知識やスキルを応用できることを目標としているようですね。
米軍の将校教育システムを民間企業に応用するには
ではこうした米軍の教育システムは、民間企業でどのように応用が可能でしょうか。
まずはCDP(キャリアデベロップメントプログラム)を作ることですね。キャリアデベロップメントプログラムとは、社員がキャリアを通じて成長し続けるために、研修やスキルアップの機会を提供する仕組みのことです。昇進や役職に応じたリーダーシップ研修や資格取得支援、継続的な学習を促進するプログラムなどが含まれます。
続いては批判的・創造的思考の強化でしょうかね。社員が問題を柔軟に考える力をつけるためのプログラムを、CDPに盛り込むようないイメージでしょうか。そのうえで事例を使ったディスカッションや実践的な演習で、現実の課題に対応する力を養うことができるでしょう。余談ですが、サムソン電子の幹部教育では、自社の創業者や創業初期の経営者が直面した経営課題をケースにしたケーススタディをやっているそうです。他社や架空のケースではなく、我が社の実際の事例にそったディスカッションだと、リアリティが増して、学びに繋がりそうですよね。
まとめると、以下のような感じでしょうかね。
- 自社の経営課題に即したCDPを作り、その中で育成計画を立てる(どこの企業でもやっているような汎用的な研修をやるのではダメ)
- 批判的思考をベースにして、従来の考え方にはとらわれれない考え方を身につける
- 学んで現場で実践し、さらに学び直すのサイクルを業務やキャリア開発の中に埋め込む
こうやって端的にまとめてみると、米軍といえども、かなりオーソドックスな将校育成をやっているように思います。大学や民間に習ってシステムを構築したのかもしれませんね。