恥ずかしながら僕は、これまでのコンサルタント経験で、クビになったことが何度もあります。優秀なコンサルタントとはほど遠いのでしょうね。。
公式ブログで弱音を吐くなんて……と思われるでしょうが、クビになったのは事実。その経験を活かしてこそ成長がある!とも思うので、ここでしっかりと内省をしておきたいと思います。このテーマでブログを書くのは2度目ですが、今回は「社長の逆鱗に触れた」という内容です。
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食肉加工業を支援していた時のこと
僕が食肉加工業の小売部門を支援していた時のことです。その部門の大きな課題は、下がり続ける売上高にどう歯止めをかけるかということでした。マクロ環境としては、少子高齢化が進展すれば"国民の胃袋"は小さくなる一方なので、食肉の需要は下がります。そのトレンドに歯止めをかけなければならないというので、これはかなり難しい話であり、いろいろなことを試さなければと僕は思っていました。
小売での売上拡大方法には、確立されたセオリーがいくつもあります。例えば、売れ筋の在庫切れを防ぐことがその一つです。売れ筋商品が在庫を切らすということは機会損失になります。売れ筋商品の在庫切れがないよう、データを取りながら、最適な在庫量を求め続けることが肝要です。教科書の上ではね。
ですから僕は、売れ筋商品である部位の在庫量を増やし、陳列場所や方法を見直すべきというアドバイスをしていました。
「肉のことに口を挟まないでほしい」というトップ
ところがその企業のトップからは「肉のことには口を挟まないでほしい」と、苦言を呈されました。僕はとても戸惑いました。というのも、小売業で売上を高めるには、商品の幅や量をどうするかを考えることは避けられないからです。教科書的にはですよ。
でもトップの意向としては、肉の世界は普通の小売品とは異なる独特なルールがあるので、それを知らない人に介入をしてほしくなかったようです。例えば、売れ筋商品である部位だけを増やすというのは、なかなか難しいのです。肉は工業製品ではありませんし、嗜好品でもあるため、特定の部位の確保というのが難しいのです。例えば、ヒレやロースといった部位は確保が難しく、もも肉やリブ・肩といった部位はあまりがちです。特に枝肉で仕入れをしているような場合は、ヒレやロースといった売れ筋部位を確保するために枝の仕入れを増やしてしまうと、それに付随して、死に筋の部位の在庫も増えてしまうのです。
もちろん、トップが言いたいのはこれだけではありません。これまで数十年にわたってプロとして培ってきたノウハウを、事情も知らないコンサルタントがかき回したのは面白くなかったのは、容易に想像がつきます。
「もう辞めてくれ」と一喝
あまりに僕のやり方の度が過ぎたのか、ある時トップに「話がある」と呼ばれました。その場で「もうこれ以上、肉のことに介入はしないでほしい。辞めてもらう」と、厳しく一喝されました。ある程度覚悟していたとはいえ、僕は「売上減少の歯止めをかけるのに、商品に手を出すなと言われても、どうしようもないじゃないか……」という納得行かない気持ちもありました。
コンサルタントは経営者ではない。コンサルタントの役割は経営者のビジョン実現を支援すること
納得行かない気持ちがありながらも、どこかで目が覚めたという思いもありました。確かにこの会社の課題は売上の拡大でした。しかし、コンサルタントである僕は、この会社のトップではないのです。課題を解決するためには何をやってもいいということはありません。同時に、コンサルタントの役割は、経営者のビジョン実現を支援することだとも気づきました。経営者の意向に反するような助言するということは、受け入れられなくても当然です。当たり前のことですが、僕なんかよりも経営者は業界・市場のことをよく理解しているのです。その経営者の「眼」を信じずに、単に教科書で学んだテクニック披露することは、その企業の経営力向上には何の訳にも立ちません。
経営者の理念をとにかく聴き、理解して、その軸を決してブレさせない
仕事はクビになってしまいましたが、それから僕は、教科書で学んだようなセオリーを、頼まれもせずに披露することは一切やめました。どういう会社にしていきたいのか、どういう方向性を持っているのかという経営者の理念をとにかく聴き、理解して、その軸を決してブレさせないことに、精神と時間をいっそう費やすようにしました。
経営者の理念からブレないようにするというのは、現場の人たちと接する上でもとても重要です。先の会社では、「肉のことを知らないものに口を挟まないでほしい」という経営者の意向と、「そうは言っても肉のことを触れずに売上は拡大できないだろう」という僕の意見との間に、現場の人たちは明らかに戸惑っていました。こういうズレがあると、コンサルタントが言っていることがいかに正論であろうとも、現場の人たちは動けません。現場の人たちが動けない助言というのは、まったく無意味なのです。
コンサルタントの役割は、やみくもに助言をするのではありません。