おはようございます!マネジメントオフィスいまむらの今村敦剛です。
政府の「新しい資本主義実現会議」で、中小企業への賃上げ波及を目指した5カ年計画が示されました。この中で、特定の業種に対する官民取り組みの目標と具体策として「省力化投資プラン」が示されました。製造業の「省力化投資プラン」を読んでみましょう。
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「中小企業・小規模事業者の 賃金向上推進5か年計画」 の施策パッケージ案
製造業「省力化投資促進プラン」i)目標
製造業の労働生産性を2029年度までに24%向上することを目指す(2024年度比・名目値)
この資料には、製造業の労働生産性の現状がいくらかは書いていませんが、「名目値」とあることから、これは名目労働生産性であることが伺えますね。名目労働生産性は、名目GDP÷就業者数で表すことができます。これがいくらかはちゃんと調べないといけませんが、だいたい以下のグラフのような感じではないかと思います。(2024年度中小企業白書より)

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_3_3.html
製造業については、この数値を2029年度までに24%伸ばす、ということですね。生産性本部が出している「日本の労働生産性の動向2024」によると、製造業の労働生産性上昇率は、前年度比-2.2%だったそうですので、これを5年で24%伸ばすというのは、ちょっと無茶な目標のように思えますね。どういう根拠でこの数値目標を立てたのか。
製造業「省力化投資促進プラン」ⅱ)課題と省力化事例
繊維工業、プラスチック製品製造業、食品製造業等の一部の製造業では、中小企業の割合が高く、労働集約的な業態であることから、全産業平均よりも労働生産性が低い状況。一方、ロボット導入による省力化やIoTシステム導入による稼働状況の見える化・稼働率の向上等の製造工程の効率化や会計システム導入による管理業務の効率化などの省力化の優良事例がある。
労働生産性は名目GDP÷就業者数なので、理屈の上では名目GDPを高める(付加価値を高める)という方向性がありうるのですが、この記述を見ると、あくまでも省力化(つまり分母である就業者数の減少や維持、または名目GDPの伸び率以下の伸びに抑える)にあるように思います。そしてその手段は自動化、IT化等による効率化、ということですね。
製造業「省力化投資促進プラン」ⅲ)省力化促進策
- 優良事例の横展開を具体化する施策として、中小企業省力化投資補助金、IT導入補助金や、「賃上げ」支援助成金パッケージ等の活用を推進する。また、現場のニーズに合わせた多品種少量生産に対応するロボットの開発支援を行う。さらに、ものづくり白書、中小企業白書において優良事例を紹介する。
- さらに、中小企業省力化投資補助金、IT導入補助金や、「賃上げ」支援助成金パッケージ等の活用を推進する。
で、具体的に何をするのかということですが、「補助金」「ロボット開発支援」「優良事例紹介」ということです。こういうのは既存の施策の延長線上の取り組みですが、これで本当に5年で24%も労働生産性を高められると思っているのでしょうか。
気になるのが「多品種少量生産に対応するロボットの開発支援」ですが、本当にそういうロボットの開発と実運用が、5年以内に顕著な労働生産性の伸びとして結果を出す程度にまでに可能なのか、という気もします。できたとしても、多品種少量生産対応は、人間のほうがコストが圧倒的に低いのではないかという気もしますが。
製造業「省力化投資促進プラン」ⅳ)サポート体制
施策の事業者への周知及び省力化に取り組む事業者のサポート体制について、複数の業界団体等を通じて情報提供を実施する。また、業界団体に属さない事業者に対しても、取引適正化の業界への働きかけや、特定技能制度を担う民間団体を通じた生産性向上等の条件付けなど、多方面からアプローチを実施する。さらに、食品製造業においては、食品企業、機械メーカー、研究機関等から構成される「食品企業生産性向上フォーラム」を通じて、施策情報をきめ細かく発信し、トータルでサポートする体制を構築する。
「複数の業界団体等を通じて情報提供を実施」というのは、おそらく商工会・商工会議所や中央会や、各工業会などを指しているのではないかと思います。こういうところを情報発信源にして生産性向上施策を啓発していく、というのも、現行のやり方と大きな違いはありません。
「食品製造業」に焦点が当てられているのが一つのポイントですね。役所は「食品製造業」の生産性向上に大きな課題を認識していることが伺えます。(まあ食品は単価も低いわりには労働集約的な仕事ですからね)
製造業「省力化投資促進プラン」ⅴ)主なKPI
2025年度から2029年度までにおいて、IT導入補助制度活用件数を年平均7,500件以上とする。2030年までに「食品企業生産性向上フォーラム」会員企業数を9,000社とする。
これがKPIというのはわかるが、これだけでは目標である名目労働生産性が5年で24%増との因果関係が弱いように思います。補助金活用件数やフォーラム会員企業数が増えても、個々の導入効果が小さければ全体の生産性は上がらないだろうに。
「2022年経済構造実態調査」 一次集計結果 産業横断調査(企業等に関する集計)によると、製造業の企業数は2022年時点で24万社くらいなのですが、そのうち7,500件と9,000社というKPIはカバー率が低い気がします。目標の24%向上には、KPIのスケールが小さすぎませんかね。
また、KPI達成(件数・会員数)→一定の投資実行→個別企業の生産性向上→全体平均24%向上、という中間ステップの定量目標やモニタリング項目がありません。そのため「KPIを達成がKGIの達成に近づく」という論理が不十分で、飛躍が生じています。
まあ「主なKPI」なので、これ以外にも何かあるのかもしれませんが、これだけ見るとまるで素人が作ったやる気も中身もない目標です。